やまだ
2026-01-20 18:55:15
1433文字
Public 羅小黑戦記
 

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2021.02.13 新年の師弟

 いつもは夜更かしするなとうるさいムゲンなのに、なぜだか今日は夜の十二時まで起きていてもいいと言う。
 お菓子を好きなだけ食べても構わないという。
 それなら、と、ムゲンが霊域の中にあるこの家にこっそり隠している……隠せているつもりでいる、とっておきのお茶を飲みたいと言ってみる。駄目元のつもりだったシャオヘイの額を、大きな手が優しく撫でた。
「もちろん構わない。こういうときのためのものだからな」
 言い終わるや否や本当にムゲンが軽々と立ち上がったので、びっくりしてしまった。茶器を揃える背中を見ながら腕を組む。
 これは、どうやら、今日は単なるお泊まりのために霊域に招かれたわけではなさそうだ。
「こういうときってどんなとき?」
「今夜のような特別な日のことだ」
「ふーん……? ……ね、今日って何かあるの?」
 ムゲンのとっておきの茶は、お湯で蒸らすとふんわりと甘やかなよい香りがする。飲むと少しだけ苦味があるけれど、お腹の中からぽかぽかになるのだ。
 とびきり高いわけでも、物凄く稀少なわけでもない。
 町で店を覗けばまず扱っていない所はないものだとムゲン本人が言っていた。
 ムゲンのそういう、なんでもないものを大切にしたり、シャオヘイに嫌な顔をせず分けてくれたりするところが、ちょっとだけ好きだった。
「今日は除夕だからな」
「何それ?」
 知らない。目をまるくするシャオヘイに、茶器を持って再び卓についたムゲンがふっと笑う。霧雨の向こうに晴れ間を探すような、咲き疲れてくたりと俯いた花をいたわるような、そんな顔だ。
 たまにムゲンはこんな顔で笑うのだ。こんなに近くにシャオヘイがいるのに遠くを見ようとする。
 それがなんだかおもしろくなくて、むうっと膨れたシャオヘイは椅子を飛び降りた。卓の下を潜ってムゲンの膝によじ登る。つむじの真上からまた抑えた笑い声が降ってくるのを、むくれたまま睨みつけた。
「おまえのことを馬鹿にしたわけじゃない」
「知ってるよー、だっ」
「そうか」
 頭を撫でる手が優しいので腹を立てつづけるのも難しい。結局ムゲンの膝に収まって、甘い香りに包まれながら菓子を頬張るうちにどうでもよくなってしまうのだ。
「で、除夕ってなんなの?」
「一年の最後の日のことだ。明日からまた、新たな一年が始まる」
 夜更かしをしていいのも、好きなだけお菓子を食べていいのも、除夕だかららしい。なんで、と訊いたらなんででもと答えられたので、たぶんムゲンにもきちんとした理由はわからないのだろう。
「ぼく、ほんとに今日はずっと起きてていいの?」
「起きていられるなら」
 淹れてもらった茶をふうふうやって冷ましたいのに、どうしても口がにやけてしまう。夜遅くまで起きてムゲンとお喋りしながら一年の一番最後の時間を過ごすなんて、そわそわが止まらない。
「大人になったみたい……
 独り言のつもりだったのにムゲンに聞き拾われていた。ふふ、と笑った吐息がシャオヘイの髪を揺らし、茶杯の湯気を揺らす。
……シャオヘイ大人ダーレン、初めて体験する除夕はいかがか?」
 ちらっと見上げたムゲンは笑いながらシャオヘイを見ていた。シャオヘイを、見ている。
 茶を飲むと体の中がぽっぽとあたたかくなった。
「悪くないね」
 そうか、と笑うムゲンに寄りかかる。
 こんな夜で一年が終わるなんて、明日からの一年もムゲンと一緒に始められるなんて、本当に悪くない。