ジェダイ・テンプルの新設されたテラスには、穏やかな風が吹き抜けていた。そのテラスの中央、簡素な木製のテーブルを囲んだ、三人の姿があった。
ルークは丁寧に淹れた茶を、小さなカップに注いだ。湯気が柔らかく立ち上り、あたりに華やかな香りが広がる。
カップから立ち上る湯気が、空気を柔らかく溶かしていく。
「偶然立ち寄った惑星がお茶の美味しいところでね。ついたくさん買ってしまった。」
テーブルの上には、グローグーのために用意された、甘い焼き菓子が並んでいた。
ディン・ジャリンは、目の前に置かれたカップを見つめた。彼はいつものようにヘルメットとアーマーを身に纏い、鈍く輝くベスカーは辺りの緑を反射していた。
「どうぞ。気に入ってくれるといいんだけど」
「……ありがとう」
ディンはそう言うと、わずかに椅子を引いて、ルークから視線を外すように少し横を向いた。そして、グローブをはめた手をヘルメットの縁にかけた。
カチリ、という微かな音が静寂に響く。
ルークはそれに応じるように、ごく自然な動作でテラスの先に広がる緑へと視線を移した。静かに風が吹きサラサラと聞こえる笹鳴りに耳を傾けるふりをしながら、さりげなく目を閉じた。
ヘルメットがわずかに持ち上げられ、カップが触れ合う音がした。ディンがお茶を啜り、喉を鳴らす気配が伝わってくる。ルークは目を開けても決して視線を戻さず、ただ優しい微笑みを浮かべたまま、友が「掟」を守りながら自分を信頼し共に座っている、その尊い時間を守るようにただ緑を見つめた。
やがて、再びカチリという音がして、ディンがカップをテーブルに置いた。
「……こういう飲み物の良し悪しはよくわからないが、美味しい、と思う」
ルークはそこで初めて視線を戻した。ディンのヘルメットは再び完璧に閉じられていたが、その声は先ほどよりもずっと近く、親密な響きを帯びていた。
「ありがとう、ディン。口にあって良かったよ」
ルークはこの無骨なマンダロリアンが、自分の淹れたお茶に、真面目に答えようとしてくれていることが嬉しかった。
一方で、グローグーには遠慮という言葉はなかった。 彼はルークが用意した、青い果実が乗った小さな焼き菓子に夢中だった。フォースで菓子をふわりと浮かせると、そのまま口を大きく開けてキャッチする。
「グローグー、行儀よくしろ」
ディンの低い、しかしどこか甘い声がたしなめる。グローグーは耳をパタパタと動かして返事をしたが、次の瞬間には別のお菓子に手を伸ばしていた。
そのやり取りを、ルークは目を細めて眺めていた。自分もカップを手に取り、一口含む。
「おい、グローグー。少しは落ち着け。全部お前のものじゃない」
ディンが再度たしなめるが、グローグーの勢いは止まらない。次々とお菓子がグローグーの手に吸い込まれていくのを見て、ディンは呆れたように首を振った。ルークはそれを見て、声を立てて笑った。
「いいんだ、ディン。ここでは彼は一人の子どもだ。厳しい修行の時間は、今日はお休みだよ」
それから二人はいくつか取り留めのない話をした。ティータイムを大切にする惑星の王子と仲良くなったこと。何でも食べようとするグローグーのために食べられるクレヨンを探していること……。などなど。
話が一段落し、一瞬の静寂が流れたあと、穏やかにディンが言った。
「あれから調子はどうだ」
ディンが何度もずらしていたヘルメットをしっかりと正し、ルークを見て尋ねた。
「改めてジェダイのことを調べているんだ。少しずつだけどね。子どもたちに、何を教えるべきかを考えるのは難しい。ジェダイの歴史は光だけではないから。……君はどう?ネヴァロでの暮らしは」
ディンは短く息を吐いた。
「静かなもんだ。時折、賞金稼ぎの真似事もするが、基本的にはこの子の教育と、マンダロアでの雑用……ようはこき使われている。……平和すぎて、身体がなまりそうだ」
「それは、君が守り抜いた平和だ。存分に味わう権利がある」
ルークは目の前でお菓子を頬張るグローグーと、それを見守る孤独な戦士を、必ず守らなければならないと思った。自分はかつてのジェダイのように銀河の調和を、守らなければ。
日が傾き始め、庭園がオレンジ色に染まっていく。
「そろそろ行かなくては」
ディンが立ち上がった。グローグーは最後の一つになったクッキーを大事そうに握りしめ、ディンの腕の中に飛び込んだ。
「わざわざ呼んでくれて感謝する。……良い茶だった」
「またいつでも来てくれ。まだまだたくさん、良い茶葉があるから」
グローグーがディンのマントを勢いよく引っ張る。ああ、と何かを思い出したようにディンは小さな包みをグローグーに手渡した。ディンの頑張れという言葉を受け取ったグローグーはその包みをさっとルークに差し出した。
「グローグーが選んだ。ネヴァロで売ってる、ドライフルーツだ」
あの食いしん坊のグローグーが食べ物のお土産を渡してくれるなんて。ルークは二人で過ごした修行の日々を懐かしく感じた。長く過ごしたとは言えないが、短かったとも言えない、あの日々のことを。
「ありがとう、グローグー。大切に食べるね」
グローグーは大きな任務を遂行できて誇らしげだ。ルークが耳をくすぐると嬉しそうに声を出して笑っていた。
ルークは二人を、着陸ポートまで見送った。ディンはN-1スターファイターのコックピットに入る直前、ふとルークに向き直った。
「ひとつ言っておくことがある」
バイザーの奥の視線が、ルークの瞳をじっと捉えた。
「もし君が、一人で抱えきれないような重荷を見つけたときは、迷わず連絡しろ。俺たちは友人、だろう」
ルークは一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。
頭に浮かんだのは、再建を目指すジェダイ・オーダーの未来と、銀河の調和を守るという責だった。しかし、今の彼にとって、それは果たさなければならない使命ではあるが、希望でもあった。愛する父や師が守りたかったものを引き継ぐことは、彼にとって誇りであっても「重荷」とは思えなかったのだ。
だが、ディンが何を言おうとしているのか、ルークにはわかっていた。この不器用な男はひとりで抱え込むな、悩みを話せ、と言いたいのだろう。ルークは友の深い気遣いをそのまま受け取ることにした。
「ああ。そうさせてもらうよ、ディン」
ルークは穏やかに、しかし確かな約束を込めて頷いた。
「助かるよ。お茶の相手がいないのは……少し寂しいからね」
ディンはヘルメットをわずかに上下に揺らした。くぐもった小さな笑い声がルークにしっかりと届いた。
「次は、俺が酒でも持ってこよう」
「楽しみにしてるよ。今日はありがとう、ディン。グローグーも。またね」
お互いに差し出した手をしっかりと握りあう。ディンの手はこの前と同じでグローブ越しでも温かかった。
エンジンが咆哮を上げ、N-1スターファイターが空へと舞い上がる。ルークは、小さくなっていく銀色の機体が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
彼の手のひらには、まだディンと握手した時の温もりが残っている。友人との何気ない会話は、確かな重みを持って、心に刻まれていた。ルークは満たされた心で、静かにテンプルへの道を歩き出した。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.