John
2020-08-02 00:28:29
1807文字
Public 音楽家
 

スターマイン

カルデアのアマサリ。
殺意は不在ぎみ。

天使のような使い魔が、船の舳先でスピーカーの代わりをしている。
他の船も、様々な大きさのものが川面に浮かんでおり。
三人、四人、時には十人ほどの団体が船の中から空を見上げている。

その視線の先には、大輪の光の花……花火だ。

アマデウスとサリエリも、浴衣に着替え。
二人っきりで小舟にのりこみ、納涼と洒落込んでいた。

「船頭がいなくても大丈夫なのだな」
「動きは制御してあるってさ」

サリエリは川面に視線を向け、水面に映り込む輝きを見ているようだ。
散っては上がり、また広がる、輝き。


ことの発端は一ヶ月ほど前に遡る。


「わあ、サリエリが白くてどろっとしたものを食べてる!」
「その迂遠な言い方に悪意の響きを感ずるぞ、アマデウス。見ればわかるだろう。ヨーグルトを食していただけだ」

そう言いながら、スプーンで掬い。
美味なる乳製品をもう一口食べて。
サリエリはいきなり食事中の相手に無作法を働いた男を睨む。

「で、何事だ急に。我が食堂での至福を妨害しに来たか。アマデウス、貴様という男は……!」

今すぐにでも外装を纏そうな雰囲気だ。
サリエリの体の周囲に闇が立ち登り、ゆらめいている。

アマデウスは慌てて手をパタパタさせながら、早口で捲したてる。

「まった、たんまたんま。ステイ、堪えてくれサリエリ。仕事の話を持ってきたんだ。こんど、シミュレーター内でカルデア大花火大会をやるんだ。そこで、ミュージックスターマインってのもやろうって」

サリエリは不信を声音に残したままだが、それを聞き。
とりあえず律儀に話の内容を把握しようとする。

「ミュージックスターマイン……だと?」
「そうそう、音楽に合わせて花火を打ち上げるのさ」

これ幸いと、アマデウスは続けた。

「マスターが、日本にいた頃の話を何人かで聞いていたんだけれど。友人たちと花火大会に行ったことを、ずいぶん嬉しそうに懐かしんでいてさ。それじゃあカルデアでも花火大会をしようってことになって」

しかし、サリエリの不機嫌はここで小爆発する。

「それで、なぜ作曲せねばならぬ」

サリエリは苦虫を噛み潰したような顔で言い放つ。

……貴様たちだけで勝手にすればいいだろう。凡才の曲など」

だがアマデウスは、この程度で怯みはしなかった。

「その場に、あのジャパニーズサムライ……ご老人のほうの。名前なんて言ったっけ、まあいいや。ともかく彼もいてさ『新進気鋭、その儚さを惜しまれた天才と。現在まで続く基礎を築いた大家。その競い合いを川面から見ることがもっとも風流であるとの事。それを見てみたいもの』『少しの罪悪感と言おうか、寂寥、郷愁と言おうか……仕方なしとはいえあれは惜しかったと。口にできることも、またかるであならでは』とかって。その一言でその場でもりあがって。もう僕と君の対抗戦も催しとしてやるって決まっちゃったから」

拒否権はない、もう決まったことだからという方向性でアマデウスはゴリ押す。

「川の両岸で順番に打ち上げて、船も出すってさ。まあシミュレーションだけど」

結局、押し切られてサリエリは曲を作った。
そうして二人の曲に合わせて、ダヴィンチと北斎が合同で、シミュレーター内の花火のデータを作成した。



今はサリエリの作成した楽曲に合わせて、花火が打ち上げられていた。
まさかの、ギターサウンドが爽やかな現代風ミュージックだ。
幸いというべきかなんというべきか、録音にエリザベート嬢の歌が入っていたりすることはない。

「君さ、ほんと、どこでこういうの覚えてきたの」

アマデウスは嬉しそうにニヤニヤとしている。

……

サリエリは無言だ。

「しかし、こんな芸術作品をみながら二人きり小舟の上。まずいな……いや、別に構わないよね?」

アマデウスは一人ごとのように続けたが、勝手に何かを決めた様子だ。

サリエリは我関せずという風に、舟べりへ腕をもたせかけ。
相変わらず川面を見ている。

その背に近づいて。
背後からそろりと抱きしめ。
サリエリの胸元、浴衣の合わせ目にアマデウスの指先が潜り込む。

「君の曲、やっぱり興奮するなぁ……

眉根をしかめ、サリエリはため息をついた。

「お前は下品な男だな、相変わらず」
「いいや、これこそ風流じゃないか。花火を見ながら揺れる川船の上で」