雨鶴
2026-01-24 23:46:03
1967文字
Public 小話
 

長次と八左ヱ門とこへ毛玉

前回あげた毛玉の話。ほんのりほんのり腐。でもカプ要素は無い。

五年ろ組竹谷八左ヱ門が長屋で虫達に餌をやっていた時のことである。
竹谷」
「?」
何処からか、か細い声で名を呼ばれて八左ヱ門は顔を上げた。一瞬空耳かな?と思い、辺りを見回せば木の陰から手招きされている。
「えっ」
おそるおそる近付けば、其処に居たのは六年ろ組中在家長次がいた。
「中在家先輩、どうされたんですか。五年生の長屋に」
「生物委員会のお前に少々聞きたい事があって、な」
「自分にですか?」
『沈黙の生き字引』と称される中在家先輩に分からないことが、オレに分かる事があるのだろうか?
そう、八左ヱ門が思っていると。
ちょっとこら、動くな」
先輩が装束の襟元から手を入れて、何か。多分生き物を取り出そうとしていた。
(懐に入るって事は、小動物か)
中々捕まらないのか、先輩は悪戦苦闘しているようだ。
っ!い、い加減に!」
何か聞いちゃいけない声を聞いてしまった気がする)
すまん、実はコイツなんだが」
「あ、ハイ」
薄く朱を佩いた眦で、先輩はオレに掴んだ物を差し出してきた。生き物も気になるが先輩の声が気になってしょうがない。
(いやいや。小動物に擽られたみたいなもんだろ?変に考えるな。今は目の前の生き物に集中しろ)
八左ヱ門が長次の手にした生き物に目を向けると居たのは薄緑色の毛玉。
何ですか、コレ」
分からん。だから聞きにきた」

──先輩曰く。
図書室前でやたらカラスが鳴いていたので、近付いたらコイツがいたと云う。

先輩の手のひらの毛玉は、よく見ると七松先輩に似ている。特徴的な眉とか。
「なんか七松先輩に似ていませんか?」
お前もそう思うか?」
どうやら先輩もそう思っていたらしい。すると毛玉は『イケどん』と鳴いた。
ますます七松先輩に似ている。
「鳴き声か?」
「多分そうだと思います」
「取り敢えず頼む」
そう言うと先輩はぎゅ、とオレの手の中に毛玉を押し付けてきた。
「え?え?中在家先輩は」
こんな得体の知れない生き物、流石に最後まで面倒みれねぇよ!
慌てたオレは、装束を正す先輩に問うた。
私は先生方に偽書作成に呼ばれている。それを連れて行く訳にはいかん」
はあ」
確かにあんなのが懐でモゾモゾされていたら、作成どころじゃないだろう。それは先程の仕草で見てわかる。
お前は一人部屋だから、一晩預かってくれ。怪我もしているようだから」
手の中の毛玉を見てみると確かに、キズがあった。カラスにつつかれでもしたのだろう。
「私も明朝、見に来る」
それだけ言って先輩は足早に去ってしまった。毛玉は中在家先輩が居なくなったのが分かるのか、オレの手の中でやたらモゾモゾ動く。
「七松先違うな。先輩じゃねえな」
『イケどん』
なんて呼べばいいんだ?」
取り敢えず部屋に行き、傷口に薬を塗る。毛玉は薬が滲みたのか涙目っぽくなっていた。
「流石に虫は食わねえと思うけど」
八左ヱ門は空いている虫籠に毛玉を入れた。可哀想かもしれないが自分とて、こんな得体の知れない生き物を持ち歩く度胸は無い。
「明日の朝になれば、中在家先輩が来てくれますから」
『イケどん』
先輩じゃないけど何故か敬語になってしまっている自分が恨めしい。
そして明くる朝、何故か寒さで八左ヱ門が目を覚ますと毛玉が入っていた虫籠が無くなり、代わりに枕元へ沢山の胡桃が置かれていた。
「お礼のつもりなんだろうかん?」
八左ヱ門が寒風を感じた方に顔を向けると、戸口の障子にデカイ穴が開いていた。
「おほー!!」

◆◇◆◇◆◇◆◇


と、まあこんな事がありました」
早朝訓練から帰ってきたら門戸に中在家先輩が居た。朝食に向かう仲間達と別れて先輩に今朝の経緯を話す。
そうか。仲間が来たのかもな」
「まさか障子戸を壊されるとは思いませんでした」
小平太似の毛玉らしいな」
ふ、と先輩は息を吐き出すように笑う。
「それと胡桃をたくさん置いてったんです」
もし、用途に困ったら持って来ると良い。菓子でも作ってやろう取り敢えず、これは私からの礼だ」
先輩はオレに風呂敷包みを差し出してきた。受け取れば仄かに温かい。
「何ですか?」
「朝食時間を取ってしまうと思ってな中に焼きおにぎりが入っている。それなら冷えても食べれるから」
それじゃあな、と先輩は六年生長屋の方へ去って行く。

午前の授業までまだ時間がある。取り敢えず貰った焼きおにぎりを食べながら、障子戸の穴を塞ごうと八左ヱ門は長屋へ向かった。

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八左ヱ門もそうですが、五年生の口調は忍ミュの影響が強いです。もっと長次と五年生が絡んで欲しい。こへ毛玉は長次も長次毛玉の事も好き。