草原にぺたんと座ったシャオヘイは、短い手指でどうにか別々の花を編みあげることに奮闘中だ。投げ出した足のあいだには先に摘んだ野花が小山になっており、辺りには引きちぎってしまった花弁やら折れた茎やらが散乱している。
「……教えてやろうか?」
それらすべてをすっかり視界に収められるほどの位置に向かいあい、ムゲンもまた草の上に胡坐を組んでいた。散歩の最中に見つけた花畑へシャオヘイが駆けこんでから今まで、そこそこの時が経っている。
「いい! だってぼく、やりかた知ってるもん」
むうっと膨れっ面になる子の手元で、またひとつ茎からちぎれた花が草の上に落ちた。ちょっと唇を尖らせて横を向くシャオヘイの手が無事な花を探っている。
「この前シュイが教えてくれたから。そのときはぼく、上手にできたもん」
「そうは見えないが」
「……もー、師匠うるさい! ちょっと黙っててっ」
怒られてしまった。再び可憐な花々と悪戦苦闘を始めた弟子のしかめ面を笑って、ムゲンは少し背を丸める。深くゆっくりと胸へ送りこむ空気はみずみずしい香りがした。
日を浴びてつややかな緑があり、色とりどりの花があり、風は柔らかく、眼前にはいとけなくも勝気な子どもが夢中で春を手繰っている。
いつの間にかムゲンの周囲をただ流れ過ぎゆくだけになってしまっていたものひとつひとつを、シャオへイの小さな手足は余さず追いかけようとする。それに歩調を合わせると随分視野が広がり、こまごましたものまでよく見えるようになった。
ムゲンが勝手にわかったようなつもりでいたこの世界には、まだまだ知らない輝きがひそんでいる。
唇をへの字にして花の茎をこねくり回している妖精の子も、もちろんそのうちのひとつなのだ。
「もらうぞ、シャオヘイ」
一言声をかけ、シャオヘイの周りに散らばるよれた花たちを拾い集める。膝の上で軽く茎を伸ばしてやってから数本、目についたものをまとめて取りあげた。
多少傷みはしているが、この程度ならどうにでもなるだろう。
芯にする花たちに、ひとつずつ新たな花を結いていく。作りだすとなかなか懐かしく、つい指を動かしながら笑みが漏れた。こんな穏やかな懐旧も、シャオへイがいなければ味わうことすらなかったものだ。
ひとつふたつと花を編み進めるうち、懐かしさとは別の衝動が再びムゲンの唇を緩ませる。
くちゃくちゃの花を両手に握りしめたシャオヘイが、ムゲンの膝に上体を乗せて目を見張っている。ぽかんと開いた口をそのまま、ムゲンの指先を見つめてもたもたと自分の手を動かし始めた。何度も取り落としていた花がやっとシャオヘイの作った芯の上にひとつ乗る。
「できた! ねえ、師匠ほら見て、ね、ぼくできてるでしょ!」
「ああ。そうだな」
シャオヘイは得意げにへへっと笑ってから、余りの花をムゲンの膝元まで抱えて持ってきた。
躊躇なくムゲンの腕の中に潜りこんで胡坐の中心に収まった体はあたたかで、日なたの匂いがする。自分の手元とすぐ前にある手本を見比べながら、シャオへイは慎重に続きを編みだした。
「師匠、何色が好き? 黄色?」
「どうして黄色なんだ?」
「耳のとこにつけてたでしょ。好き?」
「……嫌いではない」
そもそも龍遊で花の妖精にもらったあの花は、ムゲンとシャオヘイに対する彼女からの厚意だ。個人の嗜好どうこうの問題ではなかったのだが、ムゲンの答えを聞いたシャオヘイはあからさまにその色ばかりを摘んだ花から選ぶようになった。
シャオヘイが長いこと苦心して作ろうとしている花冠は、いったい誰のためのものなのか。その答えを知ってムゲンはどうしても微笑んでしまう。
「……シャオヘイは何色が好きなんだ?」
「え? なんだろ……待って師匠、考えるから」
「なるべく早く教えてくれ」
うん、と頷いた子のまるい頭に顎を置くと、自分の手元がよく見えた。シャオヘイの手が動く速度に合わせてゆっくりと編み進めているからまだ余裕はあるが、できあがってしまえば色の変更は利かない。
「焼けたお肉の色」
「……ほかには?」
「……焼けたお魚の色?」
……完成するまでにシャオヘイの口から春めいた色の名が出てくるかどうかを、ムゲンはまず心配すべきだったようだ。
ついにぐうぐう鳴り出した腹の音に笑って、僅かに編む手を急がせる。
どんな色の冠ができあがるかはわからないが、きっとそれをシャオヘイに与えたムゲンは、黄色の多い花冠を被って食事に向かうだろう。
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