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gib_fox
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pkmnフラカラ
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光、光、光
記憶が戻ってきたエフさんが、ふらっとミアレに帰り、カラに「わたしはあなたに会ったことがありましたね」と確認しにくる話 モブ視点
カラスバ様には恩がある。返しても返しきれない。そのためにここで働かせてくださいと頼み込んで、新人ながら少しずつ経験を積んだ。
ときどきカラスバ様が声をかけてくれることもあって、あの人の一見優しい笑顔を見るとささくれていた心が癒されたように思うが、彼がその裏でどんなことを考え、どんなことを無限に構想されているのだと知ると、自分ごときに向けられた笑顔が、数千の思いの内の一つなのだと身が引き締まる。
大抵はジプソさんからの指示を受けて活動するけれど、仕事を終えて報告をするのは決まってカラスバ様の前だ。重苦しく、黒く、圧倒される室内で、ジプソさんが丁寧にカラスバ様へ報告するのを待つ間、オレは背中がいつも冷え冷えとする。デスクの横にそそり立つドドゲザンの像が、その刃を振りかぶって真っ二つにしてきそうだ。オレだけがそうやって怯えているのかと思いきや、先にここで働いていた先輩たちもそうだと言うから、あの圧迫感は相当なのだろう。カラスバ様は部屋の真ん中に座り、体より大きな椅子を温めながら、ゆるい表情(のようにオレには見えるだけで実際は違うというのはわかっている)で穏やかに話を聞いている。
ミアレの街に五年以上、こうして居を構えて堂々たる風格のサビ組だが、カラスバ様がこんなふうに威厳を備えたのはある人のためなのだという。正確にはミアレの街のため、だが、そこに至るまでを語るのに欠かせない人物がいて、その人はミアレから遠く離れてしまったらしく、カラスバ様は滅多に口にしない。先輩と買い出しへ行く途中、そんな方がいるんだと聞かされた。オレは「はぁ」「へぇ」と気の弱い相づちを打つばかりで先輩に「オマエ、ちゃんと話聞いてんのか?」とどやされる。
だって想像がつかないのだ。カラスバ様はいつも肩で風を切り、嵐が来ても雷が鳴っても倒れなさそうだ。なにかに追いすがり、すり寄るなんていうのも想像できない。たしかにやや童顔寄りではあると思うが、その顔で誰かに
靡
なび
く姿を思い描くも、モザイクがかかったようにあえなく霧散する。先輩や他の連中だって同じことを思うんじゃないだろうか。
「その人は、来ないんですか?」
「来ねえよ」
「どうして」
「研究者で、資産家で──大罪人だからな」
カラスバ様が遠くで、指示を仰ぐジプソさんに対しなにかを話している。横顔が相変わらず冷たく尖っているように見えて、その内にミアレへの激情を隠しているのはもうわかっている。だからこそ憧れ、ついていこうと思う者も多い。そんな彼が胸の内に秘めているのは大罪人で、その罪の重さは桁違いなのだと聞き、いくら自分でもさすがに秘めたる思いの大きさに、物悲しくなって天を仰ぐ。どうにか、ならないか。どうにも、ならないか。オレほどの人間が動いてみたところで、なにかが起こせるわけもなく。恩人の役に立ちたいと思うことは同じなのに、直接的に役に立てる(立てているかは不明だが)オレと、その人への恩を返せているのかわからないまま凛として進むカラスバ様との違いは、
雲泥
うんでい
のようで実は近しいのかもしれない。
──クリスマスという浮き足だった季節が過ぎ、年末年始を越した今のミアレは寒々しい。オレにとってただなんとなく過ごしてきた街への感情は、今やカラスバ様が守りたい物だというあふれんばかりの思いに背中を押され、新年の騒ぎで街角に落とされたゴミや食べ物の残骸を拾う仕事へと行き着いている。
ボランティアよろしく体を動かしていると、ゴミを拾う視線の前に靴先が見えた。
「サビ組の方ですか」
という紳士的な声に顔を上げれば、どこかで見た顔の男性がオレの前に立っていて、上背があるものだから少し気圧されてしまう。
「そ、そうだけど、なんだよ」
「カラスバくんはどちらに」
カラスバ? くん? オレは目を白黒させた。このミアレでカラスバ様を「くん」付けで呼ぶなどそうそういない。というか一人もいない。親しげだがどこかよそよそしくもあるその呼び方に不慣れさを感じ、疑いの眼差しを向けた。オレは手元にあるボールに触れて距離を取る。
「すみません、わたしは知り合いでして」
と相手は取り
繕
つくろ
って話しているが、落ち着きが逆に胡散臭く思えた。
オレはサビ組の先輩が使うドリュウズに憧れてモグリューを使っているが、鍛錬期間がまだ短い。それに──モグリューも、ボールから出ることを恐れている。
(あのモンスターボールの中には、とんでもないモンが入ってる)
冷や汗がだらだらと流れ、ごくりと唾を飲み込む。オレの様子を見ながら、その人は近づかずに自然なまま、しかしオレを威圧しているようにも見えた。大きな気配に飲み込まれて声が出ない。大罪人。ふと、先輩の言葉が頭をよぎった。罪を犯した人間のある種の得体の知れなさ。それがこの正体だ。どうりで見たことのある顔だと思った。男は──フラダリは、息を吐いた。
「場所さえ教えてもらえれば、自分で行きますので」
「いや
……
案内、します」
そう言って、オレはボールの上からモグリューを密かに
宥
なだ
めた。バトルはしない、という意思表示だ。ボールの温度がわずかに上がった。安堵しているのだろう。
威圧感に負けたオレは情けなさで顔を赤くしたり青くしたりしていたが、当の本人はどうでもいいことのようにサビ組の門構えを眺め、笹の葉や庭園の様子を静かに見ている。先輩が駆けつけて「フラダリさん⁈」と驚いているが、フラダリさんは小さく会釈をしただけで、あまり積極的な関わり合いをしたがらなかった。
エレベーターの前まで案内し、そこからは別の者が一緒にエレベーターに乗った。下っ端のオレは、この先がどうなるのかはわからない。報告のときにしか入ったことのない事務所で、あの人がサビ組の壁や床と真逆の髪色をなびかせ、もう一度「カラスバくん」と呼ぶのだろうか。そうしたら、カラスバ様はどうなってしまうのだろう。
そのうちジプソさんがエントランスまで降りてきた。少々難しい顔をしている。何人かの部下に指示を出し、「今日はお前ら、帰っていい」と言われた者もいる。そのうちの一人がオレだ。今日のサビ組の活動は終わり。明日以降の連絡は追ってする。それがジプソさんの連絡事項の全てだった。
「フラダリ、さんは」
「上にいる。しばらくはミアレにいるそうだ」
「あの
……
」
なぜ、とか、どうして、とか、いろいろ言いたいことはあった。それから肝心の、「カラスバ様はどうなりましたか?」と。
「知ってどうする」
「いえ、その」
たじろぐオレに、ジプソさんが深くため息をついた。
「あの御方には記憶がまだなかった」
一つ呼吸を整えて、ジプソさんが続ける。
「ただ、もしかしたら戻りそうなのかもしれない。カラスバ様にも、それを確かめているような口ぶりだった」
大罪人。また先輩の言葉が蘇る。この黒光りする壁の向こう、はるか頭上にある事務所を想像しながら、オレは背筋を冷えさせる。
「目の前の恩人に、過去に犯した罪を話すのか、それを隠して世話になったことだけを伝えるのか──きっとカラスバ様は、そのどちらもをフラダリ氏にまっすぐにお伝えになる」
ジプソさんは遠い目をした。
「だからサビ組のボスとして、ふさわしい」
そこまでを聞き、帰宅を改めて急かされた。
オレはサビ組の建物に背を向けながら、あの堅牢な壁の内側で対峙している二人のことを考える。遠く、どこかで誰かのオンバーンが鳴く声がした。気高いようで、少し悲しいトーンだ。
カラスバ様がフラダリさんへ酸いも甘いもお話になり、それでもかつ、「恩返しをしたい」と口に出すとき。フラダリさんが罪を償いながら、世界をより良くするために歩いていくことを、きっと信じているのだろう。その恩返しはきっと、フラダリさんが生きる一つの糧になるだろう。オレはカラスバ様のそういう姿勢に救われた一人だ。
……
今思えば、カラスバ様から感じる圧力は、フラダリさんと似ていた。それは大きく、包むようで、けれど決して温かいばかりではない。包容力とも違うなにか。焼かれるような光。
次の日。カラスバ様は部屋から出てこなかった。フラダリさんと話し込んでしまったのか、ジプソさんだけが事情を知った顔で、「各自リストを見て、今日の仕事をするように。報告はこちらまで」と言って忙しなく動いている。オレはリストをもらって先輩と動こうと体を反転させると、ふらりと建物から出てくる二人が見えた。「無理をさせました」とフラダリさんが言う。なんだか匂わせるような発言にオレの心臓は跳ね上がったが、すぐカラスバ様が「いや、オレこそ。朝まで話し込むとは思わんかったから」と言い、二人で門をくぐる。後から知ったが、向かったのはヌーヴォカフェらしい。あそこのクロワッサンをカラスバ様はいたく気に入られている。
「あそこ、バターが多めでうまいんです」
「わたしが言って、歓迎されるかどうか」
それは卑屈な言葉のように聞こえたが、決してフラダリさんは必要以上のへりくだりを見せていない。至極真っ当な疑問として発言したとでもいうような。それに対して、カラスバ様が見たことのないようなやわらかさで笑う。
「せやったら、テイクアウトでもしましょ。どっかのベンチで食べてもええ、他の店でも。カンコドールなら見つかりにくい?」
「
……
気を遣わせますね。それとも、それが君の普通ですか?」
「普通やったら、ほな一人で食べた方が美味しいんとちゃいます? って言いますわ」
だんだん二人の後ろ姿が遠くなる。会話も聞こえなくなるが、オレには続きが想像できた。まだまだ語ることがたくさんあるか、それとも恩人をああやって見つめるだけで満たされるのか。カラスバ様の目は口ほどに物を言っていた。朝日に染まって寝不足だろうと、輝きは失われない。光だ。カラスバ様にとっての光をその目に映している。今日のゴミ拾いは、ヌーヴォカフェを避けて通った方が良さそうだ。
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