Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
John
2020-09-13 01:31:25
3755文字
Public
音楽家
Clear cache
至高天
カルデア。
ロストベルト、オリュンポスクリア推奨。
なんでも許せる人向け。
この先がさらなる地獄(周回過労死)なら、サリエリさんだけでも救いたいアマデウス。
腹の底から、他人の一部を受け入れた名残が熱い。
そうサリエリは感じた。
魔力が、回る。
脊髄から脳の奥に。
痺れるように。
サリエリにとってはもはや慣れた、神才との逢瀬のあとの覚醒。
「やあ、おきた?」
アマデウスは一糸まとわぬ裸のままで、ディスクに座り。
壁にはめ込まれたディスプレイで、何やら映像を視ていたようだ。
彼の目の前には書き殴られた五線譜がある。
古風にもインクで書かれ、まだ乾いていない艶やかな黒のおたまじゃくしが何匹も何匹もいる。
「ふふふ、キスマークいい眺めだね」
アマデウスはオフィスチェアをくるりと半回転させ真後ろのサリエリを向いて、言った。
サリエリは
……
彼も全裸だが
……
ベッドから半身をおこして答える。
「服を着ろ」
その不機嫌で端的な一言に。
神才は他人の神経を逆なでする甲高い笑い声をあげ、文字どうり腹を抱えて笑ってから、涙を拭いつつ言う。
「いいじゃないか、どんな服よりセクシーだろ。君の歯型しか身につけていない僕は」
そして、オフィスチェアから立ち上がると。
「そうだ、ちょっと付き合って」
アマデウスは、いつもの黒い外套すがたに霊衣を整え、サリエリの手を引く。
合わせて、サリエリも慌てて霊衣を紡ぐ。
「サリエリ、宇宙旅行しよう」
そう言って、二人がたどり着いたのは。
「ただのシミュレーターに作成したコンサートホールだぞ」
「そう、ここはシミュレーター内に再現したホール」
がらんどうのホールに。
アマデウスの使い魔がオーケストラの様相を整え待機しており。
アマデウスは指揮台の上。
サリエリはひとりぼっちで客席だ。
「宇宙旅行ではないのか、説明しろ」
サリエリはアマデウスによく通る声で疑問を投げる。
アマデウスはそれに答え、声を返した。
「ホルスト作曲、組曲『惑星』の演奏」
アマデウスは、なんでもないように言った。
サリエリはますます眉をしかめる。
「抜粋か?」
「僕は作者が明言してるなら、そんな野暮しないさ」
アマデウスが唇を尖らせ、拗ねる。
「二次創作はOKって作品しか手を出さない。きらきら星変奏曲とか、君の『ヴェネツィアの定期市』とか」
その拗ねた声音に、サリエリは低く鋭く釘をさす。
「サリエリが許可した覚えは、我にはないが」
客席から、苦々しげに声を張る。
「わーお、記憶障害かな。ざんねんだなあ。駄目って言われた覚えがない」
アマデウスも。
指揮台から今度は声を張った。
「じゃあ、音楽魔術的な見解を示そう」
いつの間にか彼の手元に指揮棒がある。
ちょいちょいとわき見をしながらずいぶんおざなりに彼がそれを振ると、オーボエから慣れた調子でオケ全体が順次音を出し、音合わせを始めた。
「この曲は、ね。ダンテの神曲、天国編と同じ。天動説に基づいた天球を仮想し、七階層の天を経て至高天へ登り至るための音楽魔術。だから、一つだけ抜粋して演るなんてナンセンス。って、作曲者は言ったのさ。魔術として意味がないって。ある意味の、天国行きの祈りを込めたレクイエムだ」
今や、音同士が、溶け合うハーモニーで空間に満ちている。
違う楽器の音の波が、うねらず、美しく、和合する。
「でも、一般大衆向けってレベルにはしてある。ガチの奇跡が起こったら曲自体が封印指定
……
ところが僕は天才で、アニムスフィアの魔術を視て、なんかすごくひらめいちゃったから」
どうやら、先ほど部屋で見ていた画像は。
先の異聞帯のライブラリ映像らしい。
「君にだけ聴かせてあげる」
演奏が始まる。
客席はサリエリ一人。
戦い、平和、翼ある使者、快楽、老い、魔術師、神秘主義者。
楽器編成および全てが遵守され。
演奏はきっちり、作曲者の指揮と同じ終了時間。
そうして、フェードアウトする女声合唱が終わってから。
気がつけば、ホールの様子は様変わりしていた。
七つの帯、七色の円環となって。
天使がまわり、羽ばたいている。
アマデウスが音楽魔術を戦いの際に発動させると。
背中に輪となって浮かぶ七色の五線譜のようだ。
ただ、大きさがケタ違いで。
輪のひとつひとつはアマデウスの楽団、首無し天使が数百匹も群れて円を描いて飛び。
ムクドリもかくやという集まりが線を作り、輪になっている。
その中心には、聖杯の開けた穴のような『虚空』から。
まばゆい光が漏れ出ている。
明らかに、尋常ではない。
渦巻く魔力も。
「舞台に上がって」
演奏は終わったはずのアマデウスは、礼もせず拍手も求めず。
客席のサリエリになぜか言葉を投げた。
サリエリは訝しみながらも、一旦外装をまとい。
ひとつ飛びに舞台へあがる。
「さあ、続きは君が振って」
「続き、だと?」
上がってきてスーツ姿を晒したサリエリの、手袋の手に。
指揮台からおりたアマデウスは、半ば無理やり自分の指揮棒を握らせた。
「八曲目だ」
アマデウスはしれっと言った。
サリエリは驚く。
「なぜ
……
?」
「僕が作ったんだぜ? 聞かせてくれよ、君が振って」
「変更はないと」
「いやあ驚かせたくて」
「
……
駄目だ」
「なんでさ? 演奏は僕の楽団、君はその、渡した僕の指揮棒を振ればいい。それだけでいい」
「アマデウス、何を目論んでいる」
「なんだよ、そんなに僕って信用ない? 日頃の行いか」
「どうした、何なんだ、これは」
サリエリは真剣に問い詰めた。
アマデウスは、笑みを深めてただ笑っていたが。
いくら待っても相手が行動をおこしてくれないと悟ると。
ため息をついてから。
「僕の、精一杯の。君のために作った至高天行き切符だ」
と言った。
「君はこれ以上、この地獄に囚われなくても。僕のわがままなんて無視してくれよ。天国にいる資格のある魂だ。君は天国の幸福のなかで
……
蜂蜜色の瞳で笑っているのがよく似合う」
そして、サリエリの手の中にあるアマデウスの指揮棒を。
握り直させるように。
サリエリの手ごと外側から彼の手が包み込んだ。
「ここから先は、君の永遠の恋人は一緒に行けないんだ」
それを聞いた瞬間。
サリエリは激高した。
「八番目など要らぬ!」
アマデウスは、わかっていたように、涼やかにそれを見ている。
「この曲に付け足しなど要らぬ! 編曲も変奏も許さぬ。凍土で永久に終わったままの形で凍りついていればいい! 変わることは許されぬ」
叫び、掴みかかり、肩をゆすって訴えるサリエリを。
少し悲しそうに。
眉をひそめて。
神に愛されし男は見つめている。
「私は、我は。おまえを、おまえを! 諦めるなど」
緑に銀の瞳と、今や金が消し飛ばんばかりに赤が燃える瞳が見つめ合う。
「殺すことを諦めるなど。いつまでもおまえを
……
ぁ!」
ブツッーーーーーザーーー
ザザーーー ザーーーーーーー
暗がりが目の前を支配して。
海鳴りのようなノイズ音がサリエリの耳に聞こえた。
暗転、無明と肌感覚の喪失。
彼が感じたのは、体感にしてほんの数秒で。
腹の底から、他人の一部を受け入れた名残が熱い。
そうサリエリは感じた。
魔力が、回る。
脊髄から脳の奥に。
痺れるように。
サリエリにとってはもはや慣れた、神才との逢瀬のあとの覚醒。
「やあ、おきた?」
アマデウスは一糸まとわぬ裸のままで、ディスクに座り。
壁にはめ込まれたディスプレイで、何やら映像を視ていたようだ。
彼の目の前には書き殴られた五線譜がある。
古風にもインクで書かれ、まだ乾いていない艶やかな黒のおたまじゃくしが何匹も何匹もいる。
「ふふふ、キスマークいい眺めだね」
アマデウスはオフィスチェアをくるりと半回転させ真後ろのサリエリを向いて、言った。
サリエリは
……
彼も全裸だが
……
ベッドから半身をおこして答える。
「服を着ろ」
その不機嫌で端的な一言に。
神才は他人の神経を逆なでする甲高い笑い声をあげ、文字どうり腹を抱えて笑ってから、涙を拭いつつ言う。
「いいじゃないか、どんな服よりセクシーだろ」
『サリエリ、いいの?』
「君の歯型しか身につけていない僕」
『もう八百八十六回目だよ』
ああ、これは
……
我が妄執のアマデウスだ。
サリエリは副音声のように聞こえた声をなぜか理解した。
今、聞き慣れた言葉と同時に、透かし硝子のように重なり聞こえた同じ声色の言葉は。
自らの意識がもたらした内側からの幻聴。
アヴェンジャーの自分には、本当はループがわかっている。
おそらく、可能性が収束しすぎたせいで。
過去も未来も本来ない上に、忘却補正のあるサーヴァントの記憶から時間経過が抜け去り。
同じような記憶とも未来視とも、今ともつかないモノを幾度もループして『視て』いる。
幾度目かわからない理解をして。
サリエリはうっそりと笑った。
そのくちびるが、開いて、愛する男へ言葉を紡ぐ。
「良い、神の座も寂しく閉じた箱庭なら。その鍵など何度でも捨ててやる。おまえだけが我と共にいるならこの停滞が天国だ」
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内