七海ななみ
2026-01-22 23:25:10
6215文字
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指輪がもたらす未来

ルカキリ。触ると時を行き来する事が出来る不思議な指輪を手に入れたファルカが時間旅行をする話(死ネタ含む)
極星さんよりネタを頂きました。本当にありがとうございます。


冷戦状態。そう表現するしかない。きっかけは、恋人になったフリンズとの、告白した直後の口論だ。
告白をして、恋仲になれて有頂天だったファルカだったが、すぐに地へ突き落とされた。

『期間限定の恋仲として、仲良くしましょう。後腐れのないように』

モンドに帰るまでの、期間限定の恋仲である、そう宣言されたのだ。
俺としては、生涯を共にしたい、そう願っていたのに、なんでそうなるんだ。そう問い詰めたら、

『貴方は僕を置いて先に逝く。僕は、耐えられないのです』

確かに、互いの立場や、種族、寿命差を考えたら、生涯を共にすることはできない。どうしてもと言うなら、現地妻としてなら受け入れる、と。
そんなの受け入れる訳がない。俺は誠実にありたい。口論になり、互いに口を利かぬまま、一週間が過ぎてしまった。
こんなことになるなら、告白など、しないほうがよかったかもしれない。そんな後悔をしていた。恋仲なのに、恋仲らしいことを一つもできていない。
会話をしなければならない。それはわかっているのだ。互いに、わかっているはずだ。でも、また口論になると思うと足が進まないのだ。
気分転換に見回りをしていると、商人が魔物に襲われていた。サクッと退治すると、いたく感謝された。

「助けていただきありがとうございます! 商品がだめになる覚悟をしておりましたが、貴方様のお陰で全て無事でした!」
「せっかくだ。ナシャタウンまで護衛をしよう」

また魔物に遭遇する可能性も捨てきれない。そう申し出ると、商人は感謝しながら、謝礼として飲み会を開いてくれることになった。もちろん奢りで。大変助かる。
歩きながら話すと、商人らしく話術が優れていた。ついつい恋人の悩みを打ち解けてしまうくらいには。
フラグシップに着いて、酒を飲みながら会話が盛り上がる。フラグシップの部屋に着くと、酒も回っているせいか、すぐに眠りについた。


────────


ランプに籠った状態で眠るファルカを眺める。よく寝ている。
恋仲になったのに、まともに口を聞くことができない。だが僕がフェイである以上、いずれ別れが訪れるのだ。なら別れを前提とした付き合いが、互いのために一番いい。
ファルカが僕を大切にしたい気持ちは、わかっているのだ。
それでも怖い。ファルカを失った時の絶望を思うと、恐ろしくてたまらない。だからこそ後腐れない関係でいたいのだ。
ファルカが寝返りをうち、布団がずれる。寝相はよくない方なのだろうか。布団を戻すと、ファルカが寝言で僕の名前を呼んでいた。

ごめんなさい」

掠れるような声で謝罪しても、ファルカに届くわけないのに。
ただ、去ることしかできなかった。


────────


フリンズと笑い合う夢を見た。現実はそんなわけないのに。
朝食を貰いに行くと、商人も朝食を貰いに来たようだった。

「おはようさん。これから商売か?」
「はい、昨日はありがとうございました。あの、恋人の関係について悩まれておりましたが、こちらの品であれば解決できるかもしれません」

そういって取り出して来たのは、シルバーの指輪だった。宝石はついていないが、彫り物がされている。

これは?」
「“時の指輪”と呼ばれる品、になります。なんでも、時の執政の力を受け継いでいる、という噂がありまして。なんでも、一度だけ定められた未来を映すことができるそうなのですが、未来を他者に伝えてはならない、伝えれば罰が下る、とされています」
「何故、俺に?」
「その、私には手に余る品でして、ファルカ様のような方なら使いこなせる、と考えまして」

ようするに、いわく付きの品なのだろう。
だが、“未来を映すことのできる”か。確かにフリンズの未来は気になる。

ありがたく頂戴しよう」
「あ、ありがとうございます!」

受け取ると、商人は心からの笑顔を見せてくれた。
去る商人を見ながら、今日は非番であったことを確認する。
部屋に戻り、指輪を左手の薬指につける。

「時の指輪よ、キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズの未来を見せてくれ」

そう呟くと、意識が遠退いた。


────────


目を開けると、白い空間にいた。
目の前にあるベットには俺が横たわり、フリンズが俺に泣きついている。
泣きついている?
俺の状態を確認すると、青白い顔で、呼吸が止まっている。
俺は、死んだのか?
フリンズは、俺の遺体にすがり付き、俺を求め泣き叫んでいた。
フリンズの身体に触れようとしたが、触れることはできない。

「フリンズ! 俺はここにいるぞ!」

声をかけても反応はない。
これが、定まった未来、だというのか?

景色が変化し、墓石の前でフリンズが佇んでいる。
フリンズの表情を見ると、虚ろな瞳で、何も話さず佇んでいた。
俺が死んだら、こうなってしまうのか?
肩を掴もうとしてもすり抜ける。何も伝えることができない。

景色が変わり、雪原に佇むフリンズがいた。
頭に雪も積もっている。このままだと、雪に埋もれてしまうのに、フリンズは動こうとしない。

景色が変わる。
荒れ果てた都市の中に佇んでいる。わかりにくいが、ナシャタウンだ。
フリンズは、ナシャタウンが滅んでも生き続けるのか?

『貴方は僕を置いて先に逝く。僕は、耐えられないのです』

確かに、フリンズはそう言っていた。
俺もわかっていたつもりだった。でも、俺の想像を遥かに越えていたのだ。
景色が変わり続ける。どんな時でも、フリンズは独り、絶望していた。

『期間限定の恋仲として、仲良くしましょう。後腐れのないように』

言葉の意味が、ようやくわかった。
違う、俺はただ、そんなつもりでいたわけじゃ
絶望しているフリンズに、なにもしてやることができない。
俺は、なんて無力なのだろうか。好きな人を笑わせることすらできない。
涙がこぼれ落ちる。それでも、俺はフリンズに呼び掛け続けた。どうか、言葉が届くよう願って。
結局、なんの意味もなさなかった。


───────


いつも通り働き、フラグシップに向かう。
ファルカがいたら、一緒に飲むのも、いいかもしれない。
そんな考えで向かうと、デミアンに声をかけられる。

「フリンズさん、ちょうどよかった! ファルカさんが倒れていて、意識が戻られないのです」
…………………え?」

部屋に向かうと、倒れて意識のないファルカがいた。
嘘だ、昨日は酔っぱらって、寝顔を見て、布団をかけ直した時はなんでもなくて。
いや、落ち着け。まずはファルカさんの状態を確認しろ。
呼吸の乱れなし、叩いても反応はない。寝ている訳でもない。脈は、ある。
とにかくベットに移動する。大丈夫だ。まだ、生きている。
大丈夫、死んでいない。だいじょうぶ、だ。
まだ、仲直り、できていない、のに。
何故、あんな風に意地を張っていたのか、後悔をしてしまう。
泣き叫びたくなるが、今ではない。謝るのは、目覚めてからだ。

「昨夜、ファルカさんの様子はどうでしたか?」
「そういえば商人の方と飲まれていました。ファルカさんに護衛をしてもらったそうで。今朝も商人の方とお話されて、指輪を譲ってもらっていた、ような気が
「そういえば、見慣れない指輪をしてますね」
「あ、本当ですね。昨夜はつけてなかったと思います」

先ほどは動揺して気付かなかったが、ファルカの指にシルバーリングがつけられている。
彫り物を見て気付く。これは、時の執政の紋章だ。

「あ、あの、ファルカ様が倒れたと聞きまして」

男が声をかけてきた。
デミアンに聞くと、ファルカと話していた商人で間違いないようだ。


───────


「そうでしたか。あなたを責める気はありません。この事態を引き起こしたのは彼ですから」

商人から事の全容を聞き、事態を把握した。
仮にも時の執政の指輪を使うなんて、後先考えていないのだろう。内心呆れてしまう。
でも、僕の事で悩んでいたことを話していたようだし、指輪を使ったのは、僕のせい、かもしれない。

「フリンズ様は目利きが優れているご様子。あの、よろしければこちらの指輪も見ていただけませんか?」

商人が取り出したのは、ブラックゴールドであしらわれた指輪だ。指輪には模様が刻まれている。この紋章、は。

「こちらは“死の指輪”と言われておりまして、死の執政の力が込められたとされる指輪なんです。使った者には死と引き換えに願いが叶うとされています。その、呪われた指輪として、語り継がれておりまして
「そちらは危険な指輪です。ライトキーパーとして引き取りましょう」

そう言うと商人は安堵の息を吐いていた。取り扱いに困っていたのだろう。
確かに、死の執政の紋章が刻まれている。本物だろう。
死の執政の指輪、か。これを使えば、もしかしたら
いや、まだだ。先に時の執政の指輪について調べなければ。
商人にも時の執政の指輪を調べるように頼むと、快く引き受けてくれた。
ネフェルとヤフォダは運悪いことに、ナドクライから離れている。そうとなれば、霜月の里に行くしかないだろう。


────────


ラウマに事のあらすじを伝えると、手伝いを申し出てくれた。
時の指輪についてラウマと共に探していると、とある文献が目にはいる。
そこには、死の指輪について書かれていた。
死の指輪は、願いを叶える変わりに、願いに応じた寿命を捧げる必要がある、と。願いが小さければ数年分、大きければ大きいほど、願いを叶えた瞬間に寿命が訪れることになるだろう。
寿命、か。
書物をもとに戻していると、ラウマが声をあげる。どうやら時の指輪の文献を見つけたらしい。
時の指輪は、定められた未来を写し出すもの。効力は一度きり。発動させれば指輪の持ち主は願った場所へと精神のみが飛ばされる。願う未来が長ければ長いほど、精神は戻ってくるのに時がかかる。短くても数年。長ければ数十年かかる。精神が戻ってきたとしても、未来を他者に告げてはならない。時の執政より罰が下る。

「ファルカさんが何を願ったかわかりませんが、すぐに起きる可能性もあるようです。一度様子見をしてもよさそうですね」

ラウマにはそう告げる。
ファルカが願う未来………モンドか、僕のことだろう。
国とフェイ、どちらにせよ、未来は長いのだ。
なら、もう方法はひとつしかない。
知ったら、怒るだろうな。
でも、あなたがいない未来を生きるくらいなら、死んだ方がましだ。
本当に、僕は馬鹿だった。
期間限定の恋人として後腐れのないようにしても、こうしただろうに。
だったら、もっと素直になればよかった。好きだと、そう告げればよかったのだ。


───────


フラグシップに戻り、ファルカの元に向かう。
相変わらず、意識は戻っていない。
ファルカの頬を包み、キスをする。

「ごめんなさい」

もしかしたら、僕は死ぬかもしれない。
それでも、貴方を失う方が、怖い。
涙が頬を伝う。それでも僕は願う。

「死の指輪よ、ファルカさんの精神を戻してほしい」

全身に激痛が走る。悲鳴を漏らさないように、手で口を抑える。確かに、本物だ。
命が、削られている。
痛む身体が動かし辛い。それでとファルカさんに縋る。

「ファルカ、さん、起きて、ください」

無駄に長い命など、くれてやる。
だから、起きてください。謝りたいです。恋仲のように触れあいたい。愛しています。どうか、美しいサファイアの瞳を、僕に見せてください。

「愛して、います」


───────


『ファルカ、さん、起きて、ください』

フリンズの声が聞こえ、顔をあげる。
フリンズが、泣いている。
どうか、もう、泣かないでくれ。
涙を拭うと、フリンズがこちらを見る。

『愛して、います』

がつん、と頭を殴られたような衝撃を受ける。
全身が強く引っ張られる。まるで、高所から落ちているような衝撃を受け、目を開けると、見慣れた天井があった。

戻った、のか?」

身体を確認しようとして気付く。
フリンズが、青白い顔で俺にすがりついていた。

フリンズ?」

それは、まるで、死人のような青白さで。
いや、俺が見たのは、定められた未来、だから、フリンズが死ぬわけが、なくて。
だって、まだ、愛していると、伝えられて、いない。

「フリンズ!!」

フリンズの身体を掴むと、目が開いた。

ファルカさん、ずいぶん遅いお目覚めですね」
「フリンズ、俺は
「何を願ったか知りませんが、時の指輪を使うなんて、無謀ですよ。僕も人のことを言えませんが」

フリンズの左手の薬指に嵌められたブラックゴールドの指輪が輝いていた。
この紋様、まるで、時の指輪と似ている。

フリンズ、その指輪は?」
これは」
「頼む、教えてくれ」
言っておきますが、決めたのは僕です。ファルカさんのせいではないですからね」

商人から、死の指輪を引き取り、寿命を引き換えに俺の精神を戻した。
血の気が引く。俺のせいで、こんなことに。そう後悔しているとフリンズが抱き締めて囁く。

「僕は後悔していませんよ。貴方を失う方が嫌だったんです。それに、僕はまだ生きています」
どれくらいの寿命を捧げたんだ?」
「わかりません。死ぬのは明日かもしれないですし、一年後かもしれない。でも、悪くないと思っています」
「どう、して」
「だって、ファルカさんと同じ時を歩むことができるかもしれないですから」

人ってそういうものでしょう。
フリンズが嬉しそうに微笑む。時の指輪が見せてくれた、絶望した表情では、ない。
フリンズを強く抱き締める。

「フリンズ。置いていかれる辛さを、舐めていた。すまなかった」

フリンズは、俺の頭を撫でる。

僕も、あなたが大切にしようとしてくれているのに、無下にしてしまい、申し訳ありませんでした」

ああ、本当に俺たちはなんて不器用なのだろうか。
腕を緩め、見つめ合う。

「フリンズ、愛している」
「僕も、愛しています」

キスをする。
俺も、フリンズも、生きている。
互いの存在を確かめ合うように、触れあった。


─────────


商人とラウマに事の次第を報告する。表向きには、ファルカの見た未来が短くて早く目覚めた、としている。
時の指輪も、死の指輪も気がついたらなくなっていた。効力を失ったせいだろうか。
手を繋ぐ。互いを確かめ合うように。もうすれ違わないように。
大きい代償を支払った。フリンズの寿命がいつ訪れるかわからない。でも、後悔のないように、愛をたくさん伝えていく。
まずは、デートからしよう。やっと恋仲らしいことをたくさんしたい。

「今度はちゃんとした指輪を贈らせてくれ」
「そしたらサファイアの宝石をあしらった指輪をください。貴方の瞳とよく似た色にしてくださいね」
「俺も、フリンズの瞳に似た色のイエローダイアモンドの指輪をつけたい」

後悔のないように、精一杯生きよう。そう笑い合った。