ナワーブには生まれ付き体に痕があった。生まれ付きで傷を負ったわけではないのだから痕というよりは痣と呼ぶのが相応しいのかもしれない。しかしそれは、見るからに何か鋭くて大きな刃の辿った道筋のようだったので、ついつい痕と呼んでしまう。
それはナワーブの右胸から左腹にかけての痕だった。一見、粗暴な獣の爪痕のようだった。だとしたら、どれ程大きな獣であろうか。ナワーブは、漠然とその姿が人のものである獣だと思っていた。
しかしその痕は、生まれた時からその痕を持っているナワーブからすれば、一々気にするようなものではない。自分の体に在るものなのだから、自分自身だと思っていた。
だからこそ、その痕を、痕として、ナワーブ自身とは切り離した違うものとして認識してしまってからは、変わってしまった。全て可笑しくなった。
ナワーブが自分自身も同然だと思っていし、正しくそうである筈の体の痕だった。今迄は何も意識していなかった。何も気にしていなかった。なのに、自分の体から、その痕から、何か自分ではないものの気配を感じる。
気付いたその日から、霧の気配が絶えない。
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