asahito
2026-01-25 12:40:11
4491文字
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Corpse Reviver⑧

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

阿梨夜さんの妹全然出てこないですけどちゃんといますよ。

 貴方のお願いや約束は守るようにしていたけれど。愚直に守るばかりではどうしようもないこともある。
 家に戻ればいいだけの話を余計に面倒なことに変えてしまうのは私らしくないとは思っても。誰もいない家に戻り冷めた手つかずの夕食をただ眺めるなんて、もう御免だ。
 カフェで使っていたカップを戻すと店員さんのお礼の声が聞こえてきて、その声を聞き届ける間もなく私はカフェを出た。
 そうして彼女になんとか連絡をしようと、スマートフォンを取り出すと。その行動を見透かされていたかのように彼女からの連絡がメッセージアプリに届き。
 どくんと鳴る心臓を抑えつつそのメッセージをゆっくりと見る。もう別れましょう、なんて言葉がありませんようにと祈りながら。
『今夜は家には帰れないけど、このホテルに泊まるから心配しないで』
 帰れないという言葉にかつて彼女が激務で家に戻る事すらできなかった日々を思い出し胃が逆流しそうになったが。
 そのメッセージと一緒に、送られて来た情報は泊まるであろうホテルのサイトを見て。あのままどこか別の場所に行ったのだと分かった。
 そこは彼女の会社とは離れている。ホテルの内容も地方でも駅前でよく見る、CMもやっていて見慣れた外観のあのホテル。
 シンプルなデザインで、どこも同じような外観。そんな、出張のビジネスマンや旅行者におなじみのホテルだ。
 漠然とした内容ではなく敢えてはっきりと情報を教えたのは。下手に誤魔化せば私があれこれ調べまわると、彼女はわかっているから。
 調査ならば私は彼女をゆうに凌ぐ探究心と忍耐力を持ち合わせている。それに、どこまでも突き詰める力と情報の容量も大きい。
 それを知っての行動は、流石だと思い。同時に私を理解してくれているのだと感じる。ずっとそばに居るのだから当然でも。傍に居ても分からないことがあるから。
「このホテルなら多分安全ね、よかった……
 地図アプリを見ればホテルの近くに変な店やいかがわしい店もなく。恐ろしい事件が起きたという噂もない。
 時間差で彼女のバッグが備え付けのホテルの机に置かれていて、壁にかけてあるタッチパネルも映っている。
 そのタッチパネルは宿泊者が操作できる端末であり。ホテルの案内やテレビや有料放送に切り替えられる機能をもつ壁掛けのタブレットのようなものだった。
 タッチパネルにはホテルの名前も書いてあり。それはホテルのサイトの名前と一致している。
 その次には領収書の写真も送られてきた。
 日付も時間も今日の夜。今しがたチェックインして部屋まで辿り着いたと伝えてくる。潔癖の証明。
 そこまでしなくていいのにと思うけど。私の心配性な性分や徹底した部分を配慮してのことだろう。
 彼女をそこまでにしたのは。私の性格のせいなのかと思うと複雑だが。偽ろうと思えば何でも偽れる、加工すれば嘘の情報も本物のように見えるこの時代では。
 時によっては、ユイマンの送ってくれた画像だけでも本当のものと言い切れないのが悲しい。
 ちょっとした技術を習得してしまえば、日付も場所も偽れる。画像だって合体させれば偽りの証拠だってできる。
 だから最後にそれを信じたのは、私と彼女は伴侶同士であるからという根拠のない自信であった。フィルムの写真が未だ必要なのは、そういった部分もあるのだろう。
……
 ユイマンの居場所が分かり、安全も分かったのなら真っ直ぐ家に帰っても良いだろう。
 ただ一つ気になったのはそのホテルの場所は、あの店主のバーと同じ最寄駅と言うことだった。
 彼女の会社から自宅までのルートにないその駅は。行こうと思わなければ決して降りることの無い所だ。
 もしかしてあのバーに行った後ホテルに泊まることにしたのか。ユイマンな自棄酒するような子では無いと思うけど。
 私のそう言った思い込みも、彼女を理解しようとしない態度を助長しているのかもしれない。
 スマートフォンをしまい、駅の改札の方へ向かう。家とは逆方向の電車のホームを探して、向かう。
 彼女のホテルには行くつもりはないけど。彼女があの店に行ったと言う保証もないけど。今はどうしてもあの店に行きたいと思ってしまう。
 全くの無関係の人の筈なのに、私に関わる誰かと何かしらの繋がりを持つあの店主に会えば。
 何か得られそうな気がするのだ。それは、研究に煮詰まり信用ならない文献にすら縋る時に似ていたけど。
 私の持ちえない情報に縋り付かなければ目的に辿り着けないのも、事実だ。



 
 

「大変ご迷惑をかけて申し訳ありません、動き出しました列車は……
 電車に乗ったはいいがその電車がトラブルで遅延してしまい。すし詰めになった列車内は座れていたとはいえとんでもない地獄絵図だった。
 アナウンスをする車掌の声も草臥れており。苦労がうかがい知れる。今日はもう厄日なのかしら。
 どっと吐き出される人混みの表情は皆不服そうで。降りるわけにもいかず、ひたすら待たされるくらいならどこかの最寄りの駅で止まって乗り換えられればよいものを。
 色々と愚痴りたい気持ちは抑え。私はやっと一息吐いて平常運転できている電車の有難みを感じる。何時間待たされたのかしら。
「はあ……
 ユイマンの為とはいっても、その街に降り立つことは正直苦手だった。
 降りる人間が多すぎる上に、居酒屋やいかがわしい店が集まる繁華街がひとつの街にようにエリアになっていて今は観光地にすらなっている。
 あんな場所であの店主が商売をやっていけているのは正直尊敬の念すら抱くが。変な奴があの店主に迫ったりすることはないのだろうか。
 顔立ちが良い女性というのは、得することはあるだろうが。それ故に苦労だって多いだろう。私の妹もそういう苦労があり、幼い頃に近所の交番に親が伴って相談しに行ったことも何度かある。そういうことがあるといつも妹は。こんな面倒なら醜く生まれればよかったと、よく嫌味を私に投げつけて来た。
 ユイマンと歩いていても知らない男に声を掛けられることはあるし。彼女は話術で相手を追い返せるにしても、やはり知らない輩に話しかけられるのは少し怖いと苦笑していた。
 醜いなら醜いなりに苦労のルートというものはあるが。相手から邪な感情を抱かれにくい部分を考えればきっと、妹の歩んでいる道の方が辛いのだろう。
 豊姫から言われた実家がどうなっているかも知らないのかという嫌味は。妹が私に思っていることかもしれない。全く家族とも連絡を取り合ってない。
 会社が傾くなんてことは聞いてないから経営は順調だろうが。妹だってもう社会に出て働いてもいいくらいの年齢だ。何の職種になりたいかなど、聞いた事はないが。
 いくら美しいと言ってもアイドルや女優のような職業にはうちの両親がさせないだろうし。
 血筋としてもそういう方向に行けるのは、遠い昔から芸能関係に元々強くてバックもついているような親戚の領域だろう。
 だとしたら父親の仕事の関係に就くというのが自然だが。本来ならそれは私が就くべきものであり、父の紹介か何かでまた会社を強くするような相手と婚約させられる道があっただろうけど。
 その相手は醜い女と結婚なんかしたくないだろうし。妹を妻とした方がきっと、何をするにしても良い事が多い。
 だが妹はその相手を愛せるのかという気持ちは。どこにもなくて、妹も昔から誰かと付き合うというのは見たことがなかった。
 家柄として相手を連れ込むなんてことはできない家だったから、外でこっそり誰かと恋愛していたかもしれないが。
 幼い頃のユイマンにすら、私の家に遊びに行ってはいけないという周囲からの無意識の圧力を気にして。私がユイマンを自分の家に連れて行かなかったのに。
(逃げたのは本当よね) 
 妹がもしも私の様に伴侶がいて。それでも姉が勝手に相手と逃げたからその伴侶をあきらめざるを得なかったら?誰が本当に好きかなんて、分かりやしないのに。
 お姉さまのせいよ。
 私を厭う妹の声が頭に響く。妹から一切連絡がないのは、それはある意味妹の烈しい怒りであり。私への救いでもある。
 私のせいで好きな相手とも一緒になれず。やりたい仕事もできないまま父親の為にその仕事をやらされる。美しさ故に自分のしたいことができない。
 どちらが幸せなのか。そんなこと考えてみても。幼い頃散々醜いと詰られ思春期も妹の我儘の後始末をやらされていた身分を鑑みればお相子なのか。
 今更、あの家の為に戻ったところで何が変わるというのだ。ユイマンを失うくらいなら、全て拒否してやる。
 駅の改札を抜け、待たされた分これからを楽しもうと躍起になる人混みを避けると。その店の場所を思い出し歩き始める。
 夜は深くなれば深くなるほど、品性は緩やかに落ちる。闇に良識が隠される。ましてやこんな繁華街のある街ではその品性はより落ちていき、道を見れば目を合わせてはいけないような輩が沢山いるのだ。
 ユイマンが泊っているであろうホテルは見えたので、建物に向かい彼女が守られていることを祈りながらおやすみ、と声を掛けた。
 チェーン店や量販店など、なるべく安全そうな店がある前を通りあの店主の店を探す。大通りから離れた場所にあるため、一歩間違えると危険だ。
 スマートフォンで営業時間を見ると、すでにラストオーダーの時間は過ぎていた。となると、入ったとしても門前払いを食らうだけかもしれない。
……無駄足は勘弁して欲しいわ」
 折角あんな思いをしてここにやってきて、ただ帰れと言われるのは少し腹が立つ。今日の事は全部私のせいなんだけれども、一つくらいはうまくいってほしい。
 そう思い路地裏の道を抜け店主の店の前に向かって行くと。ちょうど店主が店の扉を開けて、辺りを見回すような仕草をしているところだった。
 足早に店主に向かって行くと、店主も私に気付いたらしく。店の看板を閉店の方に向けた後に私の方に向き直った。その表情は笑みを浮かべてはいるが。
 その笑みは相手を寄せ付けないような意味合いだというのは、妹をずっと見ていた私からは明らかだった。営業用の顔だろう。
「あの……
「今晩は。生憎ラストオーダーは終わってまして、出せる酒はありませんが如何なさいました」
 店はもう誰も入れないという意志表示。あと一歩のところで逃してしまった。店主だって疲れているだろうから、そこで無理矢理入れてくれとは言いにくい。
「たまたま前を通りかかっただけです。店主さんもお疲れ様です」
 妹の様に我儘を言えればいいのだが。我慢に慣れているからそれも言うことができない。
 また迷惑をかけるのはよくないから、今日はもう帰ろうか。そう思い来た道を戻ろうとすると。
……帰る所申し訳ないんですが。営業中なのにちょっと買い出しに行かなきゃならなくて。留守番頼めますかね」
「はい?」






続く