やまだ
2026-01-20 21:37:42
1917文字
Public 羅小黑戦記
 

No title

2021.05.02 小黒と山新

 トイレ行ってくる!という小白の切迫した叫びをきっかけに、ゲームへ再ログインする前の休憩をとることになった。
 軽やかに立ちあがった阿根は、おじいちゃんに山新が来ていることとゲームの軽い説明、長時間静かにしていても気にしなくていいことを伝えに行っている。
 小白もきっと比去に何かしらを言いつけてから戻ってくるだろう。
 仲良しの小白がいない。面倒見のよい兄貴肌の阿根もいない。
 それで小黒はやることもなく、耳をぴくぴくさせながらあぐらをかいて、物凄いスピードでスマートフォンを操る山新の人さし指を眺めている。若水より速いかもしれない。
……山新も休憩したら?」
「時間がもったいない! ちょっとでも情報を集めてあっちであんたたちをサポートしなきゃ」
「さっき一番最初にやられてたくせに?」
「初期ステのチビ鳥でモンスターに勝てるかっ!」
 山新がぐわっと顔を上げるなりまくし立てるから耳が痛い。顔をしかめて嵐をやり過ごした。
「そんなこと言われたって知らないよ。ぼくゲームなんてやるの初めてだし」
「む……そりゃそうか。ごめん」
 こめかみをちょっと掻いてから、山新はベッドの上にスマートフォンを放り投げた。小白の所に行くのかと思ったら、ツインテールを振り回して勢いよく小黒を振り返る。
……な、なんだよ」
 小黒の前ににじり寄ってくる顔はなんだかつやつやだ。輝いているはずなのに、どうしてか笑みには圧迫感がある。小白の溌剌とした顔とは全然違う。怖い。いや、本気で怖がっているわけではないけれど。小黒には怖いものなんかほんのちょっぴりしかないのだ。
「んー、いやいや。本当にあの黒猫小黒ちゃんなんだなぁって思ってさ」
「はぁ?」
「はは、その顔。猫のときも見たことある」
 けたけた笑ってから山新も小黒の前にどすんとあぐらをかいた。まったく無防備なその仕草は、小白といるときのくつろいだ態度そのままだ。
 山新なら小黒の正体を知っても大丈夫だと、確かにそう信じられるようになっていた。なってはいたけれど、いくらなんでも適応しすぎなのではないだろうか。
 妖精の阿根を兄と呼んであれだけ慕っている小白はまだしも、山新は普通の人間だけに囲まれて過ごしてきたはずだ。それなのにあまりにも普段の、小黒が猫の姿で見つめてきた山新の様子と何ひとつ変わらなすぎて不思議になってくる。
 昔むかし、小黒がまだろくに術も使えなかったころに正体を見せた人間たちは、そのほとんどが怯えて震えていたものだった。小黒が妖精と知っても怖がらなかった人間なんて、小白に会うまでは師匠と、それと正体を知りながらお礼を言ってくれた、大きな目の女の子くらいだったのだ。
「山新って変なの」
「あんたに変って言われたくないんだど……
「ぼくのこと怖くないの?」
「なんで? 小黒が妖精だから?」
 うん、と頷くと山新はちょっと首をななめにした。
 顎の下に手をやってしかめ面になる。
「んん、別に……だってあんた、小白の家でもあたしの家でもお行儀よくしてたし、小皇のこともなんだかんだ相手してくれるし。いいじゃん妖精、こうやって話もできるしさ」
「それだけ?」
「ほかに何か理由がいる?」
 山新から逆に尋ね返されて、何も答えが出てこなかった。
 あぐあぐ口を開け閉めする小黒を見て山新がにやっとする。
「言ったじゃん、小黒は小黒。あたしは初めて会ったときから友達だと思ってたよ、あんたのこと」
……猫なのに?」
「は? 猫と友達になっちゃいけないの?」
……いけなくない」
 普通の猫のふりをしていたときだって、小白は小黒の大切な友達だった。山新が同じように思ってくれていても何もおかしくはない。
 おかしくはない。ただ、無性にお腹の中がそわそわするだけだ。
 俯いて腹を眺めていたら、つむじに山新の賑やかな笑声が弾けた。
「あっははは! 小黒、尻尾出てきたよ! どうしたの、すっごい揺れてる!」
「な、なんでもない……!」
「いいなぁ尻尾、あたしも欲しい。面白そう」
「山新だって似たようなのあるじゃん。その髪」
「ふふふん、しかもあたしには二本あるのさ。羨ましい?」
「いや別に」
 なんだとう、と凄んでくる山新と顔を見合わせて、同じタイミングでにやっと笑った。
 きっと大丈夫だ。
 小白と阿根がいて、山新もいる。皆が小黒の正体を知りながら親しくしてくれる。小黒を頼り、小黒ができないことには力を貸してくれる。
 だから大丈夫だ。
 小黒はきっと与えられた任務をやりとげ、抱えきれないほどの土産話とともに師のもとへ帰ることができるだろう。