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やまだ
2026-01-20 19:51:51
1823文字
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羅小黑戦記
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2021.03.06 のんびり師弟
基本的にムゲンは規則正しい人間なので、一緒にいるシャオヘイもそれに合わせて起居することになる。
さすがに日の出とともに目を覚ましたりはしないが、それでも太陽がまだ東の低い位置にある時間、大きな手がシャオヘイをそっと揺り起こすのだ。
「シャオヘイ、朝だぞ」
あまり起こす気のなさそうな静かな声と、肩や背に添えられる手が好きだ。
だからシャオヘイはいつも、ムゲンが呼びかけてくれるまで目を瞑って一日の始まりを待っている。
......待っているのだが、なぜだか今日は、いつまで経ってもあの挨拶がやって来なかった。たまに部屋の中にぱきんぱきんと小さな音がするから、ムゲンも起きてはいるはずなのだ。それなのに毛布にくるまって耳を澄ませているシャオヘイをすっかり無視して、いったい何をしているんだろう。
さっきから何回も寝台で寝返りを打ってみたり、毛布をわざとたぐり寄せたりしているのに、ムゲンは声をかけてもくれない。さすがのシャオヘイも、とうとう我慢ができなくなってきた。
よく注意してそうっと薄目を開けてみる。
「あれっ」
目を開けるだけのはずだったのに口まで開いてしまつた。珍しいものを見たからだ。
「おはよう。起きたな」
「師匠、なんでまだ着替えてないの?」
小さな家だ。寝室と居間と食堂をすべて兼ねるこの部屋は、壁の一辺に寝台があり、中心に小さな卓がある。
薄く伸ばした金属板を手に、ゆったりと椅子に腰かけて胡桃の殻を割るムゲンは、なぜか睡衣のままだった。
寝台に飛び起きたシャオヘイの背中を毛布が滑り落ちていく。
「服ないの? ぼくのは?」
「シャオヘイ、おいで」
でも、と寝乱れて皺くちゃになった自分の睡衣を見下ろす。これは寝る前に着て、起きるとき脱ぐものだ。
他ならぬムゲンがそう言った。
「おまえもそのままでいいよ」
「な、なんで?」
「いいから」
目元を緩めて笑うムゲンは楽しそうにしている。
シャオヘイのほうはなんだか緊張してしまって、寝台を降りるにもおっかなびっくりだ。爪先だけで靴を引っかけて土間を歩く、ほんの短い距離にもどきどきした。睡衣のまま卓につくなんてしたことがない。
どうやらもう日は随分昇っているらしかった。部屋の中は窓から射すたっぷりとした光で明るく、暖かい。
卓上に散らばる胡桃の殻も果肉も日を浴びてきらきらしていた。
同じく陽だまりをたたえた膝に躊躇なく跳び乗る。
卓上に顎を乗せ、上目遣いにムゲンを窺う。
「危ないぞ」
シャオヘイのすぐ鼻先で胡桃を割る手の主からよこされたのは、口先だけの注意だった。本気で言っているわけではないとわかるから、シャオヘイも適当に返事をしてぱかんと口を開けた。舌先に乗せられた胡桃のかけらを噛みしめる。
「正しいことだけをして過ごすのでは、面白味がないからな」
すべての胡桃の殻を割り終えた手が、ひらりと動いてシャオヘイの頭を撫でてくれる。
「どういう意味?」
「一日をただ無為に過ごすのも、たまにならいいものなんだ」
「今日は修行しないの?」
「しない。
……
もちろん明日からは元通りだが」
びっくりして丸くなったシャオヘイの口に、また胡桃が投げこまれた。もぐもぐやりながら見上げたムゲンも胡桃をつまんでいる。
「シャオヘイ。たまにこうやって、悪いこともしよう」
「悪いことだって、ぼくも師匠もわかってるのに?」
うん、と頷いたムゲンの口に、今度はシャオヘイが背伸びして胡桃を押しこんでやる。ぱくんと胡桃を呑みこんだ口元は笑っていた。
「正しいことばかりしていると、じき正しいものがわからなくなる」
「なんで?」
「なんでだろうな」
ふうん、と呟いて背伸びをやめた。ムゲンの腹を背もたれにして深く座ると卓が遠ざかってしまうが、たまに大きな手がシャオヘイのもとへ胡桃を運んできてくれる。
「だから師匠、今日ぼくのこと起こさなかったの?」
「ああ。
……
そもそも、おまえはいつも私が起こす前から気がついているようだが」
当たり前のようにムゲンからそう言われて、胡桃を飲みこむ拍子にむせてしまった。ふ、と笑う声を辿って顔を上げる。
「
……
これも悪いこと? やめたほうがいい?」
訊ねるシャオヘイにムゲンは小さく微笑んだ。
「おまえはどう思う? シャオヘイ」
「シャオヘイ。
……
シャオヘイ、朝だ。起きて着替えなさい」
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