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ウッウ
2026-01-19 18:07:14
3754文字
Public
朝の廻あざ小話
寝起きぽやぽや長を拝見し、
もしかしてえちの翌日は寝起きが悪い体力雑魚な廻って存在する……!?と思い、突発的に書きました。
こん、と卵を割り、ボウルに落とす。
二つ
――
いや、三つにしよう。菜箸で空気を含ませるように溶き、牛乳と塩胡椒、砂糖、それからマヨネーズを加え、再び掻き混ぜる。箸先がボウルに触れ、一定のリズムを刻んだ。
あざみは料理が好きだった。
作っている間は、余計なことを考えずに済む。
次の工程を効率よく思い浮かべ、味を見ては微調整する。そうして出来上がった料理を前にすると、自分でも「それなりに美味しそうに出来たんじゃないか」と思える。
それが誰かと一緒に食べるご飯なら、なおさら。
オムレツ、サラダ、フルーツヨーグルト。
皿に盛り付けてテーブルに並べると、だんだんと気分が高揚していくのを感じる。
朝はあまり食べられない人もいるだろうが、あざみはしっかり食べたい派だ。
食べないと、頭が働かないし
……
!
最近、スカートのホックがきつくなってきたことから目を逸らし、うんうん、と一人で頷いた。
食パンも焼きたいところだが
――
あざみはちらりと、奥の扉に視線を向けた。
いつもは自分よりもずっと早く起き、パソコンを叩いている彼。
いったい、いつ寝ているんだろう。そう思っていた彼が、あどけない寝顔を見せてくれるようになったのは、つい最近のことである。
初めて彼より早く起きた時、間近で見るあまりにも端正で静謐な寝顔に、思わず叫んで驚かせてしまったことがある。
それ以来、“とある条件下”では、彼はあざみより遅くまで眠っていることが分かった。
だからこの朝は、毎回少しだけ楽しみなのだ。
普段は隙のない、冷徹で鋭い目をした彼が、この時間ばかりは隙だらけで、あどけなく、幼ささえ感じさせる。
いつもは格好いいと思うのに
――
なんだかものすごく、可愛く見えてしまうのだ。
「
……
センター長さーん
……
?」
扉を開けると、そこはセンターの仮眠室だ。
二人で寝ても十分な余裕のある大きなベッドと、サイドテーブルだけの簡素な部屋。
そのベッドの中央に、こんもりと盛り上がった影がある。
そっと近づくと、あざみが抜け出した時のまま、彼は横向きになって静かに眠っていた。
あざみを腕枕していた右腕は伸びたまま。抱き寄せていた左腕は、今はシーツに投げ出されている。
規則正しい呼吸。穏やかな寝顔。
掛け布団から覗く肩に、衣服は見当たらない。
――
あの下は、裸のままだ。
床に乱雑に脱ぎ散らかされた彼の服をかき集め、簡単に畳む。
ベッドの端にそっと置き、もう一度。じっと寝顔を眺めた。
早く起こさなければ、朝食が冷めてしまう。
そう思いながらも、起こしてしまうのが勿体ない気がして、なかなか声を掛けられない。
可愛い。
可愛い。
センター長さん、可愛い。
何度見ても、きゅうんと胸を締め付けるこの寝顔は、ずるいと思う。
「
……
センター長さん、朝ですよー
……
」
そう声を掛けたのは、部屋に入ってから五分も経った頃だった。
微動だにしないその寝顔。少し可哀想な気もしたが、剥き出しの肩をとんとん、と軽く叩いて、揺さぶってみる。
「
……
起きてください、センター長さん!」
すると、ようやく反応があった。
ぴくりと眉間に皺が寄り、瞼が小さく痙攣する。
長いまつ毛が震え、ゆっくりと持ち上がった。
隙間から覗いた黄金色の瞳。微睡みの中、ぼんやりとしたその表情。まるで、子どものようだ。
「
……
ん
……
」
「おはようございます!」
にっこりと笑うあざみの顔を、彼の瞳が捉える。
ゆっくりと焦点が合い、その眦がふわりと緩んだ。
「
……
おはよう
……
ござい、ます
……
」
「朝ごはん、できてますよ」
彼はゆっくり瞬きをして、こくりと頷く。
そのまま、また静かに目を閉じてしまった。
「ちょ、ちょっと
……
!」
慌ててもう一度、肩を揺さぶる。
「お、起きてくださいー!朝ごはん、冷めちゃいます!」
「
……
はい
……
」
「もー!オムレツ、美味しそうに焼けたんです!食べてほしいんで、起きてください!」
少し乱暴に揺さぶって、ようやく彼はもう一度目を開けた。
気怠そうに上体を起こす。その背中に手を添え、支えた瞬間、小さな引っ掻き傷のような痕が目に入った。
――
昨夜の名残を感じて、慌てて目を逸らす。
「
……
っ、お、起きましたね!?わたし、トースト焼くので
……
!顔洗って、目、覚ましてきてください!」
「
………
はい
………
」
のっそりとベッドから足を投げ出した彼の膝の上に、先ほど畳んだ衣服を置く。
そしてあざみは、逃げるように仮眠室を後にした。
本当は、着替えや車椅子への移乗まで手伝いたかったけれど。
昨夜の影が、あまりにも色濃く残っている。
色香をたっぷり含んだその姿を思い出し、心臓がばくばくと音を立てた。
――
そう。廻屋がこんな風に寝起きが弱くなるのは、あざみと夜を共にした翌朝だけだ。
夜は余裕たっぷりに人を苛めてくる癖に、朝になると体裁を保てなくなるらしい。
憎たらしい反面、そういうところが可愛くて仕方なかった。
あざみは食パンを二枚、トースターにセットすると、顔の熱を冷ますようにマーガリンを冷蔵庫から取り出した。
「おはようございます
……
美味しそうですね」
やがて、車椅子をカラカラと鳴らしながら、廻屋が洗面台から戻ってくる。
その表情には疲労の色が濃く、まだ眠気が抜けきっていないようだった。
ちょうどきつね色に焼き上がったトーストに、彼の好きなマーガリンをたっぷり塗り終え、あざみはふわりと微笑む。
「コーヒーもどうぞ!」
「どうも、ありがとうございます」
彼の前には、少なめに盛り付けた皿を並べる。
以前はあざみと同じ量を出していたが、それこそ、彼は朝あまり食べられないタイプらしい。
これでも多いと言われたが
――
ただでさえ痩せているのだ。少しでも食べて、力をつけてほしい。
「いただきます!」
「
……
いただきます」
二人で手を合わせ、それぞれの皿に手を伸ばす。
ふんわりと丸く成形できたオムレツに箸を入れる。
中はとろりとした半熟だ。うん、美味しいかも。
一方、廻屋はゆったりとコーヒーに口をつけ、なかなか料理の皿には手をつけてくれない。
「
……
あの、センター長さん
……
」
「
……
なんでしょう?」
いつもより、とろんとした瞳で見つめられ、思わずたじろぐ。
そこに滲む甘さがくすぐったい。
「
……
オムレツ
……
」
「
……
ああ、すみません」
そこで、ようやく箸が伸びた。
小さめに切り分けたオムレツを、ゆっくりと口へ運ぶ。
薄く開いた唇の隙間から覗いた犬歯に、どきりとした。
昨夜噛まれたうなじを、思わず擦ってしまう。
「
……
美味しいです。とても」
「
……
あ
……
えへへ
……
良かった
……
」
昨夜の記憶を誤魔化すように笑い、あざみはトーストに齧り付いた。
彼の好物だからと奮発した、少しお高めのパンとマーガリン。
自分にはなかなか手が出せないだけあって、本当に美味しい。
「ごちそうさまでした!」
「
……
ご馳走様です」
やがて皿が空になり、二人は静かに手を合わせた。
廻屋は途中で何度か箸を止めながらも、並べた皿をすべて空にしてくれた。
少食で、食にあまり興味のない彼が、あざみの手料理はきちんと食べようとしてくれる。
その心遣いが、堪らなく嬉しい。
にこにこと皿を片付けていると、あざみの背中に、廻屋がそっと声を掛ける。
「
……
あざみさん、このまま二度寝しませんか」
「へっ?」
思いもよらない言葉に、思わず手が止まった。
振り返ると、廻屋はまだ少しぼんやりとした様子で、こちらを見つめている。
「
……
ど、どうしたんですか?体調、悪いですか
……
?」
朝は弱くても、食後にはすっかり目を覚まし、嬉々として仕事を始める廻屋にしては、あまりにも珍しい提案だ。
心配するあざみに、彼は静かに首を振った。
「いえ
……
今日は急ぎ片付ける仕事もありませんから。たまには、ベッドでゆっくり過ごしましょう」
「
……
べ、ベッドで
……
」
無意識に、ごくりと喉が鳴る。
廻屋はそれに気づいたように、柔らかく微笑んだ。そして、くすりと意地悪く目を細める。
「
……
期待しているところ、すみませんが。一旦、普通に眠るだけですよ」
「きっ!?ききき、期待なんてしてませんよ!」
顔を真っ赤にしながらどうにか洗い物を終えると、廻屋はその手を取って、仮眠室へと導いた。
朝食の後に二度寝なんて、と最初は思ったが、あざみも昨夜の疲れが残っており、お腹も膨れて、瞼は重くなっている。惰眠を貪るには、これ以上ない状況だった。
薄暗い室内。
朝と同じように、あざみは廻屋の腕の中へと収まる。
いつもはひんやりとしている彼の体温が、今はぽかぽかと温かい。
「
……
センター長さん
……
?」
「
……
ん
……
はい
……
」
微睡んだ、低い声。
胸元に鼻先を埋め、すう、と深く息を吸う。
彼の匂いに包まれて、胸の奥に安心感がじんわりと広がっていった。
「
……
おやすみなさい
……
」
「
……
おやすみ、なさい
……
」
そして、廻屋の腕に、ほんのわずかに力がこもる。
あざみも彼の背中に腕を回しながら
――
意識を静かに、眠りの底へと沈めていった。
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