Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
John
2019-11-22 22:40:53
3533文字
Public
音楽家
Clear cache
大学最後の春休み #2
今回更新分は直截的すけべ描写がないです。
「ねえ、サリエリさあ。僕たち」
テレビはやかましく、芸能人同士のお上品とは言えない会話を部屋に垂れ流している。
テーブルの上にはすでに一つ、空の缶ビール。
「卒業したら会わなくなったりするのかな。疎遠になったり
……
そういう話もあるじゃあないか」
ここはサリエリの住んでいる賃貸マンションの一室。
カーペットに、座卓に、クッション、でもこの部屋は寝室としても彼は使っていて。
黒いシーツのベッドが、でん、と大きな幅をとっている。
クラシックコンサートを聞きに行ったあと、一緒に近所の駅地下街で食べ物と酒を買い込んで、僕は夜も遅くなってからサリエリの家に上がりこんだ。
先に食べていていい、って。
その代わり風呂は先に使うぞ、って笑って脱衣所に入ったサリエリが。
ずいぶん今日は長風呂で、やっと風呂場から出てきたことに。
物音で気づいて、僕は彼に呼びかけた。
イタリア人は、ピザは一人一枚でシェアはしない。
って食べ方の持論を展開してくるサリエリは。
家だとピザをシェアしてくれる。
すでに僕は、自分が選んだジェノベーゼソースとシーフードのピザの箱を開けて二切れ口にしている。
ずいぶん遅くなってしまったから、ピザや惣菜の大部分は明日の食事になるだろう。
そうして、勝手知ったる他人の家で、くつろいでしまいながら。
ふと我にかえると、祭りの後の寂しさのようなものが心からこみ上げて、まるで独り言のように言った。
「ずっと、その。今みたいに居られるんだろうか。君と」
明後日ぐらいからは互いに何だかんだと用事がある。
今までだって暇だったわけじゃない。
でも、わからないけど。
「それとも、連絡先を整頓した時に『ああ、そんな奴もいたな。だけど、もう連絡とる事もないだろう』って、君の名前を消す日が来るのかな」
こうしてだらだらしながら、意味もなくサリエリの家に上がりこんで酔っ払うなんて、しばらくは忙しくて無理だろう。
とは考える。
スマホでメッセージのやりとりとかは出来るけど。
まあ、僕も歩いて十五分くらい離れた、似たような学生向けマンションに住んでるし。
大学は同じだから式典で顔を合わせる機会もたぶんある。
引っ越しまでは、まだ少しだけ日数がある。
内定先も互いに知ってるし。
卒業後の予定している住居も知ってる、そこまで遠くなるわけじゃない。
それどころか僕は、その物件選びの時も、サリエリについてきてもらったけれど。
……
。
そういえば。
卒業旅行にも、結局、サリエリと一緒に行った。
僕は最初、付き合ってた彼女とヨーロッパに行く予定だったんだけれど。
旅行の一ヶ月ぐらい前になって。
不用意に言った一言のせいで、夜、僕の家でその子と喧嘩になって。
夜中に彼女が飛び出して行って、それっきり振られるという間抜けをやらかしてしまった。
まあ、なぜだか僕はモテるのに付き合うと長続きしない。
航空券のキャンセル料で泣いた。
泣いたついでに。
泣きつくような形で、僕はサリエリを旅行に誘った。
一人で行くのはさすがに寂しい。
かといって旅行に行かないのも寂しい。
サリエリも、もっと以前の話。
大人しくて可愛いタイプの子と付き合ってた事があったみたいだけど。
何故かうまく行かなかったみたいだ。
傍目から見てもいい感じだったのに、理由は知らない。
それから特に誰かと付き合ったとも聞かない。
サリエリ自身は、僕が誘う前は旅行に行く予定もなく、バイトと趣味の作曲と引っ越し準備、あと、ちょっとした資格試験でも受けようかと考えていたらしい。
真面目すぎる。
わざわざ海外へ卒業旅行と銘打たなくても、親戚に会いに行ったりしてるじゃないか。
ことさら珍しがって旅行に行くこともないだろう、と呆れてサリエリに言われもした。
サリエリの両親は、音楽関係の仕事に就いていて。
彼が十二才の頃、仕事の都合もあって日本に移り住んだらしい。
両親の生家はイタリア。
だからか知らないけれど。
永住許可持ちの両親が日本で産んで、ずっと日本育ちの僕からすると。
サリエリの日本語はちょっと、発音がふにゃっとしている。
僕は遠慮ない性格なので、容赦なく指摘するけれど。
どうにも直らないらしい。
笑っちゃうよね。
彼は幼い頃からピアノを習っていたらしい。
僕も実家にピアノがあった。
学業の合間に。
ネット上に、打ち込んだアレンジ曲や、実家に帰った時にピアノを弾いた動画をあげていたら。
サリエリに僕だと特定されて、食堂で声をかけられた。
彼も僕と似たようなことをしていて、投稿された作品を聞いたこともあったけれど。
まさか同じ大学に通う、しかも同い年だとは思ってもみなかった。
それまで彼とは接点もなく、初対面だったけれど、会ってからは急速に仲良くなった。
留学ではなく永住許可持ちのヨーロッパ人、学部は違うしサークルも違うけれど同じ大学、趣味も同じ。
なんだかんだ、そういったことで最初は仲良くなったんだったと思う。
人生で悩んだり苦しんだりしたことのツボも、やっぱり似てるところはあったし。
でも、サリエリは僕とつるんでいるのがもったいないぐらいしっかりした。
よくできた
……
腐れ縁の知り合いだ。
仲良くなってからは、一緒に動画作品を作ったり、合作もした。
旅行は楽しかった。
少し当初と予定を変更して、僕らと偶然、性別も同じで同名の音楽家の墓参りなんかにも行った。
僕をアマデウスなんて呼ぶようになったやつらは、みんな昔の音楽家を意識して言ってたんだろう。
あまりに小さい頃はそんなことわからなかったけれど。
今ではすすんで、正式な名前が必要な場所以外で、僕はふざけてアマデウスをニックネームとして名乗ってる。
サリエリも僕をアマデウスと呼ぶ。
音楽は趣味でする程度で、昔の彼らに比べれば名前負けかもしれない。
墓地から出て、ウィーンの街角を歩きながら。
まかり間違って、僕らが彼らの生まれ変わりだったらどうする?
なんて冗談を、サリエリと言い合って笑ったことを思い出す。
「なんか、いま無性に寂しくなっちゃってさ」
この時、僕はやたらと感傷的になってたんだ。
もうだらだらとくだらないことに使える時間はない、それこそ明日、明後日ぐらいから。
これから歳をとって若くなくなっていく、学生じゃなくなる。
その漠然とした、暗いモヤモヤが、僕の腹から。
『身近な相手と遊べなくなる』不安という形の言葉で、外に出た。
僕は自分勝手に、自由がなくなる不安を。
そのままではなく別の形に変奏させて口から出した。
ただ、それだけだった。
これまでだって、人生の節目はいくらでもあった。
付き合いが続く相手は連絡先に残っていくし、疎遠になる相手はそんなもんだ。
それはいろいろな流れで、仕方のないことで。
どうなったって、泳ぐ事さえやめなければ。
人生の流れにはどうにか浮かんでいける。
どうにもならないものはどうにもならない。
ある程度なるようにしかならないのだ。
そう、そんなことは知ってる。
でも、このときは目の前に立ちはだかった転機が、とても特別で苦しいものに思えていた。
サリエリも、もしかしたら、そんな雰囲気に飲まれ思いつめていたんだろうか。
あいつは客観的だし、そういったものに左右されないタイプだって勝手に思っていたけれど。
今なら、あいつのこと、わかった気になってただけで。
ちっとも僕に見えてなんていなかったんだって、わかる。
友達なんて呼べるほどじゃないって戒めながら、僕はやっぱりいつの間にか傲慢な甘えをサリエリに持っていた。
サリエリは、珍しくドライヤーで乾かしていない、タオルで乾かしただけだろう湿った髪のまま。
楽な部屋着に着替えてこちらへやってきた。
なんだがその視線が真剣で、やたら思いつめた顔で。
僕は飲みかけのビールを机において、その顔を見つめる。
サリエリは、一度、視線を外し。
迷うような不安そうな表情をしてから。
意を決したように口を開いた。
「アマデウス。ずっと、おまえに黙っていた事があるんだ」
サリエリのくちびるは、よく見れば少し震えていた。
「私は
……
私は、おまえが好きだ」
なんだそんなこと、僕もサリエリのことは好きだぜ。
って、ちらっと思ったけど。
多分なんか、違う好きなんだろうという予感は、言われた時点で感じた。
そして、次にサリエリは。
「おまえに抱かれたかった」
と言った。
僕の頭はしばらく、サリエリが発したその一言の意味を理解してくれなかった。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内