白殊皎(しらよし こう)
2026-01-22 20:00:00
2654文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

幸せの形をあらわすならば

カルデアの食堂での朝のひととき。
焼きたてのパンとコーヒーの匂い。

この作品はWaveboxにてリクエストをいただきました!
◆リクエスト内容
「ネモベーカリーでお買い物してイートインする土近(inカルデア)」


ネモ・ベーカリーちゃんの焼きたてのパン、美味しいんでしょうね!
近藤さんなら10個くらい平気でいきそうです。
いや、もっといくかも!?
とにかく美味しいものをいっぱい食べてほしいですね!!




 朝の食堂は混み合っていた。
 今日は殊更だ。
 何故かというと週に二日ほどのネモ・ベーカリーの焼きたてのパンが饗される日なのだから。
 週に二日なら入手も容易かと思われるが、数多のサーヴァントが狙うものなので、それはあっという間に無くなる大人気の逸品なのだ。
「まだ残ってるかい?」
「おはようございます、土方さん。まだ十分にありますよ」
 何番目かにネモ・ベーカリーの前に立ったのは土方歳三だった。
「だとよ、近藤さん。今日は好きなのを選べそうだぜ」
 土方がそう言って背後に声をかければ、黒髪を靡かせてひょっこりと近藤勇が顔を出した。
「おはようございます、ベーカリー殿」
 香ばしいパンの匂いを楽しむような表情で、明るく挨拶をする。
「おはようございます、近藤さん。どうぞ、お好きなものを」
 近藤は案外、新しいもの好きだ。
 黒の剣士の時の英語は言うに及ばず、異国や当世の行事、食べ物、なんでも興味を示す。
 このパンにしても召喚されてしばらくして口にしてから随分と気に入ったようで、あらかじめ提供されることがわかったその朝ともなれば、前日に何があっても土方をたたき起こす。
 一人で行っても構わないぞ? と言ったこともあるのだが、一人で食べても美味しくない、お前と一緒に行きたいんだ、と食い下がられて現在に至る。
「では、その丸い、ぶーるぱん? 以前いただいた時に美味しかったので。それからそちらの網目の付いた甘いパンも、あと……
 十分にとネモ・ベーカリーが言ったように、今日は古今東西の様々なパンが選べたので、近藤のトレーにはどんどんとパンが積み上がっていく。
「土方さんはよろしいんですか?」
 うきうきと目を輝かせてパンを選ぶ近藤を微笑ましく見守っていた土方にネモ・ベーカリーが声をかける。
「あぁ、俺の分も近藤さんに選ばせてやってくれ」
「歳はそれでいいのか? 私の好きなものばかりになってしまうぞ?」
「いつものことだろう」
 土方は近藤に笑いかけて、遠慮すんなと肩を叩く。
「ありがとう、歳!」
 やがて二人分のトレーに山盛りパンをのせて上機嫌の近藤が出来上がった。
「あ、土方さん。これも」
 意気揚々と席に戻る近藤について自分も席に行こうとした土方に、ネモ・ベーカリーが声をかけて新たなトレーを差し出す。
「オリーブオイルとお塩です。ブールパンにつけて食べると美味しいので」
「おぅ、ありがとよ」
 早めに渡してやらないと先に食べ終わってしまいそうだ、と思いつつ受け取って近藤のあとを追った。
「歳、はやくはやく」
 席に着いて待ちきれないとばかりに土方を呼ぶ。
「パンは逃げやしないぜ」
 子供のようなその表情に土方はつい顔が緩むのを感じた。
「いや、逃げる! ベーカリー殿のパンは時間が経っても美味しいけれど、やはり焼きたてだろう!」
 向かい合わせに座り、互いに折り目正しく手を合わせる。
「塩と、オリーブオイルだ。その丸いパンにつけるといいらしいぜ」
 そう言って先ほどもらったオリーブオイルと塩を差し出す。
「なんとも綺麗な色だね。塩はわかるけどおりーぶおいる?」
「西洋の食用油だな。ベーカリーの見立てなら良いものだろうよ」
「いろいろあるんだなぁ」
 近藤はオリーブオイルの小皿を手に取って珍しそうに眺める。
「なんだろう、とても若々しい爽やかな匂いがするね」
 そうしてスライスしてもらったブールパンの端につけて塩を振り、口に運ぶ。
「ふむ、バターとはまた違うね。これは……優しい口当たりだけど少し苦みがあって……
 もぐもぐと咀嚼して飲み込むと、にこりと笑った。
「塩の風味とよく合って美味しいよ。ほら、歳も食べなさい」
 近藤はブールパンを一切れ土方のトレーに移す。
「ありがたくいただくかな」
 その表情だけで自分は満たされた気分になるが、食べないと文句を言われるだろうから同じように口に運んだ。
 外側はパリっと焼き上がったブールパンは香ばしく、中の柔らかい部分もまたふんわりとしてそこにオリーブオイルの滑らかさが加わってなかなかの滋味だ。
「美味しいだろう?」
「あぁ、いいなこれは」
 にこにこと自分を見つめる近藤に笑顔を返す。
 それを見届けると近藤は次のパンに移っていった。
 ベーシックなバターロールや中のカレーはビーマ仕込みという本格派のカレーパン、パリッと焼き上がったバゲットにニンニクとバジルのソースが塗られたガーリックフランス、表面がサクサクに焼き上がったメロンパン、香ばしいシナモンがたっぷり巻き込まれたシナモンロールと見ていて気持ちのいいくらい次々とパンが消えていく。
 様子を見て土方が二人分のコーヒーを取りに行く頃には大多数が近藤の腹に収まっていた。
「ほらよ、近藤さん。茶でもいいかと思ったがパンにはやっぱりこっちだろう」
 先達てそのままだと苦すぎる、と言ったので借りてきた砂糖壺を添えて、近藤にそれを渡した。
「あぁ、ありがとう。やはりこれの香りはいいね」
 両手でカップを持ってしみじみと香りを楽しむ。
「苦みも、慣れればいけるぜ」
「わかってはいるんだけどね」
 近藤はふふ、と照れ臭そうに笑って、砂糖壺からそこそこの量の砂糖を追加した。
 コーヒーを少しずつ飲みながら、残ったパンを全て平らげると近藤は満足そうに息を吐き出した。
「もういいのか?」
「流石の私も十分だよ。歳こそ、あまり食べなかったけど大丈夫なのかい?」
「ちゃんと食ってるよ」
 近藤に分けてもらったブールパンに、それとは別にロールパンと惣菜パンをいくつか口にしていたから、土方的には十分だ。
「じゃあ戻るか」
「その前に、ベーカリー殿にお礼を言ってくる」
 だから私が片付けるよ、と二人分のトレーにカップ、砂糖壺を持って近藤はカウンターに向かった。
 その楽しそうな後ろ姿を見送り、土方はしみじみと幸せを噛みしめる。
 望んで、望んで、それでも叶わないと思っていた願いが叶い、あの人と今ここに立ち、その笑顔を見ることができる幸運に。
「歳、お待たせ! 特別にクッキーをいただいたぞ! 部屋で食べよう!」
「あぁ」
 ネモ・ベーカリーからのおまけを持って嬉しそうに駆け寄る近藤に手を差し出して手を繋ぐ。
「お熱いねぇ」
 誰かの呟きが聞こえたような気がしたが、そんなものは気にならない。
 だって、この人は自分の──恋人なのだから。