John
2020-10-26 12:38:59
1472文字
Public 音楽家
 

栗より旨い……?

殺意が欠席中の、カルデアの二人。
二人の会話内に名前が出てくるだけの脇役がちらほら。
ちなみに、由来は諸説あります。

「サリエリ! 十三里を買ってきた!」

とびきりに笑顔のアマデウスは、サリエリと今や二人で寝起きしている私室の扉を開け。
開口一番にそう言った。

「なんだ、また旅行にでも行こうというのか?」

違う違う!
と、訝しむサリエリに答えながら。
アマデウスは紙袋からはみ出す、縦長の紫色を抱え直し。
サリエリの隣に椅子を移動させ、座る。

「甘い芋を遠赤外線で焼き上げた、焼き芋とも言われるスイーツさ! 栗より旨いから、だそうだよ。九里四里で十三里って洒落ているよね。マスターが懐かしがったところから話が始まったそうだけれど」

手袋をしたままの手で、芋を一つ、しゃべりながら彼は摘まみ出す。
なかなかどっしりと重いそれは、中まで火が通り、皮は少し焦げ目がついて浮いている。

「ダ・ヴィンチが食感の違うサツマイモを品種改良して数種類用意して、石窯ならぬ万能窯で焼いたのさ」

ほくり、と。
アマデウスの手の中で力を込められた芋は。
真ん中から二つに割れ、黄金色の断面と湯気を見せる。

「それを、北斎がそりゃあ美味そうな看板を書いて、購買部で販売しだして、今カルデアいちのホットなトレンド。毎日あっという間に完売する人気スイーツだ」

割ったうちの片方を差し出し、もう片方の断面を物珍しそうに観察しながら。
アマデウスは言う。

「僕はそいつをすかさず買ってきた訳だ、君の分もさ」

サリエリは、素直に差し出されたそれに手を伸ばす。
甘い香りは、好物の予感で満ちていた。

「みろよ、ねっとりタイプの蜜入り芋。香ばしい焦げ目の匂いがまた、たまらないね。匂いだけでも腹が減るよ。あつあつだ」

すでに最初の一口を咀嚼し、飲み下す前からまたしゃべりだした神才に続き。
サリエリも一口目を食べる。

「これは、旨いな。知識としてはあるようだが、食べるのは初めてだ」
「僕らの生きていた頃、こちらの地方にはなかったけれど。本当に旨い」

 二口、三口と口にすれば。お互いに笑顔が溢れた。

「こんな芋だけ焼いてとろーり甘くなるなんて。アジア圏の品種を再現してみたんだってさ。僕らが知ってる芋はこうじゃないもの」
「確かに、しかしこれは……バターが欲しいな」
「君なぁ、わからないではないけれど。うーん、今度キッチンに行って訊いてみようか」

話をしながら、二人は熱くねっとりとした黄金色にかぶりつく。
口の中が火傷しそうなそれに触れて。
吐き出される息が、熱い。

「君、栗とかの味、好きだろ。こいつはそれより旨いんだぜ」
「さあ、違う味と言えば違う味だからな、なんとも」
「また君はそういう」

はぐらかすように言って、また一口咀嚼するサリエリに。
アマデウスは頬を膨らます。

「旨いっていわれているんだから、そうなんだ。いまはかつてと違う甘さの、過去よりずーっと甘いものを二人で食べている。いま、こういうのも。こういう甘さも悪くないだろ?」

そこで、神才の瞳は少し曇った。
妙な自信のなさが覗く。
今を共有し、彼を所有し、かつてではないものになった関係を占有しながら。
はにかむ若者のように、急に手を引っ込めて遠慮する時が、アマデウスにはある。

「なあ、悪く……ないだろう。こうして二人で居られる今ってさ、サリエリ」

それでも、アマデウスは。
今が一番だと言って欲しそうに、そう言葉を紡ぐ。
サリエリは、甘い蜜芋を飲みくだし、口元に微笑みをうかべて。
しばらく沈黙した。
そのためらいの後。

……そう、だな」

と、それだけ言った。