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akmtakr
2026-01-20 15:50:53
4318文字
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君に贈らない
■夏にSSのお題を募集したときに頂いたお題「秘密のプレゼント」から思い浮かんだはなしです。随分お待たせてしてしまった上、長編の派生の話になってしまってすみません! そもそも長編の方を読んでいなかったらよく分からないのでは……??? も、もうしわけない……そしてこれは次に出す本に収録させていただく予定です。お題を頂いたはなしなので一足先に公開させて頂きます。届くといいな。
■『あかつきの夢』の号福チャン(ていうか号チャン)と燭台切みっちゃんのはなしです。みっちゃん視点初め書いたので口調などなどかなり違和感有ると思います……優しく読み流せる自信の有る方向け。号ちゃんが恋を自覚したあと、ようやく二振一緒に過ごせるようになったあたり(本なら『曙』の頃の号チャン)の番外編です。
■光忠兄弟は少し仲良くなっています。かっこいい号ちゃんは居ません。号福ちゃんはかわいい。
「あれ?」
意外な人物を意外な場所で見かけて、思わず呟いていた。振り返った彼──日本号さんは少し驚いた顔で僕を見てから、ニッと気安く笑う。
「よお、燭台切か。どうした、買い出しか?」
「そうそう、食器を片付けてる最中に転んじゃった子が居てね。お茶碗が何個か足りなくなったから急遽買いに来たんだよ」
なんでも大抵揃う広い万事屋の、端の方。硝子のグラスや陶器のお皿、いろいろな食器が棚にずらりと並ぶ売り場に日本号さんは軽装姿で佇んでいた。
彼が万事屋に来ているところは時折見かけることもあったけれど、お酒売り場に並ぶ酒瓶や乾物なんかを眺めているところしか見たことがなかったから、ここに居る姿を見るのはなんだか不思議な気分だった。軽装の仕立ての良さも有ってか、なんだか大きなお屋敷の若旦那みたいに見える。
「日本号さんは? 何か入り用かい?」
何気なく訊きながら、本丸で使っているシンプルで安価な陶器の茶碗を割れた個数分数えてカゴに入れた。さらりと答えが返ると思っていたけど、彼は何故か「ああ」とか「まあ」とか、もごもごと歯切れ悪く唸った。
「ごめん、もしかして訊かれたくないことだった?」
「ああいや、んな大したことじゃねえっつーか
……
まあ、別に構わねえか」
苦笑混じりに言って、言葉を切る。目的のものをカゴに入れ終えた僕は彼を見て、そして彼の視線の先に目を向けた。
「長期任務続きのおかげで懐に余裕が出来たんでな、花瓶でも買おうかと思ってよ」
日本号さんの目の前の棚には、焼き物の花瓶が何種類か並んでいた。大ぶりのものや小さな一輪挿し、細かな絵付が施されたもの、地肌と釉薬のコントラストを生かしたシンプルなもの。どれも各地の名産品で、おそらくなかなかの逸品揃いなんだろう。店主の許可なく触れないように鍵付きの硝子ケースで覆われていて、値札に書かれた値段も相応の桁が並んでいた。当然だけど僕の持つカゴの中の茶碗とは扱いがぜんぜん違う。
「花瓶、ねぇ」
あの日本号さんが花瓶を? と思ったのは一瞬だけで、次の瞬間には庭で摘んだ花を大事そうに抱える僕の兄弟(彼の主張であれば兄)の朗らかな笑顔が思い浮かんだ。僕の表情をみて、彼はフンと小さくわらう。
「ま、お察しの通り、オレは花にゃ大して興味が無えもんでな。いざ実物を前にするとどれが良いのか決めかねちまってよ」
「
……
福島さんへ、これを贈るのかい?」
思わず、おそるおそる呟いていた。走り回る短刀や喧嘩っ早い刀たちや酔っ払いが常に居る本丸に、こんな高価な花瓶が置かれるかと思うとどうにもハラハラしてしまうし、──そもそも、何の意味も無く贈るものの値段じゃない。
「いや、贈ろうってわけじゃねえんだ」
「あ、そうなの?」
彼はにんまりと目を細めてみせる。
「あいつ毎日のように花抱えて来るからよ、どうせオレの部屋に置くんなら花瓶はオレの気に入ったもんの方が良いと思ってな。オレのもんだからオレの部屋以外には置かねえし、心配せんでもそうそう割れやしねえよ」
気掛かりだったところもしっかりフォローされてしまった。彼が顕現してからもう何度共に遠征や任務に出撃したかわからない。お互いに考えてることならある程度わかる
……
はずなんだけど。
日本号さんが夜間の遠征で忙しくなってから、時間を持て余しているように見えた福島さんを誘ってときどき買い出しに行くようになった。彼のする話の大半は日本号さんの話で、それは全く思っていた通りなんだけど、──彼と、日本号さんが恋仲じゃない、と聞いた時は流石の僕も心底驚いた。最初は何の冗談かと思ったけれど、福島さんは日本号さんを冗談なんかに使うような刀じゃないし、どうやら彼は片想いの気持ちを隠して傍に居る覚悟を最初からしっかりと決めてしまっていたようだった。
「
……
そっか。それなら安心だね」
日本号さんへの気持ちをひっそりと教えてくれた福島さんの、儚げな横顔を思い出す。
「おう。でな、オレにゃあどんな花瓶が花を生けるに良い塩梅なのかってのがよくわからなくてよ。この中でどれがちょうど良いもんかってのは、お前さん分かるか?」
「うーん、そうだね。歌仙くんが言っているのを聞いたくらいだけど、洗うときに手間がかからないから口は広い方がいいみたいだよ。多分シンプルなものの方がどんな花も生けやすいんじゃないかな?」
「ああ、
……
そうか手入れのことまでは考えてなかったぜ。確かになァ」
硝子ケースの中に並ぶ花瓶を、日本号さんは髭のはえた顎を指でなぞりながらしげしげと眺める。その瞳は真っ直ぐひとつのものを見ていたから、既にお気に入りをみつけているのかもしれない。値札に向きそうになる無粋な視線を、すんでのところでなんとか逸らした。
「と言っても僕は花瓶のことは詳しくないから、福島さんに直接訊いた方が確実だと思うけど」
「あー、いや、なんつーか
……
どうせなら、何だ? さぷらいず? とか、してやりてえからよォ
……
」
照れくさそうにもごもごと呟く日本号さんの考えていることが、僕には分からない。
彼が暮らす槍や大太刀用の部屋は僕らの部屋より多少は広いと言っても、身体が大きい分の広さだから実際そこまで広いとは言えないはずだ。そんな大事なスペースを当然のように使い、福島さんしか使わない自分専用の花瓶を、花に興味が無いのにわざわざ買って、部屋に置く。
基本的にどんな刀とも男っぽいあっさりした付き合い方を好む彼は、
……
余程の好意が無いとそんなことしないんじゃないかな。
そして福島さんはきっと毎日のように彼だけの特別な花瓶で、彼のための特別な花を彼のために生けるんだろう。
「もうそんなの殆ど贈ったも同然じゃない?」
苦笑しながら言うと、片眉を上げながら彼も照れ混じりに苦笑して見せた。
「
……
まァな。だがオレが贈っちまうと、あいつはそれを後生大事にしまい込んじまって絶対使いやしねえんだ。壊れもんなら尚更な」
「あ、あぁ~~
……
そっかあ
……
」
言われた途端、ものすごく納得してしまったから困ったものだね。彼なら、確かにそうする。自分のことすら大して執着が無いくせに、日本号さんのことに関しては失うことを極端に恐れてる。
……
彼から日本号さんと離ればなれになった時の話も聞いたし、そうなってしまうのも仕方ないのかもしれないけど。
「まあ実際割っちまった時を想像すると流石に不憫だしよ
……
あいつ、オレの部屋に有るもんなら案外遠慮無く使うんだぜ? やったら一切使わねえくせに」
日本号さんは喉を震わせて笑う。仕方ない奴、というからかいを含んだ低く響く声からは、こちらが照れてしまうくらいの深い愛情しか感じなかった。
彼は、心の底から福島さんのことを想ってる。
……
福島さんて、やっぱりちょっと思い込みが激しい刀なんだよなあ。
「ごめんね、うちの兄弟が」
僕もつられて笑いながら言った、──瞬間、驚いた顔で日本号さんは僕を見た。
和やかだった雰囲気が、一気にピリッとしたのを肌で感じる。
え? あれ?
「
……
ハッ、構わねえよ。オレに対して遠慮なんざしねえようあいつをイチから育てたのはオレだしなァ」
いけない。良くない地雷を踏んだのかも。
「う、うん、そうだよね。ごめんね、彼のこと任せきりにして
……
」
「お前さんが謝ることじゃねえよ。オレが望んで引き受けたことだ」
ああ、違う。これは逆効果だ。 ええと、うーん
……
?
「燭台切」
「は、はい」
「オレが、お前さんらの望む通りにあいつから引き離されてる間、マメにあいつの相手してやってくれてたんだって? 嬉しそうに話してくれたぜ。世話になったな、"うちの光忠"がよ」
「ああいや、
……
うん」
あれは僕が望んだわけじゃないんだけどとか、でもそう思われても仕方ないかな、とか、思うことはいろいろ有ったけど。それより何よりも、彼が急にここまで機嫌を悪くした原因、分かり易すぎやしないかい?
背筋を伸ばして腕を組み、目を細めてこちらを見下ろす日本号さんはかなり威圧的だ。でもなんだか、そんな風にむきになる理由を思うといっそ微笑ましいような、福島さんが彼をかわいいと云うのがほんの少しだけ理解できた、ような?
「
……
ふふ、そっか」
「あン?」
「ううん。顕現したばかりの頃から僕の兄弟を大切に守ってくれて、本当にありがとう、日本号さん」
「お、
……
おう?」
「これからも"貴方の光忠"のこと、大切にしてあげてね」
瞳を瞑ってウインクを贈ると、彼はギョッと目を見開いてから、眉を寄せ、口をへの字にして顔を顰めた。うわ怖い顔。だけどこれ、彼は多分照れてるのかも。
大きな舌打ち。やれやれと言わんばかりのため息のあと、日本号さんは軽く咳払いをして、ボソボソと呟くように言った。
「お前さん、間違いなくあいつの弟だよ
……
」
「弟かはさておき、兄弟なのは確かだから仕方ないね」
首を竦めて言うと、つまらなそうに鼻を鳴らされた。さて、これ以上機嫌を損ねる前に退散させていただこう、夕餉の支度はまだ終わってないしね。
でもその前に、一言だけ。
「日本号さん」
「
……
なんだよ」
「花瓶は、貴方が気に入ったものを選ぶのが一番だと思うよ。福島さんなら毎日張り切って貴方お気に入りの花瓶に合ったアレンジを考えることを楽しむんじゃないかな」
藤色の瞳が僅かに見開かれて、僕を見た。まるで幼い子どもみたいな無垢な目をするから、咄嗟に励ますように強く頷く。
「福島さん、喜ぶよ。絶対にね」
微笑みながらはっきりと告げた。僅かに遅れて彼もニヤリと普段通りの不敵な笑みを浮かべ、
「ハッ! 当然だな」
一瞬垣間見えた心許なさを吹き飛ばすように、堂々と胸を張ってみせた。
二振の間に有る感情は僕が思っていたよりもずっと健全で、穏やかで、──むしろもどかしいくらいだ。あの日本号さんがねえ
……
と思うと、つい笑ってしまいそうになる。
それだけ大切なんだ。お互いのことが。
誰も居ない夕暮れ前の帰り道、僕は含み笑いを隠さずに歩く。
彼はどんなふうに、どんな言葉のあと花瓶を彼に見せるんだろう。それに対して彼は、どんな反応をするんだろう。
きっとそのうち僕の兄弟は、嬉しそうにはにかみながら僕にこっそりそのときのことを教えてくれるんじゃないかな。
風呂敷の中の茶碗がかちゃかちゃと鳴る。まるで僕の気持ちを代弁してくれているように楽しげだった。
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