lilie_y0527
2026-01-25 14:52:18
1532文字
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ルークのことを思い出すディンの話


ネヴァロの自宅に、静寂が訪れていた。グローグーは好物のスープでお腹を満たし、今は小さなベッドの中で穏やかな寝息を立てている。

ディン・ジャリンはそれを見届けてから、ようやく自分のためのスープを一杯、テーブルに用意した。彼は室内を見渡し、当たり前だが誰もいないことを確認すると、ゆっくりと両手のグローブを外した。そして、躊躇うことなくヘルメットを脱いだ。

冷たい空気が、肌に触れる。重いベスカーの塊をテーブルに置くと、そこには「腕の立つ賞金稼ぎ」ではなく、ただの疲れ果てた一人の男の素顔があった。

彼は無造作に髪をかき上げ、湯気の立つカップを両手で包み込んだ。戦士として常に何かを握りしめてきたその手は、無数の傷に覆われ、節くれだっている。その指先が、カップに注がれたスープの熱を直接感じ取った。

……温かい)

ただの熱いはずの感触が、なぜか胸の奥をざわつかせた。目を閉じると、不意に、瓦礫の中で握った手の感触が蘇る。暗闇に沈んでいたルーク・スカイウォーカー。あの時、彼を引きずり出した時に触れた手は、切実に熱を求めていた。

ディンは、ルークが去り際に浮かべた穏やかな微笑みを思い出す。だがその微笑みの裏側に、何かが隠されていることを、ディンは感じ取っていた。

(あいつは……ちゃんと眠れているんだろうか)

ルークは、あの静かな場所で、また一人であの暗闇と戦っているのではないか。フォースという、自分には理解できない巨大な力に翻弄され、またあの時のように、誰にも届かない声を上げているのではないか。そう思うと、手に持ったカップの温もりが、まるでルークの体温の残り香のように、急に切実なものに感じられた。

自分がいれば、またあの時と同じように、その手を握ってやれるのに。

ディンはスープを一口啜り、ルークが言った言葉を思い出していた。

『お茶の相手がいないのは……少し寂しいからね』

「寂しい、か」

ディンが独り言を漏らしたその時、静かだった寝室から、小さな、しかし切なげな声が聞こえた。グローグーだ。ディンは反射的に立ち上がり、ヘルメットを素早く被り寝室へ向かった。グローグーは毛布の中で身をよじり、うなされている。おそらくディンが抱いたルークへの不安や焦燥が、強い絆を通じて幼い彼に伝わってしまったのだろう。

……大丈夫だ、ここにいるぞ」

ディンは素手のまま、グローグーを優しく抱き上げた。小さな、柔らかな体温。グローグーはディンの胸に顔を埋め、指先に触れる父親の素肌の温もりに安心したのか、やがてぷぅと短く息を吐いて再び深い眠りに落ちていった。

寝かしつけたグローグーをベッドに戻し、ディンはしばらくその場に佇んだ。

(お前も、あいつが心配か)

ディンは窓の外、遠い星々が瞬く夜空を見上げた。ジェダイだ、マンダロリアンだと、自分たちは常に何かの肩書きを背負って生きている。だが、あの時握り合った手の温もりだけは、そんな理屈をすべて飛び越えていた。

(ルーク……

あいつがいま、お茶でも飲んで、少しでも穏やかに笑っていればいい。戦場の土埃や火薬ではなく、ルークが「美味しい」と言って笑った、あの香りのいい茶の余韻に浸っていればいい。

……R5、グローグーを頼む」

リビングに戻ったディンが低く呟くと、R5-D4は心得たとばかりにレンズを暗くし、静かに寝室へと消えていった。

ディンは再び椅子に座り、少し冷めてしまったスープを手に取った。次に会うときも戦場ではない、温かな場所であるといい。
遠い星系で同じ月光を見上げているであろう友を想いながら、マンダロリアンの夜は更けていった。



ーおわりー