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やまだ
2026-01-20 18:15:31
1873文字
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羅小黑戦記
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2021.01.13 キュウ爺と師弟
「師匠、ぼく眠い
……
」
月光の射す小さな露台には、ぬるい夜風と華やかな茶の香がたゆとうている。
腹もくちくなり、館から漏れ聞こえる妖精たちの明るい声に気が緩みもしたのだろう。シャオヘイは久しぶりに龍遊の妖精館を訪ねる今日をずいぶん楽しみにしていた。
「部屋を借りるか、シャオヘイ? 案内してもらいなさい」
「いい
……
」
普段の発刺さをすっかり忘れた子が、のろのろと卓の縁に捕まってムゲンのもとまで寄ってくる。そのまま腕の下をくぐり、胡坐の中心にすっぽりと収まった。
小さな手でムゲンの道服を引き、裾を掛け布代わりに巻きつけるなり深い呼吸とともに目を閉じる。
くくく、と、その一連を眺めていたキュウ爺が低く笑った。
「いい具合に収まるものじゃないか。そこがシャオへイの特等席か」
「寝支度をするのも面倒なときはこうなる」
「と言うよりは、おまえさんと離れたくないんじゃろ。いじらしいのう」
たまには顔を見せに来い、館に入る気がないなら館の外で過ごせば双方角も立つまいと、なんとも強引な屁理屈をごねたキュウ爺は本当に館の外へ張り出た露台でムゲンとシャオヘイを待っていた。
良い具合に木々に囲まれているおかげで館からはムゲンたちが見えづらく、けれどうまくひらけた一角から臨む景観は素晴らしい。儂の秘密基地じゃぞ、と片目を瞑ったキュウ爺の背後に山ほどの菓子と美しい茶盤の乗った卓を見つけたシャオヘイの目は、光を当て宝玉よりも輝いていたのだった。
夕暮れまではシュイもおり、ムゲンにもシャオヘイにもかいがいしく世話を焼きつつあれこれとお喋りをしてくれていたが、月が出る間際で名残惜しそうに腰を上げた。彼女も有能な妖精であるから任される仕事は少なくないだろう。
「うまくやっとるようで何よりじゃ」
そして本来なら、キュウ爺とてこのように丸一日のんびりと茶を飲んでいられる人物ではない。
無理をしたのだろう、と思う。昔からこの老人は何くれとムゲンに構おうとしてきた。百年ぶりの弟子を迎えた、無愛想で敵味方の双方から敬遠されがちな厄介者のことが、気になってたまらなかったに違いない。
「弟子が優秀だからな。勝手に学んでくれている」
「またそういう、かわいげのないことを。どれだけ優れた青も、藍がなけりゃ生まれんのだぞ」
「
……
出藍の誉れには早すぎるだろう」
空の茶杯をキュウ爺に攫われたので、新しい茶が満たされるまでのあいだシャオヘイの頭に手を置く。ムゲンの腿を枕にくうくうすやすやと眠る子は、実際教えがいのある弟子だ。
けれどそれがシャオヘイのすべてではない。
「いい顔をしておるよ、ムゲン、おまえさん」
月明かりを透かす湯気の向こうでキュウ爺がにやりと笑っている。差し出された茶杯を受け取り、香りを楽しむふりでムゲンが伏せた視線は、この老人に気づかれただろうか。落とした視界にはシャオヘイが眠っている。
「
……
この子といると、色々と思い出す」
サトウキビを齧れば甘い汁が出る。一日スクーターに跨っていれば気疲れする。店で食べる料理はうまく、自分で作る串焼きはなぜか決まって食材に難がある。
暦を気にするようになった。行事や季節に合わせてシャオヘイの衣装を揃えてやることが習慣になり、靴の大きさが合わなくなるたびふたりで顔を見合わせて笑った。
ふっくらした指が師匠、あれはなに、と示すたび、世界のあらゆるものに名と意味があることを思い出す。
ムゲンがムゲンであることを、ムゲンのままこの世界に立っていることを思い出す。
「教えられているのは私のほうだ。この子を通して見る世界はとてもあざやかで、みずみずしい」
できるならシャオヘイにとってもそうであってほしいのだ。
強力な妖精になど成長せずとも構わない。今はただ、あらゆるものを見て学び、吸収してほしい。世界を厭わずにいてほしい。伸びやかに、シャオヘイはシャオヘイのまま、成長してくれたらいい。
「いい師匠をもったの」
「いや、私は
……
」
呟く声のもとへ視線を戻す。キュウ爺は器用に片眉だけ高くして、細長く伸びた顎髭を撫でていた。ムゲンと視線が合うと呆れた目になる。
「おまえさんじゃないわい。逆じゃ逆」
逆、とムゲンも同じ言葉を繰り返し、それからふっと笑った。茶杯を置いてシャオヘイのまるい頭に手を置く。
「
……
そうかもしれないな」
月が明るい。
「自慢の師だ」
だから眠っていたはずのシャオヘイの、頬どころか首まで赤く茹だったさまがよく見えるのだ。
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