mitubafuwari
2026-01-24 20:44:22
4300文字
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あなたと、ふたりで。(前編)

草一郎と和紗がデートをします。前編、中編、後編になります。

続きはpixivとエブリスタに載せています。
pixiv
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27142356

エブリスタ
https://estar.jp/novels/26521105



「ひととせ」シリーズにてふたりを応援してくださっていた方もちろん、
はじめての方にも楽しんでいただけたらと嬉しいです!

「男子大学生と女子高生のカップルが、デートに行くのね」
くらいの認識で読んでいただけたら大丈夫だと思います。

詳しいキャラクター&物語の設定はこちらになります
https://www.pixiv.net/artworks/79976251

 私の夢は、小さなメモ帳につまっている。
 
 食べたいものや、行きたいところ。
 そして、大好きな人たちと、したいこと。

 メモ帳書いていった、小さな夢たち。
 それらはどんどん増えていって、私を温めてくれている。
 まるで、夜空にまたたく無数の星のように。

(なんて、幸せなんだろう……

 暗闇に閉じ込められて泣いていた、少し前までの私に教えてあげたい。
 
 大丈夫だよ、って。
 一緒に見つけにいこう、って。

 勇気を出して足を踏み出せば、きっとあの人が待ってくれている。
 だから行こう。
 ふたりで思い描いた夢を、叶えるんだ――


 *

 柔らかな日差しが差す、冬の朝。
 背の低い棚の上に置かれた、まあるい鏡をのぞきこむ。
 ほおを赤く染めている自分の顔が、映っていた。

(こういうとき、大きな鏡があれば全身が見渡せるのかな……

 私の部屋にはそれがない。
 いま見ている愛らしい鏡は、長年使っているものだけれど、デートに出かけるための最終チェックには荷が重いみたいだ。
 
 それに、着ている服だっていつも通りのありふれたものだ。
 私はあまり、たくさんの服を持っていない。草一郎さんにはじめて見せるとっておきのものなんて、見つかりっこなかった。
 せめて、清潔感には気をつけてみたけれど……

 ドキドキと、爆発しそうな胸元を押さえる。
 楽しみなのと恥ずかしいの、両方をぐっとこらえながら、部屋を後にした。


 *

 今日は12月27日。
 草一郎さんと私は、2回目のデートへ出かけることになった。

『本当は、クリスマスに連れ出せたらよかったんだけど』

 そう言って、草一郎さんは申し訳なさそうに眉を下げていた。
 気持ちは嬉しいけれど、無理をしないでいてくれて、よかった。
 大学生の草一郎さんは、授業とアルバイトがぎっしりつまっていたのだから。
 私だって、冬休みの課題に追われていた。

 そのあいまに、れんげ荘のみんなでパーティーをした。
 みんなで過ごす聖夜も、じゅうぶんすぎるくらい楽しくて特別な時間だった。
 それに草一郎さんは、わざわざ私にプレゼントまで贈ってくれた。

 帰り際、こっそり渡された白い花の髪留め。
 今日のデートにつけてみたのだけれど、草一郎さんは、気づいてくれるかな……

「和紗」

 草一郎さんは、もう私を待ってくれていた。
 待ち合わせ場所であるれんげ荘の駐車場に立っていて、その姿を見た私は、つい駆け寄ってしまう。

「草一郎さん……!」
「ああ」

 急に走り出した私を見て、草一郎さんが手を伸ばす。
 とっさに私を支えようとしてくれた大きな手を、私もまた、とっさにつかんでしまった。
 
 かつて足が不自由だった私は、毎日のようにお世話をされていたのだ。その名残りが、まだ消えない。
 
 ほっぺたが熱くなるのを感じながら、

「今日は誘ってくれて、ありがとうございます」

 と言うと、草一郎さんは目尻を下げた。
「うん」と言いながら、手を離す草一郎さん。そのかわり、私の頭に手を伸ばしてきた。
 指先をかすめた白い花に、胸がとくんと脈打つ。
 やっぱり、気づいてくれた。

……思ってた通りだ。似合ってるよ」

 はにかむように笑った草一郎さんは、「行こうか」と歩き出した。
 隣を歩きながら、口元がむずむずするのを感じる。
 ついにやけてしまうような、でも、変な声が出ちゃいそうな、不思議な感覚だった。
 
 ああ。
 今日が終わるまでに、私の心臓、止まっちゃうんじゃないかな……


 *

 草一郎さんの愛車に乗せてもらって1時間半ほどすると、目的地が見えてきた。
 のどかな田舎町から、都会へ。
 建物の数も、交通量も、行き交う人混みも、日向町とは比べものにならない。
 私には慣れない光景だったので、助手席からまじまじと見つめてしまう。
 
 草一郎さんが、優しいまなざしでこちらを見る。

「まずはこの車を駐車場に駐めるからな。そしたら、ご飯を食べに行こう」

 そう言い終えてからすぐに、青信号に切り替わる。
 草一郎さんが目線を正面に戻して、運転を再開した。
 
 すると、私からは横顔が見えることになる。
 
 草一郎さんの運転する姿が、とても好きだ。
 大人の男の人って感じで、凛々しい。
 でもあんまりまじまじ見ているのも邪魔になりそうなので、私も正面を見るようにする。

「ご飯、どこで食べましょうか……?」
「ああ、もう予約してあるんだ。パスタ屋だよ」
「パスタ……! えっ、あ、ありがとうございます……っ」

 ご飯屋さんを予約するなんて発想、私にはなかった。
 さっき”邪魔になりそう”と思ったのをすっかり忘れて、ぱっと草一郎さんの方を向く。
 
 草一郎さんは運転中なので、こっちを見ない。
 でも、さっき私に向けたままのやんわりとしたまなざしになり、

「気に入るといいけど」

 と言う。
 それから会話がとぎれた。
 
 日向町よりもずいぶん交通量が多い道路を走っているので、あまりたくさん話しかけない方がいいかもしれない。
 そう思って、私からは何も言わないでおいた。
 ふたたび、視線を正面に戻す。

 外食をほとんどしない私にとって、レストランに入るのはかなり久しぶりだ。
 そのうえ、今日来ている街に来たのも、何年ぶりかわからない。
 どんな飲食店があるのかも、さっぱりわからないのだった。

(パスタ屋さん……。私のために、選んでくれたんだろうなぁ)

 自分で作るのは和食が多いけれど、実はパスタも大好きだ。
 草一郎さんはそれを知ってくれているのだろう。たまの外食なら、とっておきのお店に連れて行ってあげたい……なんて、いかにも考えてくれそうだ。
 晩ごはんも、食べにいくのかな。そしたら、草一郎さん好みのお店にしてもらおう。

 *


「おいしい……!」

 思わず感動して、ほっぺを抑えてしまう。

 草一郎さんが連れてきてくれたのは、個人経営のお店だった。
 こぢんまりとした、でも、細かいところまで手入れの行き届いた内装だ。木組みになった天井も、柔らかなベージュのテーブルも、ちょこんと置かれている小人のオブジェまで可愛らしい。
 カウンター席が4つ、テーブル席が3つ。そのすべてが埋まっているので、予約をしてくれなかったら待つことになっていただろう。

 パスタにサラダ、プリン、ドリンクがついたセットメニューをふたつ、草一郎さんが注文してくれた。
 草一郎さんはきのことベーコンのペペロンチーノ、ドリンクはホットコーヒー。
 私はかぶのミルクスープパスタ、ドリンクはカプチーノを頼んだ。
 
 ドリンクは食後に、デザートと一緒に来るらしい。
 前菜のサラダを食べていたら、店員さんがふたり分のパスタを持ってきてくれた。
 
 それで、パスタを一口食べた私が、つい出てしまった言葉が”おいしい”だったわけだ。

……そんなに嬉しそうに食べてくれるなら、連れてきたかいがあったよ」

 草一郎さんはそう微笑みながら、自分のパスタをくるくるとフォークで巻いていく。
 手元にあるペペロンチーノは、カリッと焼き色のついたきのことベーコンから、いい匂いがしている。輪切りの赤唐辛子もしっかり入っていて、辛そうだ。

「はい、本当においしいです。かぶも、とろとろで……っ」

 冬野菜ではかぶが一番好きだ。
 うちではバターとにんにくで焼いたものを出すことが多いけれど、今食べているかぶはよく煮込まれていて、甘い。幸せだなぁ……
 草一郎さんのお皿が空っぽになった。思わず食べるペースを速めていると、「ゆっくり食べな」と声をかけてくれた。
 
 お言葉に甘えて、少しだけ速度を下げる。
 お腹も心も、ぽかぽかに満たされていた。

 ふたりが食べ終えて少しすると、デザートのプリンと、ふたりの頼んだ飲み物が届いた。
 プリンは片方の手のひらにちょこんと載るサイズだ。とろとろで柔らかそうで、上にはちょこんっと可愛らしいクリームのお帽子が乗っている。

 まずは飲み物からいただこうと、カプチーノを手にとった。
 可愛らしいハートのラテアートがされていて、胸がきゅんと鳴る。
 
 草一郎さんがそんな私を見つめながら、コーヒーを一口飲んだ。
 ミルクや砂糖を入れないブラックなのが、草一郎さんらしい。

「そういえば、和紗がカプチーノってめずらしいな」
「え……

 思いがけない言葉に、私はマグカップから顔を上げる。

「和紗は紅茶とか、ハーブティーをよく飲んでるだろう? 今日もそうなのかなと思ってたけど」
「あ……そうですね。たしかにふだんは紅茶が好きです。でも……

 どうして今日はカプチーノがいいと思ったのか。
 さっき自分が考えたことを思い出すと、胸が、今度はほんわかと温かくなる。

「ちょっとでも、草一郎さんのことを知りたかったんです」
「え……
「草一郎さんは、コーヒーがお好きだから」

 草一郎さんはふだんから、コーヒーをよく飲んでいる。
 私はまだ上がったことがないけれど、お部屋にはコーヒーメーカーもあると、弟のしずが教えてくれた。
 同じくコーヒー党の光先生とも、楽しそうに話をしているから……ちょっとだけ、羨ましくて。

 いきなりブラックは、私にはハードルが高い。
 でも草一郎さんは、カプチーノも時々飲んでいると聞いたから、それならチャレンジできそうだと思った。

……おいしいです。カプチーノって、ふわふわなんです、ね……? 草一郎さん? どうしたんですか?」

 なぜか草一郎さんが、顔を押さえてうつむいてしまった。
 何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。
 不安になっていると、草一郎さんが「……いや、大丈夫」と言いながらスプーンを手にとった。

……今度、家でも淹れてあげるよ」

 はにかむような笑顔でそう言ってから、デザートのプリンを食べはじめる。
 その耳が、ほんの少し赤い気がした。

 ……とりあえず、嫌な思いをさせたわけではなさそうだ。
 それに、草一郎さんの淹れてくれるカプチーノ。想像しただけで嬉しくなる。

「ありがとうございます」

 でも今は、このひとときを大切にしたい。
 夢見心地でデザートを楽しむ私を見て、草一郎さんが小さく微笑んでくれた。