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はらす
2026-01-19 01:42:54
5709文字
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忘バ
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20240813桐智 エロ目的とちゃう
2024/08/13桐智 オメガバ 5740字
159話のその後妄想。トイレを出たところで桐島と出会った智将が口説かれるネタです。オメガバ話なのにエロなしです。はるけい前提。
「きみ、オメガだよね?」
トイレの出入口で鉢合わせした今日の対戦相手は「久しぶりやな」と聞き慣れない方言で話しかけてきた。かねがねいけ好かない奴だと思っていたが、うざいを通り越して、滅してしまいたくなった。球場の塵になればいい。トンボで綺麗に整えてやる。
「いきなりセクハラですか? 先輩とはいえ、失礼のレベルを通り越してますよ」
内心の腹立ちを抑え、落ち着いて冷静に対応した。どれだけ失礼でも、数分後に対戦するチームのエースと揉めるのはまずい。しかも、今日の自分はいわば代打なのだから。朝から思考過剰だったため、すでに疲労していたが、気合で冷静さを取り戻した。落ち着け。昔から嫌味を聞き流すのには慣れている。
「いやいや、だって。今日の試合にオメガはいないはずやし、嘘の申請のせいで事故があったらまずいやろ」
鬱陶しい前髪を揺らしながら、嫌味に口端を上げ、桐島は語った。正しい忠告をしている先輩風を装っているのが面倒くさい。
運動部では体格的に不利なオメガが試合に出ることはあまりない。ほとんどの場合、試合にオメガはいないものという認識で全員が行動する。油断した集団にオメガが混ざり、事故が起こるとまずいため、オメガを擁するチームは連盟に登録することになっていた。その情報は試合前に参加チームの監督と顧問に提供され、存在の有無のみ生徒に共有される。誰も試合前後に問題なんか起こしたくないので、普段はオメガに色めき立つような奴でも、その日は少し注意して過ごす。
翻って今日の試合では、オメガとして登録された選手は誰もいなかった。それは当然だ。うちはオメガ登録なんてしていない。
「小手指が嘘の申請をしたとでも?」
「俺のな、嗅覚は特別やねん。100%当たる」
「じゃあ、今日が実績99%になる日ですね」
煽られたと感じたのか、桐島はすっと目を細めた。
このまま怒ってこの場を去ればいいと思った瞬間、桐島は自分の願いとは逆に近寄り、俺の首筋に鼻を寄せた。やめろ、寄るな、気持ち悪い。
「いやあ、やっぱりええ匂いするけどな?」
「は?」
「要くんの首筋からめちゃくちゃ甘くてええ匂いすんねん。しっとり優しい香りやで」
「気持ち悪い」
「つれないこと言うなや」
「普通に考えたら通報されてもおかしくないですよね。俺が黙っていることに感謝こそすれ、非難される覚えはないですが」
「でもなあ
……
絶対そうやもん
……
ほんまに誰にも言われたことないんか?」
「ありません。だから、オメガなんかじゃな
……
い
……
」
桐島は勝手に首筋に手を伸ばした。おいこら、襟足を弄るな、触るな、可愛いだなんて言うんじゃない。
「まあ、匂いに気がついたとしても、よっぽどイカついアルファやなかったら、清峰の隣から奪ったろ、とはならんわな」
「清峰は関係ないでしょう?」
「あんなごっついアルファとバッテリー組んでおいて、関係無いはないやろう。フィジカルは完璧やし、投球もいっとう上手い。顔も綺麗し、ちょっと笑ったらみんなイチコロや。俺の方がちょっと勝ってるとはおもうけど、他の奴らじゃなかなか勝負できひんのちゃう?」
「でも、俺、オメガじゃないですし」
「ほんまに?」
本当は、100%の自信があるわけじゃなかった。もっと確固たる自信があれば、失礼な他校の先輩なんて一蹴していたのに、不安や油断のせいで隙ができたのは拙かった。今日は、起きてから拙いことばかり起きる。
「やっぱり心当たりがあるんやろ。黙っとらんと答えて?ほんまに違うん?」
「なんで、そんなこと答えないといけないんですか」
「だって、何かの拍子にオメガだって分かったら、君、誤申請を届け出たってことになるんやで?それは嫌やわ」
試合したいもん、と桐島は口をとがらせた。子供がおもちゃをねだるみたいだ。俺はクソアルファのおもちゃでは無いのだが。
「対戦校にそんな心配してるんですか?名門の余裕なのかもしれませんけど」
「心配くらいするやろ。それとも『俺だったら弱みを活用するのに』って感じ?智将くんの考えることはえげつないな」
「皆そうでしょう。自分だけは清廉潔白みたいなことを言うと余計胡散臭いですよ」
「胡散臭いのは分かっとる。余計は余計やって」
桐島は反発しながらも機嫌よさそうに笑った。目を細めると、蛇のような嫌らしさが募る。
「智将くんのそういうところ、好きやわ」
「俺は嫌いです」
「仮にも先輩に向かってはっきり言うんやな」
「今朝まで特になんとも思っていませんでしたが、この五分間でしっかり嫌いになりました」
「なんとも思ってへんて言われた方がキツイな」
勘弁してください。疲労感を覚え、項垂れた瞬間、頭上が暗くなった。しまった、油断した。
桐島が首元の匂いを嗅いでいる。ふんふんという軽い鼻息が聞こえた。いい加減、失礼を通り越して気持ち悪くなってきた。真夏だというのに腕に鳥肌が立つ。
「やっぱりオメガだと思うんやけどな。バース検査の時はなんて言われたん?」
失礼ですよ、と反発する元気も失い、ため息ばかりが口から漏れた。ここまで断言されると、隠しているのが馬鹿々々しくなってくる。
「中学生の時に検査したのは」
「したのは?」
言い淀む自分の台詞を、桐島が促した。もうここまで口にしてしまったなら勿体ぶっても意味がない。
「判定不能、ということだったので、何の特徴も無いならベータなんだろうということになりました」
「中学生で判定不能って珍しいな」
「まあ、そうですね」
当時、その病院では初めてのケースだと告げられ、大病院での再検査を何度も勧められた。が、中学生の時点でアルファではないことが分かれば、その時の自分には検査結果として十分だった。葉流火とは違う、ということが判明すればそれで必要十分だったのだ。以来、平々凡々無特徴の証としてベータ登録している。
「ほな、バースが未成熟やった可能性もあるわけや」
「さあ、どうでもいいんですけどね」
「よくない」
「質問に回答もしたし、そろそろ解放してくれませんか。試合が始まりますよ」
「あかん!」
「なぜ?」
を掴み壁に押さえつけようとする桐島をかわそうと体を捻った。かなりの力で掴んでるが、力いっぱい抵抗して怪我をするのは避けたかった。こんなことで怪我をしたくないし、怪我はさせたくない。
「ちゃうねん」
「何が違うのか全く分かりませんが、違うんだったらこの手を離してください」
「それもあかん」
「面倒くさすぎませんか」
クスッと笑って桐島は手を緩めたが、ユニフォームの布地を離す気配はなかった。そんなに強く握らなくても、今更逃げるような無駄なことはしないのに。穏便に、しかし早期に離れたい。そろそろ戻らないと山田が探しに来るかもしれない。葉流火がどうしているかも心配だし。
「てっきり清峰と出来上がってんのかと思ってたんやけど」
「違います。清峰とはそういう仲じゃない」
「否定が早すぎへん?」
桐島は喉の奥でくくっと笑った。感じの悪さはこの上ない。
「清峰に拘ってんのかそうじゃないんか、よく分からへんやつやな。本当におもろい」
桐島は笑って俺の手を擦り、腕を辿り、肩を通過して、うなじを掴んだ。だから、勝手に襟足を弄るなよ。可愛くなんかねえよ。
「なあ、今日、俺らのチームが勝ったら番になってや」
「あ?」
「怒った顔も可愛いな。ええやん、番になりや。俺が野球も教えたるし」
口説かれているということに気がつくまで少し時間がかかった。呆れてものも言えない。呆然として桐島を眺めていると、目の前の男は急に目を細めた。なぜか嫌な感じはしない。逆に少し愛らしい雰囲気さえも漂わせていた。なんでそんな急に変わるんだ。
「て言いたいところやけどな、それは無理やねん」
「は?」
「要くんが可愛くて、ついナンパしてもうたけど、俺は番は作らへんねんな」
桐島は糸になった目をさらに細くした。もう俺なんて見えてないかもしれない。
「正確には作らないんやなくて、作られへんねん」
それまでの茶化した空気感は全くない。邪魔する気にもならず、静かに桐島の話を聞いた。
「俺は不具があって、一応アルファやけど番は作られへん。でも、代わりにオメガの香りは百発百中で当てる能力を得た。調べた医者がなんかまどろっこしいこと言うてたけど、要は相補関係らしい。どんなオメガも探し当てられるけど、代わりに番にはなれない。めっちゃいい奴を引き当てたところで番になれないんやったら意味ないんちゃうかって、うちの弟なんかは言うんやけどな。まあ、あいつは典型的なアルファやから、かすかな匂いなんて分からなくても好きなオメガと番うんやろうけど」
「はあ」
「せやから、せっかく智将くんを見つけたのに、番にはなられへん」
「はい」
「でも、俺は要くんに興味があるから、今日勝ったら付き合ってほしいわけや」
「は?いま、付き合えないっていう話をしていましたよね?」
「ちゃうちゃう。番にはなれないっていう話であって、付き合うくらいはできるやろ」
「俺と付き合っても何もないですよ?あなたは三年生の夏だから今からバッテリーを組んだところで何にもならないですし」
「いや、絶対おもろいって。だって、きみ、何か隠しとるやろ?」
「隠しごと?オメガなことですか?」
「ちゃうちゃう、バース検査の話はさっき説明してくれたやん。隠してるって言うのは、もっと性格的なことや」
「はあ?」
「君、見るたびちょっと顔がちゃうし」
「顔はいつも同じです」
そう。主人格の時だって顔は同じはずだ。
「野球のやり方も見るたびちゃうし」
そこは、否定できないし、上手く説明ができなかった。だから、公式戦で交代するのは嫌だったんだという気持ちと、花木戦の時はああするしかなかっただろうという自分への反論が脳内を交錯する。迷っている自分を桐島は何と思ったのか、目を細めて音もたてずに笑った。いけすかない野郎だ。
「ミステリアスで野球が上手い奴が面白くないわけないやろ」
「俺は面白くないです」
「ちょうどええことに、お互い中途半端なバースを持っとる」
「何もちょうど良くないですから、勝手に話を進めないでください」
「いや、ええやろ。何でも持ってる奴らにも、ちょっとは見返せるんとちゃうか」
「俺が清峰とバッテリーを組んでるから声をかけてるって言ってますよね」
思ったよりも声が荒れている。こういう時こそ冷静であるべきだ、と思うのに動悸が収まらない。
「違う違う違う違う、ちゃうねん!本当にそれはちゃう!信じて!俺の説明が悪かったけど!要くんにはめちゃくちゃ関心あるし、ちょうどええことに体の相性も良さそうなんちゃう?って話やねん。エロ目的とちゃう」
「エロ目的って
……
」
「だから体が目的なんとちゃうくて」
「じゃあ、何が目的なんですか」
「だから本当に純粋に俺と付き合ってっていうだけや」
「はあ?」
「もう一度言うけど、ミステリアスで野球が上手い奴が面白くないわけないやろ」
「もう一度言いますけど、俺は面白くないです」
「いやいや、嘘っぽい顔の奥に怖い何かがおりそうやもん」
「嘘なんかないですよ」
「そうか?結構みんな君の嘘に気がついてる気がするけど、誰も気がついていないなら気がついていないで、俺だけが君の嘘に気がついたっていうんも気分がええな。シニアの時、関東じゃ要圭は完璧超人やいうて有名やったらしいやんか。完璧の奥にあるどろどろしたもん見せてや。そういうの大好きやねん」
そんなものを見るために付き合いたいんですか?
言い返したかったが、うまく口が動かなかった。俺が作った智将の嘘を聞いてくれるなら、いっそ全部ぶちまけてしまいたいと、一瞬でも思ってしまったことに足がすくんで手足が冷えた。ここで智将であることをやめたら、主人の人生が台無しになる。葉流火をプロに送り出すこともできない。思い直し、態勢を整える間も、桐島は薄く笑ったままこちらを見つめていた。
「なあ、嘘つき同士、欠陥があるもん同士で付き合ってみたら面白いやろ?俺もしこたま嘘はついてきたからな」
桐島の声が耳を通過し脳を突く。おかげでどうにも頭が痛む。足が震えるのを堪えていたら、掴まれていた首と手に圧を感じた。
「ま、今日の試合に俺が勝ったら、考えて。絶対に、俺らが勝つけど」
耳元でそう囁き、桐島は俺のうなじに唇を押しつけてから、去っていった。
何秒くらい、いや何分くらい、経ったんだろう。朝からの出来事と、桐島とのやりとりに情報の整理が追いつかず、しばらく呆然と立っていたが、振り向くと、通路の向こうに葉流火が立っていた。
「見てたのか?」
返事はない。頷きもしないが、全身でイエスと言っていた。瞬きもせずにこちらを見つめ、閉じた唇は力んでへの字に曲がり、握った指が少し震えていた。手は大事にしないと駄目だというのに。
強張った葉流火の手を取り、捧げ持った。空いた方の手で、葉流火の指をゆっくりと撫でる。念を込めるようにゆっくり優しくしっかりと。
「全部忘れろ」
手の上の葉流火の指が再び強張るので、再度念を込めながらゆっくり撫でた。忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ。
「今日、勝つんだろ?」
葉流火が強く頷いた。
「投球に集中しないと」
そこでも葉流火は頷いた。
「全部忘れて」
ここでは葉流火は頷かない。
「俺だけを見て投げればいい」
そこで葉流火は俺の手を掴んだ。それまでとは逆に葉流火が俺の指を捧げ持ち、爪先にそっと唇を触れてから全てを元に戻した。
「今日は勝つから」
思いつめたように吐き出した葉流火は振り返り、俺を置いて駆けていった。
俺も行かないと。
俺も勝たないと。
俺も忘れないと。
桐島がうなじに刻んだキスが甘く痺れたことなんて忘れないと。
葉流火が爪先に灯したキスが酷く優しかったことなんて忘れないと。
全部忘れないと。
今日は勝たないといけないんだ。
〆
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