John
2020-10-17 01:48:03
2468文字
Public 音楽家
 

星屑シロップ

カルデアの二人。
脇役がたくさん出てきます。
まさかのアマデウスさんのみ出演ですが。
アマサリしているはずです。
いつ頃のカルデアかはざっくりと考えてください。
食堂の営業が再開した頃のカルデア

「ダ・ヴィンチ、薬をもらいに来たんだけど。もう出来てるかい?」
「あれ、アマデウスさん」
「やあ、マシュ。話のさなか、お邪魔して悪いね」

ここは、カルデア技術顧問の工房兼私室。

「いいえ、ダ・ヴィンチちゃんとお茶をしていただけなので」
「そう、ならよかった」

ダ・ヴィンチとマシュが話をしているところに、マシュからすれば割って入ってくることは珍しいサーヴァントが現れたのだ。

「ペースが早いね。薬ってのは基本的に、勝手な連用・多用は禁じ手だよ」
「ん〜……まあでも、服用しているほうが調子いいみたいでさ」
「緊急的にじゃなく常時使うなら、その用途で調整しなおしてみようじゃないか」

聞き捨てならない『薬』という単語に、思わず不安が募り。
マシュはつい、悪いと思いながらも二人の会話を遮り、尋ねた。

「アマデウスさん、何か病気なんですか!? そんな……
「違う違う、この通り死んでいるけれど元気さ。そうじゃなくて」

そこまで言って、ふと気づいたように言葉を切り。
アマデウスは片眉をしかめて考え込む。

「あ、いや。そうかな。大昔っからこれに付ける薬はないって」

そこから先は喋らせない、というように。
ダ・ヴィンチは、星屑のように鮮やかなオレンジ色の欠片が詰まった小瓶を、ずいっと卓上に押し出す。

「こいつがある意味、それに付ける薬じゃないか。早くもっていくといい。マシュには刺激が強すぎる」
「あはははは、違いない。じゃあ……その。説明は頼むよ」

アマデウスは、へらへらと笑顔を浮かべ、卓上に差し出された小瓶を白手袋の手にとり。
あっという間に部屋を出て行ってしまった。

「あの、すみません。今のは」

アマデウスの去って行った方からダ・ヴィンチに視線を戻したマシュは。
未だ不安を顔ににじませたまま、重ねて聞いた。

「ざっくり荒っぽくいえば、金木犀の花のシロップ漬けさ。サリエリが口にしやすいのは砂糖漬けか、何か甘いものだろうって。話合いでそうなってね」

一拍置いて、言葉の意味を飲み込んだマシュは、口を開く。

「じゃあ、今のはサリエリさんのお薬なんですか?」

そのマシュに、少し迷ってから。
ダ・ヴィンチは落ち着いた口調で言葉を紡ぎ始めた。

「そう、二人が一緒にいる時間を稼ぐための鎮静剤さ」
「!?」
「楊貴妃は二人と一緒に、三人でアンサンブルした際に、音でわかったそうだ。『こんな情熱的な音で互いを求め合うお二方はさぞ熱烈な恋人同士であらせられるのでしょうね』ってうっかり素直に聞いたそうだ。そしたら否定やはぐらかししか二人からは返ってこなかった」
「あっ……

マシュは、思わず眉をしかめてさもありなんという顔をした。
思い当たる節があった。
殺意と憎しみ、恨みしかないという口ぶりの二人に違和感を感じていたのは、彼女もそうだったからだ。

「清姫とかも気がついていたそうだよ。そういった機微に聡い子だし、なにより彼女は嘘がわかる」
「それで……どうなったのです?」

マスターや自分が、微小特異点の解消に奔走している裏で、カルデアにそんな事件があったとは。
マシュには初耳だった。

「女性陣の一部で、アマデウス本人を捕まえて追求したそうだ」
「えぇ……
「『好きな相手をあんな状態で放置しておくのは何事か』って」

マシュは、その時の様子を想像して、さすがにアマデウスのことが可哀想になった。

「ある意味、辛い展開ですね、アマデウスさん」
「まあね、自業自得といえばそれまでさ。相当のらりくらりと否定して誤魔化して逃げ回っていたらしいけれど、とうとう観念させられて。重要なのは二人が話し合える時間だって事になったらしい」
「でも、そうなるとお二人には問題が。あ、それでその『薬』を」

そこで、ダ・ヴィンチはマシュに向けてニヤリと笑った。

「いきなり地下の野菜生育プラントに、金木犀を植えさせてくれって。マリーと楊貴妃が一緒に頼みこみにきた時は何事かとおもったさ。一度は余剰リソースなんてないって断ったけれど。理由を聞いたら恋が成就する薬をつくる、と来たもんだ。食堂の営業が再開できるほど、余裕ができた今、晴れて許可を出した訳だけれど」
「あの地下プラントへ行くと、最近急にいい匂いがするようになったと思ってはいたんです。それに近頃ずいぶんと花実の付いている木が増えたような」

地下の植物プラントは、無機質なカルデア内で現実の大地を実感できる数少ない場所だ。
マシュにとってもお気に入りの場所の一つであった。

「そうそう、花の許可を出したら。林檎を桃を、ライチを甜菜をときたもんだ。こちらとしては赤兎馬の注文に耐えうる人参の品種改良がおわったとおもったら今度は果樹園さ。まあそれはまた別の話だ」

カルデアの天才技術顧問は、そう言うとお茶目にウインクしてみせる。

「アマデウスはそういう、自分の事情を開示して、広く助けを求めるのは苦手っぽいからね。甘えたな弟属性のくせして、生前で懲りたのかどうなのか。対して、他人に甘えたり働きかけて、動かすことが得意なほうだろう楊貴妃は。マリー王妃もそうだ」

ダ・ヴィンチは笑みを深めながら、その時の様子を思い出しているようだ。

「ベースとなる桂花醤は楊貴妃のお手製だそうだよ。彼女にとって恋の特効薬を作るのに、金木犀が扱いやすい素材らしい。そこに、今やこのカルデアに集まった医神やら伝説級の錬金術師や神代の魔女やらがよってたかって関わるんだから効かない訳が無い。逆に不安になるぐらいだけれども! もちろん万能の天才も調整に骨を折ったさ。まあ、今のところ問題はなさそうだね」
「じゃあ……お二人は」
「と、いうわけで。アマデウスに演奏を頼みに行く時は、ちゃんとアポイントメントをとって、ノックを忘れずしたほうがいいぜ。マスターにもそう念押ししておいてくれ。あの二人、今じゃ私室を一つにして二人で一緒に寝起きしているそうだから」