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やまだ
2026-01-20 19:47:32
2143文字
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羅小黑戦記
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2021.02.27 師弟とナタ
「おまえら、ちゃんとやれてんのか?」
ついそんなことを言ってしまったナタは、きょとんとした目のシャオヘイから不思議そうに見つめられるはめになってしまった。
比較的規模の大きい地方都市の、人工池をぐるりと囲むように作られた公園にいる。天気がよいのでナタやシャオヘイの周りは多数の人間が行き交っており、水辺で素足になって遊ぶ者もちらほらといる。屋台の立ち並ぶ一角は特に賑わっていて、買い物に行ったムゲンの姿などとっくに見えなくなっていた。
「ちゃんとって?」
ナタは池を背にして木陰の柵に寄りかかり、シャオヘイはその横に腰かけて短い足をゆらゆらさせながらムゲンを待っている。久しぶりに会ったが、相変わらず背が低くて輪郭が丸っこい。
「そりゃ、ちゃんとっつったらちゃんとだよ」
「はぁ? 全然わかんない」
ぷうっと膨れた頬が蒸しパンのようだ。ますます丸くなったシャオヘイの顔を横目に、ナタは溜め息をついた。子どもの相手は難しい。
「師匠はわかるように話してくれるのに」
「オレはおまえの師匠じゃねえよ」
とてもじゃないがナタには無理だ。四六時中これほど小さな、しかも世界の仕組みも満足に理解していない子どもの世話をするだなんて、考えるだけで頭痛がする。
無邪気な命に対して、無責任に保護を名乗り出る器量はナタにはない。
だから先のような問いが口をついてしまった。
長く、本当に長くただひとりで流浪していたムゲンは、はたしてこの黒猫の妖精との旅を後悔してはいないだろうか。
「おまえから見て、ムゲンはどんな奴だ?」
「師匠? すっごい料理が下手!」
顔を歪め、真っ先に出てくる言葉がこれなのだからシャオヘイは面白い。ほかの妖精ならこうはいかないだろう。くっくと笑って頭をしゃくる。
「ほかには?」
「えっとね。いろんなこと知ってて、ぼくに教えてくれる。凧の揚げかたとか、草笛の鳴らしかたとか。花の冠もね、師匠の作ったやつ、全然ほどけなくてすごいんだよ!」
「花冠ィ? 案外器用だな」
「うん。ぼくの靴の紐なんかもやってくれる」
ぴょんと跳ね上がったシャオヘイの靴は、そういえば綺麗な蝶結びが施されたスニーカーだ。
シャオヘイの柔らかそうな頬に滑れ日がちらちらと揺れている。懸命にムゲンの日常を挙げるたび手のひらに丸まる短い指の、貝殻のような爪も微かな陽射しを拾ってきらめく。この指ではまだ蝶結びは難度が高いだろう。
「あと結構だらしないんだ。朝起きると、師匠の髪がぐっちゃぐちゃに絡まってることがあるよ。ぼくのほうが寝相はいいみたい」
「そいつは貴重な情報だ」
へへん、と胸を張った勢いでひっくり返って池に落ちそうになる子どもの背を支えてやる。
「ナタは? ナタの知ってる師匠ってどんな感じ?」
「おまえほど面白い話はできねーな」
シャオヘイはナタの手に体重を預けたままだ。期待できらきらしているまるい目に向けて口べりで笑い、ぐっと体を元の位置へ押し戻す。こんなことすら遊びに変換してしまうシャオヘイがきゃっきゃと声をあげて、そして勢いよく自力で体を跳ね起こした。
「師匠だ!」
両手にプラスチックのトレーやらビニール袋を持った最強の執行人が、すいすいと人の流れをかき分けてやって来る。
朝のように地面へ跳び下りたシャオヘイがまっすぐ駆け寄るのを、ムゲンは微笑んで待ち構えていた。膝を折ったムゲンに飛びつき、すぐさまビニール袋に顔を突っこんで中を覗きこむシャオヘイの様子が遠慮のなくなった猫そのものだ。
仲睦まじいというよりも図々しいと呼ぶほうがふさわしいようなふるまいが愉快だった。あのムゲン相手にこうも屈託なく距離を詰められるのは、シャオヘイだからこそなのだろう。
遠慮のない距離をナタがにやにやと見守っていると、ムゲンはシャオヘイに小銭を持たせて屋台に向かわせてからこちらへやって来た。ナタと同じように柵にもたれ、しかし目は小さな背中が駆けて行った方向をじっと見つめている。
「シャオヘイは?」
「頼まれていた飴を忘れたから自分で買いに行かせた」
ただでさえ人の多い公園内でも屋台の周辺は特に混雑している。ナタはシャオヘイがどこにいるかなどもうわからないが、きっとムゲンにはあの背中がずっと見えているのだろう。言葉尻に微笑みの名残がある。
かつてこの男の口から聞いたことのない声音だ。
「なあ」
「なんだ」
シャオヘイから目を離さない男の横顔を見る。
「おまえ寝癖凄いんだって? シャオヘイが言ってたぜ」
ああ、とムゲンは呟いた。
同意を示す相槌よりも、何か思いついたときに掃らす独語に似ている。
「シャオヘイが寝ているあいだに手足で掻き回すんだ。確かに凄いことにはなるな」
「そりゃあ
……
」
ナタはぱかりと口を開けて、閉じた。
ムゲンと同じ方向を見る。
あの人混みのどこかにシャオヘイがいる。ナタにはわからない。ムゲンには、見えている。
なんだか笑えてきてしまった。腕を組み、鼻を鳴らす。
「ちゃんとやれてんじゃねーか、おまえら」
ふっ、とナタの横に落ちた笑声は、きっと子どもの爪を光らせたあの木満れ日よりもあたたかい。
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