今日は流星群が見られる日らしい、と言った鶴丸が、一緒に流れ星を探そうと言ってきたのは、光忠が就寝の準備を始めているタイミングだった。
「流れ星を探す?今から?」
「今からだ。これからの時間が一番よく見えるらしい。だが、……もう眠いかい?光坊」
「ううん、大丈夫。どこで見ようか」
「屋根に登るのがいいんじゃないかと思っていてな」
光忠が誘いに乗ってくれると分かって嬉しそうな顔をしている鶴丸が自信に満ちた声音で言う。
「屋根ね、確かに見やすいかも。きっと寒いだろうから、毛布を持っていこうか。それにくるまって見よう」
「そうだな、きみの部屋にある毛布を借りてもいいかい」
「うん、二枚持って行くよ」
光忠と鶴丸は本丸の屋根に登って、それぞれ毛布にくるまった。毛布のおかげで身体は寒くないけれど、群青色の夜はとても冷えていて、吐き出す息はやわらかく白い。
「光坊は流れ星、見たことあるか?」
「僕はないなぁ」
「俺もない。ここできみと一緒に見られたら、互いに初めてだな!」
光忠の方を向いて屈託なく笑った鶴丸は、視線を夜空に向けた。
「絶対に見つけてやるからな。光坊も流れ星を見つけたら教えてくれ」
「うん」
それからしばらく、二人は黙って星空を眺めた。流星群ということだったけれど、今のところ星が流れる気配はない。
光忠は空から視線を逸らして、ちら、と隣で空を見上げている鶴丸の横顔を眺めた。
彼の白い髪と白い肌は、夜の青みを反射して淡く銀色を帯びている。綺麗だった。そして、どこか幻のようにぼんやりとしていた。
夜の濃い青の中にいるこの人は、夜に溶けるように少し実存性が薄れて、このままどこかへ行ってしまわないか心配になる。
「鶴さん、」
だから、光忠は思わず重たい声音で呼びかけてしまった。
「……?どうした?流れ星を見たか?いや、違うな、眠くなったかい?それとも寒くなったか?」
鶴丸は無邪気に、しかし年上らしい気遣いを口にして、寒いならあたためてやろう、と言いながら隣の光忠に体全体でもたれかかった。
そのもたれかたがあまりに無防備な甘えに満ちていて、光忠は自分の中に湧いた不安が根拠のない不安でしかないことに気がついた。
何を不安になっているのだろう。この人は、こんなに全力でそばにいてくれるのに。どこかへ行ってしまうわけがないのに。
「ううん、ごめん、なんでもない。何を言おうとしたのか忘れちゃった」
「そうか、光坊にしちゃめずらしいな」
光忠にもたれかかったまま、鶴丸は穏やかに言う。
「大丈夫だ、光坊、俺はずっときみのそばにいるんだからな」
「……、あはは、……鶴さんってなんで僕の心が読めるの」
「そりゃあ、きみの伴侶だからさ」
鶴丸はそう言って、愛しそうに笑った。彼はこちらにもたれかかっているので、笑って身体が揺れる振動が伝わってきた。それは鶴丸の実存性を確かに光忠に伝えるもので、不安は安堵に変わっていく。
光忠は微笑んで肩に乗っている鶴丸の頭を優しく撫でた。指のあいだをすり抜けていく、白銀の髪。それが、光忠には流星の尾のようなきらめきに感じられた。
「僕は流れ星、見つけたかも」
「おぉ!どのあたりだい」
「僕の隣」
光忠の返事を鶴丸が飲み込むのにしばらく時間がかかった。そして、呆れたように彼は笑う。
「光坊ってそういう口説き文句が様になるから大したもんだよな」
「口説き文句っていうか、本当に僕はそう思ってるよ」
光忠が真面目な顔で言ったら、ちら、とこちらを見上げた鶴丸は、降参とばかりに微笑んで、光忠にもたれかかったまま目を閉じた。
「こんなに愛されて幸せだなぁ、俺は」
「ふふ、僕は、僕の愛を鶴さんが受け止めてくれて嬉しいよ」
「っと、俺からきみへの愛ももちろんあるぜ?」
「うん、ありがとう、伝わってるよ」
「そうか、それならいいんだ」
鶴丸は少し照れたような口調でそう言って、相変わらず目を閉じている。眠くなってきたのかもしれない。夜の冷えは深まっているし、流れ星も見えなさそうだからもう部屋に戻ったほうがいい気がするけれど、光忠は肩にある鶴丸の体温があまりにあたたかく愛しかったので、しばらくそのまま黙って夜空を見上げつづけていた。
この体温があれば、この夜の青さの中でもこの人の実存性を信じられると思って。
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