John
2020-07-25 23:27:45
1594文字
Public 音楽家
 

歌う砂

現パロ。
R18までではないですが、アマサリがキスしてます。

「もう限界だ。これ以上家に缶詰じゃあ。この鬱屈に僕の音楽的才能が色を失う!」

アマデウスはある日の昼下がり、いつものように私と同室で作業をしていた。
このところ、確かに、私たちは屋内に篭りきりだった。

「海だ、海がいい! サリエリ、素晴らしい波音を聞いて、輝く青が見たい。旅だ、小旅行だ」

アマデウスはそう私に叫んだ。

いま、私の愛しい天才音楽家は。
少し離れたところで子供のように足踏みし、靴底を擦り付けるようにして砂を奏でている。
たどり着いた時間が少し遅く、夕日は残光だけを空に放って水平線下にもう隠れている。
アマデウスはたいそう、鳴き砂……英語では『singing sand』などともいうらしいが……を気に入ったようだ。
海、という叫びにこの場所を選んだ私は、その気に入りように鼻が高くなる。

「そうやってはしゃいでは転けるぞ」

ずいぶん足元が大胆になり。
踊るようなステップのふらつきが気になったため。
私は言いながらアマデウスのほうに歩み寄り、手を伸ばした。

奴は『ひゃー!』などと言いながら、わざと私の服を掴み。
砂浜に引き倒してきた。
もつれるように砂へ突っ伏す。

夏の日差しをたっぷりと浴びた砂は。
香りだけでなく、熱も、未だ太陽の残りを秘めている。

倒れて、ひたりと砂に横たわった背中から、じんわりと熱い。

「わあ、口の中に砂が入った! サリエリ、取ってよ」

アマデウスはふざけたように、口を大きく開けて舌を出してきた。
私は苦笑する。

苦笑しながら、その笑顔に口付ける。

時折、鼻にかかった彼の笑みが、くぐもりながら聞こえる。
ふざけたように、というより、ふざけているのだ。
舌で口内の砂つぶを追いかける私に、邪魔をするようにアマデウスは舌を遊ばせてくる。
いつもよりザラついた接吻。

……飲み込んでしまった」

くちづけを離して、顔を見上げながら私は言った。

夕暮れの薄闇は深くなっていく。
刻一刻と暗くなるが。
日が暮れてもすぐに、海岸は冷え込んだりせず。
太陽の残り香りだけではなく、熱量まで名残としてたっぷり染み込ませた、乾いた砂は。
サラサラとしていてまだ暖かい。

長い金髪の男は私の上で。
石英の粒が多い、白い砂、きらめく砂を頬に付けている。
すっと手の甲でそのほほを拭ってやった。
ぱらぱらと砂粒が落ちる。
砂浜のように曇りなく白い肌だ。

「ねえ、サリエリ。駅前にホテル見かけたよね。砂まみれになったし、シャワー浴びて帰ろうよ」

なんでもないことのように、しれっと奴は言った。

「シャワーだけか?」

そんな訳はないだろう、と。
そういうニュアンスを声音にたっぷり含ませて、私は聞き返した。

彼は、ふるりと武者震いのような震えを身に走らせ。
口を引き結んで横を向いたが。

一拍の後。
薄暗くとも輝くような、欲に満ちた視線で見つめてきた。
アマデウスの唇が開く。
砂と先ほどの接吻の名残が付いている。

「その、こんなことしてたら。僕のムスコも、盛り上がっちゃったみたいでさ」

今度は素直な告白に、思わず愛おしさが湧いた。

「この後は、私を鳴かせようと?」

言って、不敵に笑ってみせる。
こういった時のアマデウスは何よりも可愛らしい。
そうして愛しい相手からの欲情を真っ向から受けて立てば。
私も。
砂に寝転んだ暖かな背中から、身震いするような欲が沸き、背骨を衝動が走る。

恋人は、石英の砂が夕日に染まるように頬を赤らめ、こちらを視線でまっすぐ射抜きながら情動を声にした。

「この、砂よりも熱い。君の中を味わいたい」

それに答えとして。
私はアマデウスの顔を引き寄せ。
再びくちびるを合わせると、舌をはわせた。
石英の粒が口内に落ちたが、構わず。
溺れるような息苦しさの接吻に沈んでいった。