John
2020-10-24 12:40:22
994文字
Public 音楽家
 

まどろみの淵にて

カルデアの二人。
個人の独自解釈詰め。

珍しく眠っている、恋人のアマデくんを見かけたサリさんは……。

金の睫毛が縁取るまぶたは、今、しとやかに閉じられ。
薄い唇はぴったりと引き結ばれている。
それらが開いている時の喧騒や雄弁さは嘘のようだ。

部屋は貴族の館にも似た、艶やかな布地と装飾で満ち。
穏やかな日差しが、ラウンドトップの付いた窓から入り込み。
白いピアノがある。

疲れたのだろうか。
神に愛されし天才音楽家が、珍しく麗しい寝顔を晒している。
最近は電子機器を使いこなしていることも多い男だが。
今はまるで、そこだけは在りし日のように。
ロールトップデスクに書きかけの五線譜が広がり。
インク瓶とペンが転がっている中に、アマデウスが突っ伏して居眠りをしていた。

後ろに束ねられた長い金髪は。
幾束かほつれて、金の糸は緩やかなカーブの線を、白い頬に描いている。

本当に人形のような、綺麗な男だ。

アマデウスから提案され、会う予定があり。
部屋を訪れたサリエリはそう思う。

おそらく、待っている間に自信作を思いつき、それを書き出すことに集中して。
約束の時間には疲れて眠ってしまっているという状況だろう。
サリエリはそう見て取った。
相変わらず困った男だ。
彼はそう思う。

茶色の磨かれた革靴は、足音を抑えて。
側に歩み寄る。

そして、サリエリはじっと神才の寝顔を眺めた。
白いネックコルセットで守られた首筋に、黒い手袋をした手が伸びる。
その手は、緊張にこわばり、かすかに震えている。

今なら殺せる。

おまえは我が存在意義。
殺すことこそが。

今となっては、それは本能的欲求に似ていた。
『それ』は、伝説の中にある、吸血鬼にも似ている。
最愛の相手の血でしか命を繋げないとして、その首筋に牙を突き立て啜るのか。

「違う、私の、望みは……

サリエリは、目元を手で覆い。
大きく息を吸い、吐き出す。
そうして、黒い手袋の霊衣を解いて。

眠っているアマデウスの頭を、愛し子にするように。
ゆっくりと撫でた。

まさに絹糸の手触り、なめらかな髪の感触を手のひらに感じ。
頬を指の背で触れれば。
暖かな肌は、相手がしっかりと生きていると示してくれる。
それを指先に味わってから。

しばらくして、男は扉の開閉に気を使って、極力音をたてずに去って行った。

神才の背には、椅子に掛けられていた彼自身の黒いコートが。
背を守るように、包み込むように掛けられていた。