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John
2020-08-21 19:51:31
2030文字
Public
音楽家
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夏の魔物
年齢操作あり、キス程度の全年齢むけ内容。
独自設定パロディ。
アマデくんが狼耳しっぽ。
サリさんが猫耳しっぽの獣人です。
背の高い向日葵が無数に花開くその場所は。
幼い子供たちを外から覆い隠すことが出来るほどには広さと密度があった。
「もう、行ったかな
……
」
ひそめた声で、吐く息に混ぜるような小ささで私は口にする。
「ダメだ、サリエリ。まだ足音がする」
同じような小声で彼が言う。
向日葵畑の中、私たち二人はしゃがみ込んで体を寄せ合っていた。
彼の小麦畑のような毛並みの尾が、怯えたように私の体へ寄り添う。
同じ毛並みの耳が少し震えている。
彼の耳は片方はぴんと立ち、もう片方が力なく垂れていた。
会った初日に怪我かと思い案じて訊いたが、生まれつきなのだそうだ。
怪我をしたり、不安がっている相手をなだめる本能で。
つい私は震えるアマデウスの頬を舐めた。
金の髪を割って、頭を出している耳も毛並みにそって舐める。
ぴちゃ、くちゅ、と水っぽい音が立ってしまうが、自らの不安も本能を駆り立て止まらない。
手をとり、相手の体を抱きしめて、灰色の猫の尾をアマデウスの足に絡める。
アマデウスは驚いたように目を見開いたが。
やがて、おずおずとこちらの頬を舐め返してくれた。
そうする間にも、私の耳にもはっきり捉えられるほど。
乾いた藁を踏むような足音と、向日葵の緑をかき分ける大人の気配が近くを通っていた。
どれだけそうしていただろう。
「いなくなった?」
「
……
みたいだ、音が遠くに去った」
長い時間ののち、ようやく他人の気配が去って。
互いをなだめあっていた私たちは。
緊張をといてため息を吐いた。
当時、『狼人』と『猫人』
……
『おおかみびと』と『ねこびと』は戦争の真っ只中であった。
向日葵畑の向こうには高い壁があり、互いの住居区をぐるりと囲い、別けている。
この向日葵畑は景観の為のものではなかった。
種が出来たら、絞って油にされる。
アマデウスの一家は音楽家で。
特別に旅券が出て外国人向けのホテルへ宿泊しているらしいが。
本当は外出許可などでていないらしい。
それどころか、一日中ピアノの練習をしていなければならないのに。
アマデウスはサボってこの、ホテル裏の向日葵畑で遊んでいるのだ。
そうして、私と出会った。
出会ってすぐ、私たちは仲良くなった。
「僕たちは大人になったらどうしているだろう」
ぽつりとアマデウスはつぶやいた。
彼は、恐怖で抱き合っていた体を放し、服に泥がつくのも構わず寝っ転がって空を見た。
「君の誕生日は夏だそうだね」
「ああ、そうだ。数日前に過ぎたばっかりだ」
私は答える、八月十八日
……
覚えやすいといえば、覚えやすい。
「もう、僕。明日は遊べないかもしれない」
「そう、か
……
」
いつかはその一言があるだろうと思っていた離別。
あっという間に訪れたそれに、胸に何かが刺さったような、ちくりとした痛みがあった。
私はもう、彼のことを親友だと思っていた。
「サリエリ、二十歳の君の誕生日にもう一度会おう、太陽が一番高い時刻。大人になったら、君に会うことだってきっと自由にできる」
「それは良い、なんて素敵なんだ。この、向日葵畑で。会おう、絶対にもう一度」
私は、考えもしていなかったアマデウスの提案に、嬉しくなって笑顔で約束した。
今、思えば、まるで夢物語の約束だ。
それがどんなに果たすことの難しそうな、楽観的な希望か、年を重ねるほどわかってしまう。
しかし、その時は果たせないと思いながら頷いた訳ではなかった。
当然、時が経っても、何もかも変わらないと疑わなかった。
太陽が最も高く、天から日差しが降り注ぐ時。
私たちは再会の約束をした。
二つの種族を分ける壁はもうない。
向日葵畑も、だからというわけではないだろうが。
もう存在しなかった。
アスファルトで舗装された道に立つ私の目の前には、近代的な建物になって一回り大きなビルディングとなった、老舗ホテルがある。
「さすがにそんな事は、ない、か」
今日は、私。
アントニオ・サリエリの二十歳の誕生日だ。
この機会に、ちょっと田舎へ帰省する気になっただけだ。
期待していた訳ではない。
全く望まなかった訳でも
……
ない。
だが、これでともかく私は幼い約束を果たしたのだ。
来なかったのはあちらだ。
安堵とも寂しさともつかぬ息を吐いて。
元は向日葵畑であった場所も飲み込んだ、チェックインしているホテルのロビーへ戻ろうとする。
「やあ、君。誰か人をお探しかい? 僕も実は人を探していてね。君みたいな猫人なんだが」
その声に、どきりと心臓を跳ねさせながら。
言葉の主を確かめる。
その狼人は片耳が垂れていた。
小麦畑のような毛並み。
艶やかな金の髪は、ずいぶん長く伸ばされていて。
背中には、黒いケース
……
形からして、もしやギターだろうか。
彼の口元が、三日月の笑顔を形作る。
覗いた犬歯が、真珠のように白く滑らかに輝いた。
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