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やまだ
2026-01-21 23:31:05
1774文字
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羅小黑戦記
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2021.05.11 師弟 あなたのいるところがぼくのおうち
「今夜は私の霊域で眠るか?」
風が強い日、冷たい雨の日、地熱の引かない蒸し暑い夜、ムゲンはシャオヘイを見下ろして必ずそう言った。
「えっ、別にいい」
それに対するシャオヘイの返答は、その日の気分によってまちまちだ。疲れきってぐっすり眠りたい日はムゲンの提案に乗るし、それほどでもなかったり、気が乗らないときには今日のように否を伝える。
「そうか?」
「うん」
「わかった」
「
……
あのさ師匠、なんでぼくのことそんなに霊域に呼びたがるのさ」
洞窟の外ではぼうぼうと強風が吹きすさんでいるが、その風もシャオヘイたちのいる位置までは届かない。
ムゲンの前で、小さな焚火の炎がたまにゆらっとするくらいだ。
胡坐を組むムゲンの膝を枕に、しっかりと毛布にくるまれているから、シャオヘイの寝支度はばっちりだ。
火があるおかげで暖かく、居心地もいい。
そもそもシャオヘイは森育ちの妖精なので、人間の使うような柔らかい寝具はあれば嬉しい物だが、必須というわけではないのだ。
そして、それはムゲンも同じはずだった。シャオへイの師は寝ると決めたら岩の上でも眠れる人だ。昔使っていた寝台でなければ安眠できない、などという繊細さとはかけ離れた場所にいる。
「そのほうがいいと思って」
「寝るだけなのに? ここでいいじゃん」
ふ、と笑う声がして、大きな手がシャオヘイの髪をごしごし撫でた。下から仰ぐムゲンは昼間と同じ顔をしている。まだ眠くはなさそうだ。
「もしかして師匠、霊域の中で遊びたいの? それならいいよ、ぼくも行ってあげる」
「いや。そうじゃない」
「じゃあなに」
額の上で止まったムゲンの手を捕まえて、指を適当に丸めたり伸ばしながら訊ねてみる。ずっと気になっていた謎がいよいよ解けそうで、なんだかシャオヘイの眠気もどこかへ吹き飛ばされてしまったようだ。
「霊域には私の家がある」
「知ってるけど」
一番最初に霊域へ連れて行かれたときに聞いた。ムゲンの家は狭いけれど清潔で、しんとして、それなのにいやな感じは少しもしない。最近はシャオヘイの着替えやおもちゃの置き場所も兼ねているから、小さな家の小さな箪笥はぱんぱんだ。
「私の家だが、おまえの家にしてもいいんだぞ」
「
……
んん?」
ぱちん、と焚き火が爆ぜたのと同時に、シャオヘイも瞬きした。微笑むムゲンの手を掴んだまま、ぐうっと引っ張って体を起こす。すべり落ちた毛布はムゲンがもう片方の手で火から離してくれた。
「師匠のうちが、ぼくのうち?」
「ああ」
ムゲンの腿を跨いで、ハンモックを使うように胡坐のあいだに落ちつく。思いきり足を放りだしてもシャオヘイの爪先はムゲンの膝にも届かない。
ぽん、とムゲンが置いた手が毛布のように、シャオヘイの腹をすっかり隠してしまうのだ。
「嫌か?」
優しい声を下から見つめる。ほんの少しだけ、ごくゆるやかに微笑む口元に、シャオヘイはううんと首を振った。
「やじゃない。でも、師匠のうちは師匠だけのうちにしといていいよ」
「
……
なぜ?」
「んー
……
」
まるく大きくなったムゲンの目が本当に不思議そうだったので、ちょっと唇が尖ってしまう。きっとムゲンは本当にわかっていないのだ。
ぱしん、とムゲンの腿をひっぱたく。
「だってぼくのうち、ここにあるし。だから、師匠の家もらわなくても平気」
さらに瞠目するムゲンから勢いよく顔を背けた。もう知らない。胡坐の上でごろんと寝返りを打って体を丸める。
もうすっかり目は冴えてしまったけれど、ぎゅうっと瞑って寝息をたてるふりをした。
「
……
そうか」
シャオヘイが五回目の深呼吸をするころに、ようやく黙りこんで固まっていたムゲンの呟く声が聞こえた。
優しい声だ。見えなくてもわかる。笑っている。
丸めたシャオヘイの背中をぽん、ぽん、と叩きながら、ムゲンはもう一度そうかと呟いた。
「おやすみ。シャオヘイ」
「
……
ん。おやすみ、師匠」
背中を叩く手がふと止まり、ふ、とムゲンが微かに笑う声がする。
それでシャオヘイは自分の失言に気づいたが、もうここからどう取り繕えばいいかわからない。結局ムゲンに背を撫でられながら、熱い頬をごまかしごまかし長いこと高いびきを続けなければならなくなったのだった。
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