白殊皎(しらよし こう)
2026-01-19 12:00:00
2829文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

星降る街で想いを紡ぎ

レイシフトを許され、旅行として函館の街に降り立った二人。
興味を引くものばかりではしゃぐ近藤を土方は見守る。

この作品はWaveboxにてリクエストをいただきました!
◆リクエスト内容
「北海道新聞のネタで、函館で爆買いする近藤さんと、やれやれとなりながら付き合う土方さんの土近」

行ったことのない街を書くのは難しいですね……。
行きたいです函館!
誰か連れて行ってください!!
五稜郭のあの場所でアクスタ掲げてお写真撮りたいです!!



 早朝の五稜郭。
 かつての戦跡を二人で白い息を吐きながら、思いの丈を話しながら巡った。
 かつてのような胸に迫る狂おしい思いは感じなかった。
 それは、一人ではなく傍らにこの人がいるからかもしれないと土方歳三は思った。

 今回のこの旅行はマスターの計らいによるものだ。

──組の皆と積もる話もあるよね。カルデアだとゆっくり出来ないかもだし、リソース使ってどこか旅行行ってもいいよ。

 某日、先だって召喚された新選組局長・近藤勇はそう言われたので新選組の隊士たちといろいろと話をしたのだが、行きたい先を伝えると最終的にことごとく断られた。
 曰く『そこで話をするならまず副長とでしょう。お二人で行ってください』

 近藤が選んだのは新選組終焉の地・函館。
 確かに配慮は足りなかったかもしれないが、自分亡き後土方が辿った道を踏みしめ、今ここにあることの僥倖を思い返したいと思ったのは事実で──。

「俺が案内できるのはこれくらいだ。大して面白いもんでもなかろう?」
「いや……そんなことはないよ、歳。今でもこの地におまえは、新選組は生きている。愛されているのがわかるよ」
「あんたにそう言ってもらえるのなら、俺も走り続けた甲斐があるってもんだ」
「歳」
 近藤は土方に呼びかけるとぎゅ、とその身体を抱きしめた。
「ありがとう、私を呼び続けてくれて、手を伸ばし続けてくれて」
「それを言うのはこっちだ。ありがとよ、俺の声に応えてくれて」
 そっと近藤の背に腕を回す。
 二人はそのまま長い間動かなかった。


 しんみりするのは終わりだと、雪曇りの五稜郭に感傷は置いて、土方と近藤は函館の駅前に戻ることにした。
「さぁ、歳。どこから見て回ろうか」
 観光案内所で案内を請い、パンフレットなどをもらった近藤はにっこりと微笑んで気合いを入れる。
「観光は俺もしたことがねぇからなぁ。近場から、朝市なんてのはどうだ?」
「いいな、朝が早かったから朝食もまだだし、ここは新鮮な海鮮が食べられるのだろう?」
「らしいな」
 善は急げ、と近藤はうきうきと駅前近くの朝市に向かって歩き出す。
「あまりはしゃぐと転ぶぞ」
 そんなことはないだろうと思いつつ、土方はそのあとを追った。



 朝市は盛況だった。
 地元の人は言うに及ばず、土産を買い求める観光客、呼び込みをする店員、だれもが輝いている。
「おぉおおお~」
 それに負けず劣らず顔を輝かせる近藤は子供のようで自然土方も顔がほころぶ。
「歳、凄いぞ。あんな大きなカニが! 皆の土産にしよう!!」
 自分に呼びかけながら既にカニの元に移動している。
「歳、後は任せた!」
 吟味をして毛ガニを何杯か買い、支払いを済ませるとすぐに別の物に目を奪われたように移動する。
「こっちには鮭が! イクラがあるぞ!! 新鮮そのものだ」
 次のターゲットは鮭──よりイクラのようだ。
 カニの袋を下げて土方が追いつくと、また別のところに走って行く。
「別嬪なのに元気な兄ちゃんだな。弟かい?」
 あとから商品を受け取って歩く土方は店主や店員に笑いながらそう言われた。
「一応兄貴分なんだがな」
 苦笑しながら商品を受け取る。
 場合によってはお釣りまでだ。
「仲が良さそうで何よりだ。まいどあり!」
 気のよさそうな店員は商品を土方に渡しながらその背を叩いた。
「あぁ、ありがとよ」
 それに笑みで返してまた何かを見つけたらしい近藤のあとを追う。
 いつの間にか土方の両手は近藤の買った海鮮や土産物でいっぱいになっていた。
 爆買いとはこの事かと、土方は苦笑する。
「としー! こっちでイカが釣れるらしいぞ!」
 近藤の呼びかけに手元を整理して歩み寄る。
 そこは人気の場所らしく、多くの人が集まっていた。
「やってもいいか?」
「ここまで来ておいて、今更だろう?」
 目を輝かせる近藤に、土方はやれやれといった感じで同意した。
 近藤は真剣な目でイカの水槽に釣り糸を垂らすと、やがて見事にイカを釣り上げる。
 聞けば、生きたまま食堂に持ち込めば調理してくれるということで、朝食も兼ねてそこを訪れることにした。

「あら、お兄さん。そんな格好で寒くない?」
 湯気の上がる茶を饗しながら注文を聞きに来てくれた店員が近藤の格好を見て声をかける。
「ご心配ありがとう、お姉さん。案外寒くないから大丈夫ですよ」
 定食を二つ、一つはごはん大盛りで、と頼めば店員は微笑ましく見守る目で二人を見て引っ込んでいった。
「あれだけはしゃげば、なぁ」
 土方は片肘をテーブルについてにやりと笑う。
「仕方ないだろう? 珍しいもの、美味しそうなものばかりなのだから」
「あんたが楽しいなら、俺も嬉しいよ」
 そうこうするうちに先ほど釣ったイカが細切りの刺身にされてテーブルに届いた。
 いただきます、と手を合わせ箸を取る。
「凄いぞ、歳! こんなに綺麗な刺身は初めてだ!!」
 確かに先ほど釣り上げたばかりのイカは透き通るほど透明で見ているだけで食欲をそそる。
 おすすめだというイカの内臓と生姜を醤油に溶いてつやつやと光る身をつければ、新鮮さも手伝って食感が楽しく、また風味も抜群だった。
「うん、美味いな」
「はは、歳が沢庵以外を褒めるのを久しぶりに聞いたぞ」
「好物なんだから仕方ねぇだろう」
 やがて二人の頼んだ定食が運ばれてきた。
 近藤が海鮮を十分味わえるようにと、二人で別々のものを頼んだが、やはり大盛りの方が土方の前に置かれる。
「ほらみろ、俺のが大食いだと思われてる」
 定食の盆を交換しながら土方は笑う。
「歳はもっといろいろ食べないと駄目だぞ! いくらサーヴァントでも身体に悪い」
「わかったわかった」
 聞き慣れた文句をさらりと受け流すようにみせたが、土方は今の幸せを噛みしめた。
 そう言って自分を心配してくれるこの人が、自分の傍らにいてくれる。
 それだけで土方は涙が出そうだった。
 近藤の好きそうな海鮮を自分の皿からいくつも近藤の方に移す。
「そんなに気を遣わなくていいから、おまえも食べろ!」
「俺があんたに食べて欲しいんだよ」
 潤みそうになる目を味噌汁の湯気で誤魔化し、土方は言った。

「なぁ、歳」
 食事が終わり、茶で一息つくと近藤がおずおずと切り出した。
「なんだい、近藤さん」
「まだまだ行きたいところ、買いたいものがあるのだけれど、いいかな?」
 テーブルの上に身を乗り出して近藤はパンフレットを広げる。
 いつのまにやら地図のあちこちに印が付いている。
 荷物はまだまだ増えそうだ。
「どこへなりともお供するぜ」
 但し、この荷物を宿に置いてからな、と付け加えて土方はにっこりと笑った。
 その笑顔を見ることができるのは──近藤しかいないだろう。
 たとえ本人は気付いていなくても。