茅葺屋根には雪化粧。山々は静かに眠る頃、じんと冷え込む稽古場に、最新式の床暖房をつけてしまえばあぁ、なんともポッカポカ。仕組みを組んだ人形師がどうだどうだと胸を張る。絵師能楽師が喜び勇んで早速とばかりに稽古を始めれば、遅れてやってきた雅楽師もまた、いくつかの楽器を整えて、さらに待つ。
「すみません、遅れました」と、少女がやってくるが、雅楽師はふっと微笑んだ。「大丈夫じゃ。わしも、今準備が終わったところじゃからのう」と。少女、名をフゥリと云う。ある里よりこの芸術集団、P.U.N.K.に預けられた御巫であり、その実力はそう、太陽神のお墨付き。しかしながら脛に傷あり。故に故郷を離れ、ここで稽古を重ねつつ、彼らと生活を共にしている。
少女は年明けに洗ったばかりの衣装に袖を通していた。白と黒の、萌えたばかりの芽ような緑がよく映える。うむうむと満足げに雅楽師が頷けば、「それでは、始めようか」と。
琴の音に合わせ、少女がするり、足を踏む。円を描いた回転の、開いた扇子が風捉え、ビュウと吹いてはゴウと返す。ある里に伝わりし御神楽の舞。少女はそれひとつを極めては、太陽神に選ばれた。例え血のにじむような努力を身内に踏みにじられようとも、その舞に穢れを着せてしまったとしても。それでも少女は、この舞が好きであった。故、雅楽師は微笑んだ。なに、ならば舞えば良い。音なら任せよと。
息ひとつ弾むことなく。最後の風に笛の値が乗れば、御珠と扇子はぴしゃりと止まる。何時しか眺めていた絵師がぱちぱちと手を叩けば、「良いな、気合入ってる」、と。傍らみっつ並んだ子らも、各々に。「負けられない」とか、「また教えて」とか、「そのぐらいで満足されちゃあ困る」だとか。そんな口々に、けれど少女は笑った。「ありがと」と。
「さて、そろそろ忙しくなる時期だ。あっちこっちに散らばる前にさ。全体練習、しとこうぜ」と絵師。能楽師たちが頷いて、雅楽師もまた、準備に取り掛かる。すると、能楽師たちは少女を囲いこんでは、「一緒にやりたい」、「ね、やろ!」、「やらなきゃどうなるかわかってんだろうな?」、なんて。「こら、脅すな」と絵師がいちばんのチビを諫めれば、次に問う。「どうだフゥリ。せっかくだから、お前も通し練習参加するか?」。雅楽師は口を開き、けれども閉じて、少女をじっと見た。そんな視線に少女は振り返り、けれどふぅと息をついた。「ぜひ、一緒にやらせてください。私も…皆と一緒に、やってみたいんです」。
その答えに、絵師も雅楽師も顔を綻ばせた。「っし。多分もうわかってるだろうが、オレたちはお前たちに合わせる。好き放題に歌って踊れ。こまけぇことは気にすんな!」。「あぁ、肩筋張らず、力を抜いて…楽しんでおくれ」。
つ、と。息をのむ。シンと静まる稽古場に、ガチャリ、人形が変形し、巨大なスピーカーに姿を変えた。雅楽師が音頭を取れば、能楽師たちが飛び跳ねる。合わせて少女も跳ね飛んで、そして光と音に身を任せる。
はて、どちらが好き放題なのやら。少女は疑問を抱いたが、それも次の波に浚われていった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.