ぽふむん
2026-01-20 10:11:08
3280文字
Public WEBイベ展示用作品
 

あなたに捧げる37Kgのチョコレート人形番外編~黒死牟編

これで上弦壱弐参揃いましたw
明治維新に伴い、人であった頃とは明らかに食生活が変わりました。
当時は超高級品、薬だった物が健康のため常飲されるようになり……

濃き紫の着物の、古武士然とした男はひとつうなづいた。
目深に被った網代笠を少し持ち上げれば、それは異形の者だった。
血走った赤い眼が六つある。

嫋嫋と琵琶の音が鳴り響く。
そんな広い板の間に、ただ一人佇んでいた。
よく見れば、また別の空間にその琵琶を奏でる女がいた。

「今宵も良き琵琶の音だ。淀みない」
「は・・・このような下賤の身にありがたきお褒めのお言葉。
恐悦至極にございます」

異形の古武士のややぶっきらぼうな賛辞に、静かに演者の女は答えた。

その女も異形だ。
大きな目が顔の中央にひとつだけ。

「もう少しこの琵琶の音を聞いていたいが・・・無惨様のご下命だ。頼むぞ」
「承知いたしました」
女は、撥を大きく振りかぶると

べん

琵琶の大きな一声と同時に古武士は消えた。
「ご武運を」

女は凛とした声で静かに一言つぶやくと、また嫋嫋と琵琶を掻き鳴らし始めた。

それと同時に城の構造が、内装が変わっていった。

🌙🌙🌙🌙🌙🌙🌙🌙🌙🌙🌙🌙


この古武士が鬼となり、四百年近く経つ。

人だった時とは世も変わり、男も女も柔弱になったものだと思う。
古武士•黒死牟が人として生きた世は、いつ命が奪われてもおかしくはない時代だった。
身内すら本心から信用はできなかった。
殺伐とした世の中だった。
そんな戦国の世とはうって代わり、江戸の幕府が治める世は平和そのものだった。
余程の咎人でなければ、命を奪われる心配などしなくて良い。
命を失うとしたら、病か天災。
不慮の事故
そして鬼に喰らわれるだけ。
争いなどない。

平穏な世だった。
その代わり人間は惰弱になった。

そんな平穏な世で上弦弐と参が生まれ、鬼となったのは特異なことだったのだろう。
何があったのかは詳しく聞く気もないが、あんなに強い鬼はそうは生まれないらしい。

明治の世となると、黒死牟から見ればもっと惰弱になったように見えた。

(平和は人を腐らせるのだな。俺は、あの家で膿みかけていた)

あの家が仕えていた領主一族は有能だったのかもしれない。
近隣の領主と互いに牽制し合いつつも同盟を結んだ。
あの時代に、自国領を平和に繁栄させた。

自分はただ国人領主として、領地を預かり繁栄させれば良いだけだった。
時には同盟国の援軍として後詰めを務める事もあったが基本平和なぬるま湯のような時間だった。

政略結婚で、十二で妻を娶った。
同じ歳の妻だった。
数年を共にした。子も授かった。
だが・・・あれはどのような顔と声だっただろうか。
もう記憶すら朧気な、遠い昔のことが去来する。
なんとなく、つまらぬ女だったと思う。
ただ、家の安泰と子の無事な成長を願うつまらない女だった。

捨ててきたはずの妻を、なんとはなしに思い起こしたのは何故だろう。
ここがかつての自国領だからだろうか。

今自分が潜んでいる薮の外にいる母子が、あの頃捨ててきた妻子とほぼ同年だからだろうか。
妻子は、寒空の元諸肌脱ぎで乾布摩擦に勤しむ老人に話しかけていた。

「おじじ様。日が暮れてきました。冷えてきました。朝晩の乾布摩擦もほどほどになさいませ」
老爺の健康法を諌めているようだ。
だが、老爺は聞く耳を持たない。

「やかましい。女子供は黙っておれ。わしら世代が倒れたら、この国はどうなる事やら。まだ元気でおらなければ」

「もう・・・そんな時代ではございませぬ。では、ここに茶を置いていきますね。
さ、おまえらは風邪を引きますよ。中に入りましょう。私たちは温かい抹茶しるこでもいただきましょう」
「はぁい、お母様」

頑固な老人に呆れ果てたのだろう。
ひとり乾布摩擦に勤しむ老爺を残し、母子は去っていった。

ああ、何やら懐かしい。
黒死牟も、思えばこの老爺と同じだったのだろう。
人であったのならば
妻子を捨て出奔しなかったのならば

おそらく黒死牟の成れの果てはこの老爺だったかもしれない。

この老人は、さしたる武功もあげられず、平和な世を迎えたらしい。
後進は不甲斐ないようにしか見えないそうだ。
平和に膿んでいる。

ああ、この爺は自分と同じ修羅となるはずのものだった。
ただ違うのは、そんな忸怩たる思いを抱えてはいても、元主人への忠誠心は変わらないこと。
激しく嫉妬するような者もいなかった。
活躍の場がなかっただけと割り切っている。
妻子を捨て、新しい主人に仕える気はないようだ。
もう年老いて、肉質もそれなりに衰えている。
無惨様のお役に立てる鬼になれる見込みもない。

では・・・喰うとしよう。
生憎黒死牟に好き嫌いなどはない。

西の空が赤く染まる。
老爺は茶を飲むため縁側に腰を下ろした。
月が出てきた。

今宵は十六夜の月

がさり

黒死牟は老人の前に姿を表した

「!!ば・・・化け物!婿殿の留守は我が守る。娘と孫には近寄らせぬ」
老爺は刀に手をやろうと、腰に手をやるが

そうだ。
今はもうそんな時代ではない。
もう刀など床の間の飾り物。

「に・・・」
逃げろと言いきらせぬ前に黒死牟は老人の首を切り捨てた。

老爺のここは意地だったのだろう。

言葉にならない、断末魔の大音声を残し倒れ伏した。
何事かと家人が顔を出し騒ぎとなった。

仕方がない

黒死牟は老人の首と血糊だけを残し、死体を担ぐとその場を去った。

🍵🪨🍵🪨🍵🪨🍵🪨🍵🪨🍵🪨🍵🪨


「む・・・むむむ・・・これはなんとしたことか」

黒死牟は謎の腹痛に悶え苦しんだ。
鬼は死なない、病気にもならないはず。
これは、あの老人は毒だったのだろう。


「わぁ、これ腎の臓に石ができてるねぇ♪鬼でも腎結石になるんだぁ」

緊急に呼び出された上弦の弐がヘラヘラと笑っている。

そんな中、鳴女だけがおろおろと黒死牟の腰をさする。

「上弦の弐様!笑い事ではございませぬ。このやぶ医者」
鳴女に怒鳴られても、童磨は何処吹く風。
「やぶ医者とは失礼な。でも、これたくさん飲んで東司に行って、自然に排出されるのを待つしかないんだよねぇ。出る時とぉっても痛いけどあっははははぁ」

べん💢

鳴女は琵琶をひとつかき鳴らした。
それと共に童磨は消えた。
強制送還だ。





【あとがき解説】

黒死牟だけチョコ🍫ネタは難しかったのでお茶にしました。

今回の舞台は富士の霊峰の見える、とある茶所です。
継国兄弟の実家のある所は富士の霊峰が見える場所だという説を聞いて採用して見ました。
そうすると、明確に地名を書くと問題があると思って触れてませんが、あの三国のどれかだなぁっと。

黒死牟が食べたおじいちゃんは、毎日日課のように濃い緑茶を飲むだけでなく、茶殻を佃煮やかき揚げにして食べていました。
黒死牟はカフェインだけではなく、“超高濃度茶カテキン”に中ったんです。

黒死牟の人間時代は、まだお茶は高級品。
常飲するために、おいそれと手を出せるものではなかったそうです。(縁壱も炭吉の家で飲んでたのはお白湯か麦茶なんだと思います。横山光輝の徳川家康でも茶漬けではなく湯漬けと言ってますので)

また、戦国武将がよくお茶会してますがそれも社交会の意味もあるけど“抹茶のカフェイン+甘いお菓子と言うエナジードリンク効果”があったという話があります。
まだ耐性のある人がそんなにいない時代の人にとっては、まぁまぁの刺激物だったのかもなという発想でした。

普段クソ真面目な人が、大真面目に変なことをしてしまう(その逆パターンで、普段おちゃらけている人の真面目顔、本当はしごできマンの本気モード)が性癖なので“勃が何故か治まらなくなる”というパターンも浮かびました。
でも、こちらはどちらかと言うとBLだし小説向きのネタではないなぁと思いましてこうなりました。

ちなみに、最後東司に行けばっていってますが、これも無限城にトイレらしき物が書かれています。
「鬼も排泄する」と確信しての描写です。