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とーほん
2729文字
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短編1
イが喜ぶので嫌いなムと仲良くするカククと嫌われてるのを分かった上でカククと仲良くするム
2人が仲良くて嬉しい何も知らないイ
とても短い
今日は朝早くから出張診療があった。
いつもと比べ物にならないほど早い時間でもカクークはちゃんと予定通りに起きてイファに褒められた。
ただ抗えない眠気に襲われてしまい長い瞬きを繰り返していた所をイファが両手で抱えて運んでもらった。
カクークの目がしっかり覚めた頃に着いた出張先で1匹のクク竜が地に伏せてか細く泣き続けている。明らかに普通ではない様子だった。
イファが慎重にかつ急いで診ても体温や鼓動は正常で外傷や思い当たる病気もない。
そこでカクークが話を聞くと、その竜曰く「主人が新しく迎え入れた仔竜にかまけてばかりで拗ねていた」と。
つまり仮病。
相当演技が上手いのか他の竜医が匙を投げ回ってきた案件で長丁場を覚悟していた2人は肩透かしを食らった気分だった。
こういう時に竜と話せる同僚がいると助かると皆喜んだ。
今回の診察は「竜は賢いパートナーだ」「迎え入れてもいいが、ちゃんと責任を持って全員大切にしろ」と小言を主人へ渡すだけの簡単なもので終わった。
カレンダーに入っていた唯一の予定が無くなり頬を掻いたイファは隣で黙っているカクークに顔を向ける。
「診療所は休むって言ってあるしな
…
カクーク、折角だし、そうだなピクニックでもするか?」
「ほんとうか、きょうだい! さいこうだな、きょうだい!」
事前の問診で何も分からず、終わりの時間が読めないからと診療所は終日休業、食事もその場で出来るようにイファは弁当を作ってきていた。本当に簡単な軽食程度だったがこのまま2人でピクニックが出来る状態ではあるのだ。
イファとしては帰って仕事をしても良かったがまだ仔竜のカクークにはサプライズも必要だろうと思案して提案すると、実際仕事ではないお出かけにカクークは喜び宙で一回転してみせた。
ルンルンと揺れながら飛んでいるカクークとそのリズムに合わせて鼻歌を歌うイファは連れ立って安全で景色の良い崖の上に向かう。
背の高い木を見つけその根元に腰を下ろしたイファは、適当な場所に着地しようとしていたカクークを引き寄せ膝の上に乗せて弁当を広げる。オロルンがお裾分けとしてくれた野菜をふんだんに使ったサンドウィッチに新鮮な果物を2人で分け合いながら食べた。
腹も満たされ心地よい気温の中、イファは柔らかなそよ風を感じながら船を漕ぐカクークの毛並みを優しく撫でてお気に入りの歌を口ずさんだ。
青い空、白い雲、柔らかな陽の光、穏やかな風、微かに香る潮。そして、生涯を共にしたいと思い人生を捧げるほど大好きな人の膝の上で微睡むひと時。
カクークは、とてもとても幸せだった。
幸せで最高だったのだ、この瞬間までは。
「イファにカクークも!今日は大仕事があるんじゃなかったのかい?」
大きな影と共にクク竜が降り立ち、その背から花翼の集族長のムトタが顔を覗かせた。
人の良さそうな笑顔を浮かべ落ち着いた伸びやかな声で、さも当然とばかりに近寄ってイファの頬に触れる。イファもその手を何の違和感も持たずに受け入れ嬉しそうにしていた。
「予定より早く終わったからカクークと休憩しているんだ。ムトタはどうしたんだ?」
「炎神様に謁見した帰りでね
…
」
2人が楽しそうに言葉を重ねていくのを見てカクークの機嫌は急激に下がっていった。
━
カクークはムトタが嫌いだ。
オロルンに手伝ってもらい手にしたイファの隣、馬鹿なフリをしつつ自分の有用さを示して守っていたイファの横を当たり前の顔をして奪っていく。
仕事上の付き合いだけならまだしもプライベートにもムトタは入り込んでいてイファの番でもある。何よりも近くにいることを許されて、イファ本人もそれを望んでいるのだ。
カクークは決してイファの番になりたいワケではないが堂々とイファの視線を独り占めする存在には嫉妬をして怒りを感じていた。その感情も懐かない様も隠さずにいる。
それなのに、この男とカクークが仲良くするとイファは喜ぶのだ。「仲良くなったのか?」だの「2人が仲良いと嬉しいぜ」だのと言ってカクークを撫でる。
イファの機嫌が良く構ってくれるのは嬉しい。褒めてもくれる。
だからカクークはムトタと仲良くしている。
そう。嫌いで仕方なく仲良くしている相手が突然乱入して来て大好きな人の注目を奪ったのだ。2人の世界を作って寄り添い話をしている。それが嫌で嫌で仕方がない。
無垢で可愛い仔竜を装っているのをいい事にカクークは2人の間に割り込み、イファの顔に軽く体当たりをして首元にしがみついた。
「きょうだい!」
「おい、カクーク!今ムトタと話してるだろ」
呆れたように注意されたが今はカクークとの時間なのだ。咎めてくるのが不服でたまらない。カクークは眉間に皺を寄せてモゴモゴと唸るような小言を言うような声を上げた。
「ははは、2人の時間を邪魔してしまったから怒らせたかな?悪かったねカクーク」
「
……
くわぁ」
余裕そうに笑うムトタが憎い。ムトタはカクークが嫌っているのを知っているのだ。
昔にもっと明らさまに嫌っていた時に牽制をされたことがあった。仔竜の内から上下関係を分からせる為とイファに説明してから圧を掛けて来て最後カクークにだけ聞こえる声で「イファを悲しませるな」と圧をかけてきたのだ。その時にはもう2人は番っていたからどんな意味を含んでいたかは明白だ。
イファの名前を出せば言うことを聞くと思われているのかもしれなかった。そんな訳はないし、ムトタの言うことを聞く気はない。ただ、イファを悲しませる気もない。仕方なくその時から態度を軟化させた。
ムトタに怒られたのはその1回だけでその後からはカクークを子どものように扱い可愛がっている。
ムトタは全部分かって今も笑っているのだ。それも気に入らない。
ここに乱入してきたのがオロルンだったなら一緒に過ごしてやっても良かったのに。
オロルンとイファは友だちで、カクークもオロルンとは友だちだ。2人が騒いでいるのは見てて飽きないし楽しい。イファはオロルンよりカクークを優先してくれることも多い。
最高の1日だったのに、よりによってムトタと出会うのはあまりにも運がない。
「カクーク、大丈夫か?」
グズグズと思考を巡らせているとイファがぽふぽふと優しく触れて様子を伺っていた。
周りを見るとムトタは居なくなっている。
こうなると夜までムトタもいると思っていたのに、どうしたのか。
やはり最高の1日かもしれない。
その場で一回転して見せたカクークをイファは笑って見ていた。
終日構ってあげるようムトタに言われたからと知ったカクークが複雑そうな顔で床にペショっと溶けるのは翌朝のことだ。
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