John
2019-12-17 19:42:24
2952文字
Public 音楽家
 

アマサリで人狼×猟師!(第二幕)

このシーンはえっちなし。
ただし銃が出てくるのと軽微な流血シーンがあります。
内容的には全年齢かと。

狙いを定めて、行動を追っていた雄狼がいた。
美しい金狼。
彼を狩るのは私だ、と、サリエリは思っていた。

六連式リボルバーと、弾丸の換装性があるライフルが未だサリエリの人間界では最新の武器だった。
人里は、森を切りひらき、自然に割り込むような形で数少なく点在し。
周囲を深く広大な緑の山に囲まれ。
隣の村や街との移動手段は馬車。
サリエリたち人間は、人間以外の御しがたい、様々な存在と戦いながら生きていた。
彼の装備は銃器にプラスして、奥の手のナイフ。
総身が銀でできており、十字型で細身の刺突用ナイフだ。
人狼は銀の武器でしか傷つかない。

猟師が後をつけていることに気づいていないのか、立派な体躯の金狼は、悠々と生活し。
時に、夜には決まった岩山の上、ステージのような高台でヴァイオリンを弾いた。
三日月や満月、麗しい月の夜に、綺麗な金の髪をたなびかせて。
その調べは、風に乗ってかすかにサリエリの耳にも届いた。
酔ったようにステップを踏み、踊るように人狼は奏でた。
弾いている音に合わせ、歌うように遠吠えし、星空の下で尾を振った。

人狼たちは、銀でしか傷つかず、獣のような尾と耳を備えるが。
それを除けば、木々の緑が深い森の中で、隠棲する人間のように暮らし。
時折人里で盗みを働く。

彼らは人の子供に害をなすと信じられていたし、その存在は邪悪とされていた。
実際には家畜や作物、衣料を必要だから盗むといった悪行で、信じられているほど凶悪ではなかったが。
その死体に報奨金を懸ける政府もあり、狩れば引き換えに金をもらえる行政区もあった。

かつては人間と違う独自の文化、文明を築いていた彼らは、彼らの極悪を信じる人の手で狩られて久しく。
組織だった抵抗もしない、種族への帰属意識や同族の味方をする概念もない、あって家族単位の小集団が主の個人主義であったことも災いし。
すっかり文明も失い、数を減らしていた。
そんなことまでは、サリエリのあずかり知らぬところではあったが。

彼の金狼の、月明かりをはじく輝石のような、夜陰に光る翠緑の瞳。
その片方に、銀の弾頭をした銃弾を込めたライフルで、サリエリはたびたび遠くから狙いをつけた。
または、緩やかに舐めるように狙いを少し降ろし、その心臓に。
何度もそうした。
今、指を引けば、仕留められる、そう思う瞬間が彼には何度も訪れていた。
しかし、引き金を引くことはなく、照星を狙いから外し、また遠目に行動をうかがうのだ。
撃ってしまうなら、演奏を楽しみ己の音に酔っているその一瞬が絶好の隙だと、サリエリにもわかっていたが。
いつしか引き金を引いてしまうことを、狩人はかすかにためらっていた。

確かに、巧みで素晴らしいヴァイオリンを奏でる個体など珍しかった。
見た目も今までサリエリが見た中で飛び抜けて麗しい、上背のある雄だ。
だが、それで説明がつかないほど、その姿を追い、観察することに。
サリエリは楽しみを見出しつつあった。

他の狼を狩り、他の獣を狩っても。
金の狼に対しては、森で無邪気にしている姿を密かに観察し、いつか引き金を引こうというそのいつかを先延ばしにしてずっと時が経っていた。

もはや数えることすら馬鹿らしいほど幾度目か。
一旦近くの村に食料や弾薬の補充に帰った際。
酒場で、素晴らしい金狼を撃ったと自慢している男の話を、サリエリは聞いてしまった。

崖の上で、生意気にも楽器をやって無防備なので撃った。
最初は、遠すぎて当たったかもわからなかった。
死んでいるかと、確かめても、ヴァイオリンを弾いていたあたりに血の跡しか見つからず。
夜中であるのもあって引き上げた、と。

その日は、夜が深まってから急に雨が降り出していた。

サリエリは独りよがりではあるが、抑えられず怒りが湧いた。
自分の狙っていた獲物に、迂闊で半端な銃弾を見舞った相手を殺してやりたいほど、腸が煮えていたが。
それよりも、金の毛皮に緑の瞳の狼が、どうなったかが気になった。

酒場を抜け出し、彼は雨が降り出した危険な夜の森を、いつも金狼がヴァイオリンを楽しんでいた場所へ向かった。

崖下に、血の跡と、足を引きずり歩いた跡。
彼を撃ったと自慢していた猟師は、夜とはいえそんなことも見落としたのかと、サリエリは余計に腹立たしくなった。
それは逆説的にいえば。
雨でも消えない様式のランタンを持ち。
話を聞いてすぐに飛び出し、崖の上ではなく崖下に向かい、諸々の跡が消える前に追跡の糸の先をつかめたサリエリが優秀な猟師であったというだけなのだが。

状況から、彼の心に怒りが浮かぶことは、完全に変でもなかったが。
それにしても不可解なほど、彼の胸は激しい怒りの炎に燃えていた。

しばらく、サリエリが雨に濡れた闇夜の茂みをかき分け行くと、美しい手負いの金狼が木の根に持たれて。
荒く息をはいていた。

ヴァイオリンを月夜に踊りながら弾いていた彼が脳裏に思い出された。
なんの悪意もなく、ただ奏でることを無邪気に楽しんでいた姿。
遠くから行動を観察するばかりで、猟師のサリエリにとっては、この狼にここまで近づいたのもそれが初めてだった。
触れるのは死んだ彼にだけだろうと、考えもしない前提として、サリエリは思っていた。

金のまつげを震わせ、弱々しい視線。
光るペリドットの瞳がサリエリを見た。
濡れた金髪の張り付く顔、涙のように雨が溜まって流れるまぶた。
泥にまみれ汚れた中に光る、生まれつきの輝きが。
新緑の森、誰にも汚されず朝日を浴びた、清らかな泉のようで。

人狼はあまりにも、美しかった。
雨の中、泥と、撃たれた太ももからの血で汚れていても。
サリエリの心の内に、落としたエメラルドを砂浜から再び見つけ、手の内に取り戻せたような歓喜が湧いた。

気がつけばサリエリは、怯える彼に手を差し伸べ、傷の手当てをしていた。
猟師は自らの羽織っていた、雨をよく弾くロングコートを人狼に掛けてやり。
近くの小屋へと肩を貸して歩かせ。
銃創に弾丸が残ってないかを確認し、適切に傷口を止血し。
痛み止めを飲ませ、寝ている間そのそばで看病し、一睡もせず朝日を見た。

それ以来、サリエリはアマデウスに衣類や生活必需品を渡し。
人狼の特徴を隠して振る舞うよう促し。
酒場では、彼に関してのみ、身の安全が有利になるよう取り計らって情報を流すようになった。
基本的に、狩人たちは互いに対する誤射を防ぐため、他の猟師の縄張りで勝手に狩りをしない不文律があった。
サリエリは正当にそれを糾弾し、アマデウスを撃った猟師を追放もした。

アマデウスは、狩りや採取で確保した食料、水。
暖かい寝床を、山に入っているサリエリに提供した。

二人は何度も同じ屋根の下で夜を明かし。
いつしか友人のように気の置けない間柄になっていた。

ある日の晩のこと。

「どう? しない? つがいごっこ」

恥じらいもなく、しっかりと両の瞳で見つめ。
犬歯をのぞかせて笑みを浮かべ。
椅子の隙間から下げたしっぽをゆっくりと左右に振りながら、すべらかな白い肌に金の髪をした人狼は正面に座る猟師に提案した。