「ウェ〜イ、見てるかァ? これから名誉統一王者ちゃんとイイコトしちゃいま〜す」
ビデオコールの相手は弟だ。薄暗い部屋の中、見るからにラブホのベッドに腰掛けて、どこかで聞いたことのある台詞を、白々しく吐いた。彼女は今、おとなしくオレの腕の中におさまっている。
「ちょっとコナかけたらすぐOKだったぜ〜? お前が崇拝する女神サマも、結局、ただの女だったってコト」
画面の向こうの弟は微動だにしない。ただ、食い入るようにこちらを見つめている。
挑発するため、馴れ馴れしく肩を抱いて頬に唇を寄せてみせれば、彼女もそれに合わせてくすくすと笑い、くすぐったそうにみじろぎした。
……いや、演技うますぎるだろ。
「ッつ〜ワケで、今日は帰んねェから! イイコに留守番しとけよ〜」
「
……兄者」
画面の天地が反転した。沈黙を守っていた弟が、自分の端末を掴みうっそりと立ち上がったのだ。
「兄者は、嘘つきだ」
いったい何を言いたいのか。首を傾げている間に、暗い画面から声だけが響いた。
「
……兄者も
女神が好きなら、言ってくれればよかった」
「は?」
「
……すぐに、行く」
「いや待てって」
端末の通信が切れた。慌てて三脚に設置していた端末を手に取りかけ直すが、そもそも出る気がないのか、応答はまったくない。
ベッドに腰掛けた彼女が、ふんわりと口を開いた。
「作戦失敗?」
「ッあ〜」
それには答えず、耳を抱えてしゃがみ込む。
作戦は、至極単純だった。いわゆるNTRビデオレターを見せて、弟を幻滅させる。
別に本当にヤる必要はない。そのまま解散して、オレはホテルで適当に時間を潰してから帰り、落ち込む弟を慰めるだけでよかったはずだ。
――弟は、本当のことしか言わない。だから『行く』と言ったなら、必ず『来る』。その後どうなるかは、正直、想像ができない。
「悪ィ! お前、すぐにここ出て、逃げ
……ッ」
顔を上げて叫んだ瞬間、ヴン、と低いモーター音が鳴り、部屋の扉が開いた。
――そこに立つのは、弟だ。やけに明るい廊下の光を背負い、薄暗い室内からでは逆光で表情が読めない。
「
……どうやって」
呆然と呟く。ソリューションナインはそんなに広くはない。だが、ピンポイントで居場所がわかるほど狭くもない。ほんの数分で辿り着けるわけがないのだ。
弟は後ろ手で扉のロックをかけながら口を開いた。
「背景で兄者がよく使うホテルだとすぐにわかった。受付に兄者の迎えだと言ったら、すぐに通してくれたぞ。それに、兄者の端末に居場所がわかるアプリを入れてある」
「オレの前科ァ!
……待て。アプリは初耳だぜ」
「言ってない」
喋りながら、ぐるぐると脳みその中を回転させる。作戦は失敗。弟はなぜか怒っている。女は、興味津々の瞳でオレたちの会話を聞いている。
ふと、気づく。
――あ、そっか。難しく考える必要、なくね?
ゆるりと顔を上げ、弟を見る。前髪に隠れた濃青の目が、溢れんばかりの灼熱を讃えてオレの言葉を待っている。
オレは、この期に及んで呑気に座ったままの女を顎で差した。
「レッドホット。
……捕まえろ」
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