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tachi_aoi_0615
2026-01-24 21:55:37
1251文字
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浅葱色
「似合いますか?」
原田の眼前に浅葱色がふわりと広がる。
「似合う似合う。平助のために誂えたみたいな色してるしな」
「ふふ、これが僕らの死装束ですね」
やっと出来上がったという隊服を羽織って藤堂がくるりと回った。
「それが新品の羽織着て言うことか?」
「だって、その通りでしょう?」
美しく微笑む少年を見下ろして、原田はため息をついた。
いつ死ぬとも知れぬ身だ。これを着て斬り合いをするのだから、確かにこれが死装束になるのだろう。
とはいえ、密偵として入り込んだ己がいつまでここにいるものか
――
。
原田は自分用の鮮やかな羽織と見つめ合った。
「原田さんも早く着てくださいよ」
「気が早えよ、魁先生」
藤堂に請われ、原田は折り畳まれていた隊服を広げてその身に被せる。藤堂のそれとは比べ物にならないほど、丈も袖も広かった。
「なんだか変な感じです。お揃いでちょっと気持ち悪いですね」
藤堂は新たな装いに身を包んだ原田を見て笑った。
「失礼だろ。だいたい、こんな色そうそう似合わねえよ」
目の前にいる年齢も、ひょっとしたら性別も判じかねるような男であれば兎も角、こんな派手な色を着こなせる者はそう多くないだろう。
「原田さんって背が高い上に髪色も派手だから、隊服まで着ていたらどこにいても見つけられそうです」
「いつも先頭にいる平助からも見えるならそりゃあいい。ちゃんと俺を目印に帰って来いよ」
「当然です。そう簡単に死んではやりませんよ」
原田に向かって挑戦的な瞳を向けた藤堂ははしゃぐように、それでいて着心地を確かめるように跳んでは駆け回る。
突き抜けるような快晴なのも相まって、その明るい羽織と色素の薄い肌や髪が青空へ溶け込んでいくように見えた。
ふと湧いた汗に、初夏の中で羽織るには少し生地が厚いかもな、なんて気付く。
太陽の光が少年越しに原田の目に入り込んで、酷く眩しかった。
あれから何年が経っただろうか。
そんな話をしたのも、もう過去の事だ。
むせ返るような鉄錆の臭いの中、原田は独り立っていた。
幕府の道具であるこの身はいつかこの場所を出ていくのだろうと、そう思っていた。何故その自分がまだここにいて、藤堂が浅葱の羽織を脱いだのか。
美しい面差しの男が目を閉じている。その瞳が開くことは、もう二度とない。
血塗れの身体と赤羽織が混ざり合い、この夜空の下では見分けがつかないほどだ。
「なあ、平助」
原田は男に呼びかけた。当然返事はない。
――
あの羽織が死装束じゃなかったのかよ。
どうしてお前が赤い羽織を着て冷たくなっているんだろうな。
原田はそう問いかけようとしたが、冷たい風に乗って香ってくるそれが藤堂の血なのだと思うとどうにも耐えられず、音のしない息が出るばかりだった。
原田はただひたすらに冷たくなっていく屍を見つめ続けた。
脚先が冷えて、動けなくなったような心地がする。
月の光さえ感じられない、暗い暗い夜のことだった。
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