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やまだ
2026-01-20 21:31:08
2177文字
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羅小黑戦記
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2021.04.29 師弟になった師弟
「
……
ぼく、お腹いっぱい。もういい。食べていいよ」
「まさか」
思わず箸を止めてそう言い返してしまったものだから、ムゲンは湯気越しにシャオヘイからじろりと睨まれるはめになった。
だが、まだ食事の湯気が引かない程度の時間しか経っていないのだ。卓上には運ばれたばかりの料理も複数あり、手をつけられるときを待っている。食堂を見つけて席に着くまでぐうぐう腹を鳴らしていたくせに、ほんの数口で満足するはずがない。卓の向かいからムゲンへ押してよこされた皿はほぼ手つかずの状態だった。
とりあえず箸でつまんだままの野菜を頬張る。ムゲンの右手を追いかけてシャオヘイの目が上向き、慌てたようにぱっと待いた。縮こまった肩がもじもじしている。
「
……
シャオヘイ」
「う、
……
な
……
なに」
ひと月ほどともに旅したこの子どもを、ムゲンはほんの数日前に弟子にした。
旅のあいだにシャオヘイがみせた旺盛な食欲を思う。
ここ何日かの、師匠、とムゲンを呼ぼうとしては面映げに横を向き、小さく舌打ちする様子を思い返す。
ふ、と笑って箸を置いた。
「遠慮と気遣いは違うものだ。おまえは私に遠慮する必要はないし、してはいけない」
「
……
どういうこと?」
「腹が減ったなら好きなだけ食べればいい。私に対して思うところがあるなら、おまえの言葉できちんと声にするんだ。
……
何か言いたいことがあるんじゃないか?」
「う」
下を向く子の髪の隙間で、正直な猫耳がぎくっと震える。
「シャオヘイ?」
「う
……
でも」
「でも?」
おずおず現れた目はムゲンの顔と卓上の温かい料理たちとのあいだを行き来してせわしない。その正直な気性が微笑ましいのだとは本人は知らずにいる。
「だって
……
言ったら、ムゲ
……
えっと、し、師匠、怒るかもしれないから
……
」
軽く噴き出してしまった。
「何を今更」
旅の途中、幾度シャオヘイから罵詈雑言を浴びたか知れない。そんなものとっくに慣れているし、そもそも気にしたこともない。
言外の揶揄を悟ったか、シャオヘイがさすがにむうつと膨れっ面になる。その泉先へ詫びも兼ね、先ほど勧められた皿を押し戻してやった。
「それに、遠慮するなと言ったばかりだろう」
「ん
……
うん」
「おまえの口がよく回るのはもう十分知っているさ。理由なく人が傷つくようなことを言わないのも」
「
……
うん」
すとんとシャオヘイのまるい肩が落ちる。ようやく少し緊張が解けたようだ。
照りの美しい焼き豚が盛られた皿を見つめながら、シャオヘイは小さくため息をついた。
「えっと
……
なんだか、わかんなくなっちゃった」
「わからない?」
「ムゲンと旅してたときはぼく、途中までムゲンのことやだって思ってたし、嫌われてもいいって思ってたんだ」
「うん」
「でもこれから、し
……
師匠とずっと一緒でしょ? ぼく、今はもう師匠のことやだって思ってもないし、思われるのもやだから
……
」
「ああ」
「やだから、それで
……
わかんないんだ。どういうぼくでいたらいいか、わかんない」
シャオヘイなりに悩んで悩んで、とりあえず気に入られるために自分の好物をムゲンへ差し出そうとしたようだ。
困り果てた顔で卓を見下ろす姿に微笑んで、ムゲンは取りあげた箸でひょいとシャオヘイの前の焼き豚を一切れつまみ取った。あっ、と短く叫びながら勢いよく顔を上げた子の大口めがけて放り投げる。
「うまいか?」
「
……
ん」
「そうか」
大きな咀嚼を繰り返して膨らんだ顔のなかで、疑問と困惑をいっぱいにたたえた目がムゲンを仰いでいる。
「シャオヘイ」
「ん」
「おまえが間違ったことをしたら叱ることはあるが、私は絶対におまえに対して腹を立てたり、嫌ったりはしない」
ごくんと肉の塊を飲みこむなりシャオヘイが胡乱な顔になる。
「
……
絶対?」
「ああ」
「
……
なんで絶対って言えるの?」
「私がおまえの師匠だから」
ぽかんと開いた口がちょうどいい形をしていたので、もう一切れ肉を放りこむ。茫然と瞠目しながら口だけはもぐもぐ動くのだから大したものだ。ムゲンも一切れ失敬して米と一緒に口へ運ぶ。
しばらく咀嚼のための沈黙が落ちた。口の中のものを飲みこんだのはムゲンとシャオヘイ同時で、声を発したのはシャオヘイが早かった。
「
……
師匠って、そういうものなの?」
「そう思っている」
「ふ
……
ふーん。
……
そうなんだ」
もごもごと呟いてから、シャオヘイはふっくらした手でフォークを掴んだ。目の前の焼き豚にフォークを突き刺し、ぱくりと食べる。閉じた唇はくすぐったそうに歪んでいた。
「
……
し、師匠」
「うん」
「師匠!」
「なんだ、シャオヘイ」
へへへっと笑うシャオヘイが、椅子に立ちあがりムゲンへ向かって身を乗り出す。握りしめたフォークには少し冷めかけた焼売が刺さっている。
「一個分けてあげる。食べていいよ、師匠」
さっきまで一皿まるまる譲ろうとしていた子が、今度は焼売一個きりを得意げにムゲンへ譲ろうとする。
その落差が愉快だったし、今のシャオヘイの態度にこそ安堵する自分自身に対しても、どうしても笑みが浮かぶ。
「ああ」
フォークから焼売を食べただけで顔をくしゃくしゃにして笑う、この素直な妖精の子が、ムゲンの弟子だ。
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