フリンズさんと電車でお出かけする話

※現パロです。ご注意ください。

「お待たせしましたか?」
「ううん、さっき来たところだよ」

 今日は志望大学のオープンキャンパスの日。一人で見学に行くか悩んでたんだけど、フリンズさんに相談したら「僕がお供しましょうか?」と言ってくれたので、お願いしてみることにした。フリンズさんと出かける時は車を出してもらうことが多いけれど、電車通学予定の大学なので今回は駅で待ち合わせしていた。
「では、出発しましょうか」
「はーい」
 駅改札でピッとスマホをタッチしてるフリンズさんを眺める。……当たり前なんだけど、フリンズさんって電車乗れるんだな。なんだか普段見ない姿でちょっと面白いね。後ろを振り返る彼にハッとして、私も後に続く。

 電車が到着したところで予定通り乗り込み、二席空いている場所を見つけて並んで座ることにした。
「電車が空いていて良かった」
「そうですね」
「朝も混んでないといいんだけど……
「たしかにそうですが……こればかりは朝電車に乗ってみないと判断難しいですね」
 その疑問点は後日検討するとして、今日は諦めよう。このまま二十分程乗ると目的の駅のようだ。自宅からの所要時間も一時間以内なので、通うのも大変ではなさそう。
 車窓を遠目で見ながらそんなことを考えていたら、「はい、どうぞ」と隣に座るフリンズさんが何かを差し出している。小分けタイプのフルーツ味の飴のようだ。
「フリンズさんって、飴とか持ち歩くタイプなんですか?」
「ふふ、あまり普段は持たないのですが、電車移動の場合だと……あると嬉しいかな、と思いまして」
「それはそう。ありがとうございます」
「えぇ、どういたしまして」
 ニコリ、と笑うフリンズさんにお礼を伝えてから口に飴玉を放り込む。あ、美味しいやつだ。

 口の中の飴玉を転がしながら、ついでに先程から気になってたことを尋ねてみた。
「今日のフリンズさんは、眼鏡姿なんですね」
 出会ってすぐから気になっては居たのだが、尋ねるタイミングをうまく作れなかったのだ。
「えぇはい。……何か気になる点などはありますか?」
「全然。めちゃくちゃ似合ってます」
「おや、そうでしたか。ありがとうございます」
 またニコッと笑ってから眼鏡を一度外して、私に無言で差し出してくる。なんだろう……と思い受け取ってみる。近くで見てみると、これが眼鏡ではないことに気がつく。
「これって……
「薄い色合いですが、サングラスなんです」
 借り受けたサングラスを車窓の風景にかざして見ると、多少ではあるが色がついた世界が見える。
フリンズさんは、少しだけ私の方に顔を傾けて、声を潜めて教えてくれる。
「僕の目は少し特殊な色をしているので、人が多いところに出かける時だけ、このサングラスを使っているのです」
……なるほど」
 綺麗な満月の色をしているフリンズさんの目だが、たしかに他の人で見たことないかも。もう慣れてしまっていて、私は気にもならなくなっていた。持たされていたサングラスを彼に返すと、またフリンズさんがサングラスを掛ける。
 ……綺麗な目なのに、少し勿体無いね。

 
 ***


 大学の校門前にたどり着くと、現役大学生の方々が沢山チラシを配っていた。オープンキャンパス中に体験できることの案内や、サークルの案内のようだ。
 予想通りではあったが、フリンズさんへチラシを配ろうとする大学生の多いこと多いこと……。彼は全部やんわりと断って、一枚も受け取っていなかった。「僕が通う予定はないので」と言っていたが、全部断るのも大変すぎるね。私は数枚チラシを受け取って、中身を確認する。
「あ、気になる学部の、講義体験があるみたい」
「そうですか、では向かってみましょうか」
 
 対象となっている講義室へ向かうと、テレビドラマなどに出てくるような、とても広い教室だった。フリンズさんと並んで、適当な席に座って時間まで待つことにする。
……昔を思い出しますねぇ」
「へぇ、フリンズさんの通ってた大学も、こんな感じの講義室があったの?」
「そうでしたね。あの頃は真面目な学生してましたよ」
 今も現役大学生です、って言われても違和感ないんですけどね。……そういえば今更だけど、フリンズさんって何歳なんだろうか。機会も無くて、聞いたことない気がする。
「ほら、始まるみたいですよ」
 自然と下げていた顔を持ち上げると、前方の黒板前に担当の先生……なのかな?が立っていた。時間は短かったけれど、興味深い話が聞けてとても満足した。講義終わりの挨拶を見届けてから、小さく息を吐いて肩の力を緩める。
 
「楽しそうでしたね?」
 そう声をかけられて隣に顔を向けると、フリンズさんが机に肘をつきながら、私の顔を覗き込んでいた。油断したところに綺麗な顔を視界に入れてしまって、私の心臓がドキッと大きく跳ねた。
「い、いつから……その感じで見てたんですか?」
――秘密です」
 人差し指を口元に当てて微笑むフリンズさん。……まさかだけど、ずっと覗き込まれてたりってことは……ないよね?

 その後は、大学の食堂を覗いてみたり、中庭を少し歩いてみたりして、大学内を広く歩いてみた。やっぱり、大学資料で見ているよりも全然楽しい。
「今日は実際に大学に来てみて、とても良かったです。フリンズさん、付いてきて下さって本当にありがとうございました」
「こちらこそ、なんだかとても楽しかったです。良い一日になりました。――では、そろそろ帰りましょうか」
「はい!」


 ***


 駅に着くまでの道中も、今日のあれが良かった、これが楽しかったとテンション高めにフリンズさんに語ってしまった。彼は文句も言わずに相槌を打ってくれるので安心する。帰りの電車も運良く座れたのだが、歩き疲れていた私は、少し眠くなってしまった。
「寝ていても良いですよ、僕が起こして差し上げますので」
「いえ、それは申し訳ないし……
 私はそう言ったのに、フリンズさんは私の頭を自身に引き寄せて、肩に寄りかからせた。そんなことされては、寝てしまうかも……

「そろそろ起きてくださいね、もうすぐ着きますよ」
 耳元で聞こえた声に、ハッとして頭を持ち上げる。いつのまにか寝ていたらしい。車内の電光掲示板を見ると、たしかに最寄駅が表示されていた。
「少しの時間でしたが、よく寝ていたようですね」
「え、すみません。寄りかかって寝てました……よね?」
「僕は構いませんよ」
 そう言って優しい笑顔をしているフリンズさん。いつも思うのだが、心が広すぎないか?
 電車が段々と速度を落としているので、もうすぐ停車する様子だ。先に立ち上がったフリンズさんが、私に手を差し伸べてくれる。
「さぁどうぞ」
 まだ頭がぼんやりしているので、促されるままに私の手を乗せた――その途端に、電車がガタンっと大きく揺れた。
 あっ、と思ったのは一瞬で、私の手が彼の手を掴む前に、フリンズさんに倒れ込んでしまう。
 
――っ、大丈夫でしたか?」
「すみません!私は平気ですけど、フリンズさんは……?」
 彼は私の体を支えつつも、自身の額を抑えていた。
「ふふふ……吊り革に額を、ぶつけてしまいまして……くくっ」
……へっ?」
 ぽかんと口を開けて呆然とする私をよそに「とりあえず電車から降りましょうね」と、手を引いてくれる。そうだった、早くしないと降りそびれてしまうところだった。
 
 乗っていた電車が過ぎ去ったホームで、ようやく笑いが収まったらしいフリンズさんが顔を上げる。
「お待たせしてすみませんね、電車内で頭をぶつけるなんて初めてでして、なんだか面白くなってしまって……ふふ」
 まだ収まってなかったらしい。上背のある方々は、こんなところでも大変なんだなぁ、とか思った。私なんて吊り革に掴まるのがギリギリなのにね。
 
 ともかく、おおよそ私のせいで彼はこんな事態になっており、申し訳ない気持ちになってきたので、フリンズさんが落ち着くまではこのまま待機しておくことに決めた。

 
「では、ご自宅までお送りしますよ」
「え、いや一人で帰れますよ。大丈夫です」
「僕がお送りしたいのです。……いけませんか?」
「ダメ、ではないです!」
「ありがとうございます。では参りましょうか」
 フリンズさんは駅まで往復することになるのでは、とは思ったが、彼が良いと言うなら送ってもらおうかな、と考え直すことにした。そういえば……フリンズさんとこんなに長い時間を過ごしたのは、初めてだなと思い付いてしまい、勝手に照れてしまいそうになった。



『貴女と過ごせる時間が増えるならば、なんなりと』