フリンズさんが介抱してくれる話


「あ、フリンズ来た!あははっ遅かったじゃーん!」
……説明を、求めたいのですが?」

 とある夜、ライトキーパー同士の呑み会が設定されていたのだが、僕はナシャタウンに向かう途中に確認したワイルドハントの討伐対応していたため、到着が遅くなってしまった。そして、フラッグシップへ到着すると、僕の恋人は……もうダメになっていたようだ。
 今日の呑み会の名目は、彼女と仲の良い女性同僚がナシャタウン駐屯地から転属になるとのことで、送別会として開催されていたはず。その主役と彼女は、文字通り絡まっていた。
「ここまで短時間で呑んだ呑まれた姿は初めて見たけど、こんな風になるとは……」と、彼女に抱きつかれて困っている女性同僚は言う。おや、皆はこの姿を見たことなかったのか。もちろん僕は知っているので、彼女には重々気をつけるように普段伝えていたのだが……今日は羽目を外し過ぎたようだ。僕は小さく、はぁとため息をついた。
「到着が遅れた上に、すぐ中座することになって申し訳ありません。彼女を送ってきますね」
 幹事役には少しの多めのモラを渡し、「これは会費の足しにして下さいね」と伝えておいた。

 近くの席で普段彼女が使っている鞄を見つけて背負い、女性同僚に絡まっていた彼女の名前を呼ぶ。呼びかけた僕の声を無視してくるので、力ずくで引き剥がすことにする。
「ほら、帰りますよ」
「え、なんで……どうして?」
 うっ……、貴女のその上目遣いは僕が弱いので、今はやめて欲しい。一瞬目を瞑って、気合を入れ直してからもう一度目を開けて「なんで、じゃありませんよ」と声をかけ、ソファに座る彼女をひょいっと抱きかかえる。この方が早そうだ。突然抱えられた彼女は「ひゃあ」と可愛い声を出して僕の服を掴んでいる。そう、それでいい。
「それでは、あとはお願いしますね」
「はい。フリンズさんこそ、彼女をお願いしますね」
「えぇ任されました」
 彼女の周りにいた方々に簡単な挨拶だけ済まし、僕はフラッグシップを後にした。

「フリンズー?」
「はい、なんですか」
「どうして私は浮いてるの?」
「そうですねぇ、ご自身で考えてみてはいかがですか」
 酔っ払いの戯言に対し適当な返事で返すと、腕の中の彼女が頬を膨らませていた。回答が不満だったらしい。
「もっと呑めたのになぁ!」
「誰が、何を言っているのやら
「でもね……へへっ」
「はい」
「フリンズの良い匂いがするから、ここが一番安心だねぇ」
 そんな可愛い事を突然言い出すものだから、僕は目を丸くして驚く。
「あ、ねこちゃんのフリンズになった」
 じっと僕の目を見つめながら手を伸ばして、僕の頬を触れる彼女。堪らず、彼女の額にキスを一つ落とした。

 ポケットから彼女の家の鍵を取り出して、扉を開ける。鍵をもらっておいて正解だった。まぁ、彼女は未だに「あげたつもりはない」などと言っているのだが。
「ほら、到着しましたよ……おや?」
 ――スゥー……
 ……これは寝ている、熟睡と言ってもいい。もう起こすのも面倒だな……と僕は考えて、そのまま彼女をベッドへと下ろす。離れようとしたところで、クンっと何かが引っ掛かった感覚があった。
……貴女のどこに、そんな握力が?」
 僕の洋服を掴んで離さない彼女を見て、ふふっと小さく笑ってしまう。
「もう、このまま寝てしまいましょう……
 彼女の隣に入り込み、毛布をかけてあげてから、すかさず頭の下に腕を差し込む。彼女を抱え込むようにすると、温かい体温と僕の好きな彼女の香りに包まれて、疲れた僕の身体はすぐに眠りに落ちてくれた。


 ***


 ――――ずつうがいたい。
 
 昨晩の事を思い出す。えーと、たしか……送別会に参加したよね、うん。仲の良い友達と離れる事は、大人なので分かってはいるけれど割り切れず、少々強めのお酒を飲んだ気がする。それはそれは美味しかった。
 仰向けに寝ていたようで、目を少し開けてみると、見知った天井が見えた。これは安心……なのだが。
 どう考えても隣に、フリンズが寝てるんだよねぇ。まだ見てないけど、わかる。……そっか送ってくれたんだね、後でお礼を言わないと。でも何故、彼が隣で寝ている……?これはわからない。
 少しだけ身じろぎして頭を動かし、寝ているフリンズの顔を観察する。うっ……、フリンズの綺麗な顔を間近で見るのは私が弱いので、寝起きの今はやめて欲しい。
 彼は目を瞑っているのに、私の目線は泳いでしまう。
 そこで一ついたずらを思いつく。もう少しだけ頭を動かし、美しい顔の頂点である鼻先に、ちゅっとキスを一つ。よしよし上手くいったぞ。
――なんでそこで鼻先なんですか」
 という耳元の声で身体が飛び跳ねてしまい、私は頭痛が悪化してベッドで数分丸まることになった。

 
「昨夜何があったか、どこまで覚えてますか?」
「やめて、良い声が頭痛の脳内に響く……
「おやおや……、全く貴女という方は
「はい、反省します……
「僕は貴女を介抱するために、呑み会で酒を一滴も呑まずに出てきたんですよ?」
「それは、もうすみませんでした。あの、声は小さめでお願い……
「貴女は今日、お休みですよね。偶然ですね僕もです。となれば昼からでも、貴女がお酌して下さるんですよね?」
「えぇ……?勘弁して下さい……

 

『貴女が注いでくれたお酒があれば、許して差し上げます』