望月 鏡翠
2026-01-22 19:07:38
901文字
Public 日課
 

#1971 鹿山 光輝です。6

#毎日最低800文字のSSを書く/祝福の塔

 階段を登るうちに、記憶がはっきりしてきた。
 明日が思ったより早く来たな、なんておもってたけど、もしかしてこれって明日じゃないんじゃないか。
 もしかしてこれって天国もしくは来世なんじゃないか。
 足が止まった。止まったけど、止めたあとどこにも行くあてはない。どこも表示しないマップや、圏外の表示がそれを裏付けているようだった。
 天国も来世も信じてなかったんだけど、あったのかも。
 だって最後の記憶が確かなら、もう死んでいるはずだ。
  夢じゃないなら、本当に起こったことだって言うんなら、たぶんそういうことなんだろうと思う。
 ショックで頭から追い出していたことが、少しずつ頭に戻ってくる。
 ここにきた直前の記憶は、けたたましいクラクション。しかもとびきり大きなトラックの音。ライブの余韻で頭と体に染み込んでいた音楽を、細胞の一つまで残さず吹き飛ばすような音を全身に浴びた。
 ヘッドライトが視界をホワイトアウトさせて、気がついたらこうだった。
 あそこから入れる保険はどう考えてもない。
 ここが病院である可能性も、一欠片ほど残っていたけどそれならこんなふうに階段を登っていて、誰もいないなんてことはありえない。
 ここから先に待ち受けているのはなんだろう。
 神様っぽいヒゲの老人が待ち受けている?
 中国っぽい服を着た閻魔様が顰めつらしい顔で、生前にどんな人間だったのか捌いてくれる?
 エジプトっぽい格好の横顔しかわからない神様が、羽と天秤を持って心臓を切り出そうと待ち構えているとか。
 この先に川が流れていて、そこを渡るのかもしれない。船守がいたら、お金を渡さないと。最近現金持ち歩いてないけど、電子決済ってできるかな。
 登るのが正解なのか降るのが正解なのか、わからないけれど、ここにいたときに向いていた方に向かってとにかく進んだ。
 頭の中にクラクションの音が蘇る。何度も、何度も、あの瞬間が脳裏を掠める。
 イヤホンの充電は残っていた。スマホもまだ生きてる。よかった。
 音楽を流すことにした。
 ここは静かすぎたし、クラクションの音のことはもう考えたくなかったから。