私の、私達の敬愛する皇帝陛下は愛する者に救いを見つけその為に苦難を乗り越え決死の末に出逢えた彼女の手を取りそして...
打倒七英雄を掲げて継承法により皇帝を引き継いだリチャード皇帝陛下。
その陛下に選出された者たちとして共に戦った者達がアバロンの地下道のとある場所にあるシーフギルド内酒場で管を巻くのは訳がある。
「あんた達が陛下の事大好きで思い出語りしたい気持ちは凄く、すーっごくわかる!
でもね、この件についてはあたし達未だに監視されてるの知ってるでしょ?寧ろあたしよりあんた達のが大変でしょ?特にライブラ!!」
そう大声で叫びつつ整った顔の割にしまらない表情を浮かべる魔術士に人差し指を突き出しビシッと説教を決めるのはシーフギルド所属のシティシーフの少女パジャーだ。
「落ち着きなさいよパジャー。
あれからまだ3ヶ月ってとこでしょ?私だって入れ込んだ男が突然他の女と連れ立って別世界へ旅立っちゃったらこうなってもおかしくないもの。」
ワイングラスを傾ける姿はとても似合っているがその手元にある瓶の本数については触れない方が身のためだと思わせる物を持っているのは帝国と契約を交わしその剣を振るうフリーファイターのメディア。
2人はつい先日マーメイドにて行方不明となったリチャード陛下と運命を共にした者達だ。
その為、皇帝陛下が遭遇した状況や行方不明になった原因までそれなりの情報と知識がある。
国に直接忠誠を誓った騎士では無いとはいえこの案件については別件別格、同僚にも迂闊に話せることでは無い。
せいぜい情報が漏れない、帝国が求めるであろう情報の全てが揃うこの場所でのひと時の発散が精一杯でしかない。
「まーそれはあたしもわかんなくもないし、ライブラとアガタが頑張ってたのも知ってるしね...」
飲みすぎたのか語りすぎたのか過去を半数しているのかカウンター席に突っ伏した男女の頭をパジャーはよしよしと撫でる。2人ともそれなりの家柄の出だからか触り心地は極上の髪質だ。
皇帝陛下にお仕えする同じパーティーの仲間でなければ得られない感想だろう。
「大した量は飲んでないけどね2人とも...。
まあその後の後始末のあれこれはほとんど2人が背負ってるんだもの、これくらい疲れてても当然っちゃ当然よ。ライブラもアガタもお疲れ様。」
メディアがそう2人に話しかけるがどちらからも反応は得られない。
「こういう時なんて言ってあげたらいいと思うパジャーちゃん?」
手持ち無沙汰になったのか洗い終わったグラスを拭き出した少女にメディアは話題をもちかける。
パジャーはライブラとアガタがリチャード陛下に入れ込んでいるのも知っていてその動向を見守ると共に火種も投げ込んでいたのだ。
「うっ...!今思うと申し訳ない事したな~?とも思うけどこんなオチになると思わないじゃん...!!」
それは確かにそうだとメディアも思う。
リチャード皇帝陛下はどちらになびくこともなく、マーメイドの街の酒場に現れるという踊り子の正体を追って暗く深い海の底へと行ってしまった。
「御伽噺の絵本ならめでたしめでたしで終わったんだろうけどねえ...。」
残されたのは皇帝不在の帝国と、皇帝陛下に心を持って行かれてしまったアバロン帝国が誇る宮廷魔術士とその属国カンバーランドの地方当主でもあるホーリーオーダー。
「あたしたちの皇帝陛下は罪なお方だわ。」
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