mitubafuwari
2023-08-13 16:38:43
1322文字
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歩杏、夏のみじかいおはなし


 杏子は甘えるのがへたっぴだ。
 面倒見がよくて人のことは積極的に甘やかすのに、自分が人に寄りかかるのはためらってしまうらしい。そんな控えめなところが、とても愛おしい。でも、彼氏であるおれにまで、遠慮はしないでほしかった。

 受験生であるおれ達は、図書館で一緒に勉強をしていた。
 日向町の図書館は、読書スペースと自習スペースが分けられている。学生にはとってもありがたいことだ。

 だから夏休みの昼間に、おれ達しか来ないわけが、ない。
 日向中学校の生徒達や高校に進学していった先輩達。いろんな人に出会った。
 さすがに自習スペースの周りでは静かだった。でも図書館へ向かう道すがらや、休憩にと屋外へ出たときなんかは、「お~い!」と嬉しそうに、向こうから走ってきてくれた。

 嫌だとは思わなかった。
 あいさつとちょっとした世間話だけで、「じゃ、また!」と去っていく人ばかりだったから。
 きっと、おれ達の邪魔をしないように気づかってくれたのだろう。
 おれにとってはありがたいし、いい友達や先輩を持ったと思うばかりだった、けれど。

 杏子はどんどん、落ち込んでいった。
 あからさまに態度に出ているわけじゃない。
 おれが話しかけたら、明るく笑っていつも通りにふるまっていた。でも、“ああ、無理してるなあ”とわかった。
 だからもう、知らんぷりなんてできない。

「じゃ、またね!」

 別れ際、明るく笑いかけて去ろうとする杏子。
 引き留めなくちゃ、この子は自分の気持ちにフタをしてしまう。

……まだ、時間ある?」






(杏子視点)


 ――ああ、どうしていつも、隠せないんだろう。

 周りを明るくするのは、得意なはずなのに。歩にはいつだって、つらいのを見抜かれてしまうのだ。

 私の家にいっしょに帰ると、父さんがいた。
 父さんに礼儀正しくあいさつをした歩は、

『杏子とふたりで話したいです』

 と、頭を下げた。
 父さんは恋愛ごとには厳しいほうだ。さすがにデートは禁止されていないけれど、私と歩が部屋でふたりきりになるのは、やんわり却下される。デートのときだって、「暗くなるまでには帰ってきなさい」と釘をさされる。もし約束をやぶったとしたら、きつく叱られるのは目に見えていた。

 でもそれは、私達が憎いからではないのだと、ちゃんとわかっていた。
 父さんが気に病んで、思いやってくれるのは、娘の私だけじゃない。
 歩のことも、父さんは大事に想ってくれている。

 だから父さんは、穏やかに微笑んでうなずいた。
 座っていたソファから腰を上げ、

「じゃあ僕は、何かお菓子でも買ってくるから」

 と、支度をはじめる。
 歩があわてて、そんな、気にしないでくださいと遠慮するのだけれど、父さんはへらりと笑って首を振る。

「ゆずがもうすぐバレーボールの試合から帰ってくるのだけどね、おやつがないと文句を言うものだから」

 だから、いっしょに食べよう。そう言って父さんは出ていった。

 ガチャ、と鍵が閉まる音を最後に、家のなかは静かになる。




(つづきも仕上げたら、サイトにアップします!)