2026-01-18 20:12:01
3558文字
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cake

ヒュビビ15作品目
出会って初期のころのエピソードが一向に供給されないので捏造。
このあと風邪はしっかりうつる。

「衣装は。これで全て揃っていますね」
 ビビアンは、サンタクロースのごとく大きな袋を抱え、玄関前で最終チェックを行っていた。2週間前ほど、ビビアンの元にパエトーンからのクリスマスパーティーのお誘いが来た日。メッセージを読んだ瞬間、数秒のフリーズのあと、ビビアンは恐ろしい熱量で入念な準備を始めた。パエトーン様データベースから統計を取り、クリスマスに最適な、彼の好む衣装、ティーセット、プレゼント等、ありとあらゆるものを取りよせた。その中でも、選りすぐりをこの袋に詰めている。しかし、いかんせん量が多い。背負って持つと、ビビアンの背中はほとんど隠れてしまった。
「少し減らすべきでしょうか
 玄関横の鏡にうつる自分を見て、大真面目に思案する。
すると、突然強い冷気にさらされた。玄関の扉が開いている。見慣れた長身が見えた。
「ヒューゴ。おかえりなさい」
ただいま」
 帽子を目深くかぶって、質のよさそうな厚手のマフラーを口元が隠れるよう巻いている。そのせいで表情はあまり見えなかった。
暑くないのですか?」
 暖房のきいた場所では暑そうなうえに、ホロウなら尚更動きづらそうなその姿を見て、そう問う。
「うん?ああ……
 歯切れの悪い返事。わずかな違和感。
「ヒューゴ」
なんだ」
 帽子の下で、薄い色の瞳がこちらを見た。
「ちょっと屈んでください」
」ヒューゴは、わずかに小首を傾げる。
「いいから」
ん」
 従ったヒューゴの頭が、手の届く位置まで近づく。その隙に、帽子をさっと取って、マフラーを下に引いた。
「やっぱり
 あらわになったのは、鼻の先から耳の先まで真っ赤に染まった肌。元々の肌が青白いから、余計に赤が映える。充血した瞳は、うるんでゆらゆらと焦点が合わなかった。
……。今日の予定はキャンセルです。言い訳は中でたっぷり聞かせてもらいますからね」
何故。。俺は、もんだい、ない」
 舌足らずの返事には、何の説得力も無かった。本人もそれを自覚したのか、鬱陶しそうに目を細めて、苦い顔をする。
……」あきれてものも言えない。
ない。君は、ひつよう、ない」
は?」
違う、間違えた。ちがう。俺は
 気を遣わなくていいから行ってこい、と言いたかったのだろう。わざとたきつけたわけでもなく、素で大間違いの選択をしたらしい。相当頭が回っていないと見えた。
余計に心配です。それに、パエトーン様はお優しい方ですし、パーティーの参加者は一人ぐらい減っても大丈夫なのです。その代わり、後日埋め合わせはしてもらいますからね」
……
 また一段と強い風が吹いた。ヒューゴは鼻をすすって、力無げに頷いた。
寒さが目に染みる。涙がこぼれそうになるほどの冷え方に、たまらずビビアンは扉を閉めた。
「とりあえず、ここでは冷えますから。部屋に行きましょう」

***

 ぬくい手を引く。中に入り、上着を脱がせ、帽子とマフラーを片付ける。その間に、ヒューゴはぐったりとソファに沈んでいた。
「それで?いつから体調が悪かったんですか」後ろにいる彼に、声だけで問う。
……」返答はない。
「ヒューゴ」振り向き、名前を呼んだ。
……
 乱れた前髪の下で、うつろな瞳が数回泳いだ。名前を呼ばれたことに、気が付いているのかいないのか、ゆっくりと瞼が下りていく。
「ちょ、ちょっと!ここで寝ないで下さい!!」
 問題ないなんて大嘘だ。この様子では、あのまま私が家を出ていたら玄関で倒れていただろう。寒さで潤んだと思っていた瞳は、あったかもしれない未来を見たのかもしれない。
「もう少しだけ、頑張って、くださいっ」
 腕をぐいっと引き上げると、ヒューゴはしぶしぶとそれに従った。

 自室のベッドに落ち着いた彼は、しばらくの間寝苦しそうに何度も寝返りを打っていた。空がどんどん暗くなり、雪がちらつき始めたころ、やっと呼吸音が落ち着いてきた。今夜は都市部でも雪が数センチ積もるとの予報だ。朝そのニュースを見た時には、『帰れなくなっちゃいましたね♡』ができるかもしれない、と内心浮足立っていたが、そんなことをしていたら、今目の前にいる彼は。考えたくもない。
ごうごうと暖房がうなる。外は相当冷えるらしい。
ビビ」
 普段より数段低い、重い声。
「起きたのですか」
ん」
 熱をはらんだ声は、掠れているのに、濡れているようでもあった。緩慢な動きで上半身を起こすと、前髪をかきあげるように額に手をやる。
「痛みますか?」
多少な」
「嘘。酷い顔ですよ」
「お褒めいただき感謝しよう」
「冗談を言えるならもう大丈夫ですね。私はパーティーに行ってくるのです」
………」眉間のしわが濃くなった。
「あの、行きませんからね?」
……」眉間がゆるんだ。
「外、大雪ですよ。行けるわけないですし。行ったところで、貴方のことばかり考えてしまいそうです。そんなの、パエトーン様に失礼ですから」
 その言葉を聞いて、彼はあろうことか頬までゆるませた。勢いでひっぱたきたくなるのをこらえ、にらみつけるだけにとどめる。
「貴方のことばかりを好きで考えているわけじゃないのです!!こうやっていつも心配ばかりかけるから
「好きではないのか」
「好きですけど」
「当然君はそう……は?」
「好きです。ですが、それと貴方が死にたがりなことは別なのです」
……
「反省してください」
善処する」
 しない人の言葉だ。本人もわかっていて言っているのだろうが。
まあ、お説教はこの辺にしておきましょう。何か食べられそうなら持ってきますよ。食材はそろっていますから」
「そうだな。甘いものが良い」
「甘いもの?珍しいですね」
「珍しい?」
いえ。あ、良いこと思いつきました。あれにしましょう」
 ヒューゴが「あれ?」と問うのを後ろに聞きながら、ビビアンは小走りで部屋を出た。

***

「できましたよヒューゴ!力作です」
 数分後、ビビアンは楽しそうにそう言いながら戻った。再びのっそりと起き上がった彼の前に、持ってきたものを差し出す。
トレーの上には、可愛く盛り付けられたアイスがあった。バニラアイスの上に、苺とクリームで作られ、チョコペンで顔の描かれたミニサンタと、抹茶のクリームにカラースプレーがまぶされたツリーが乗っている。
「なんちゃってクリスマスケーキなのです」
。懐かしいな」ヒューゴの表情が、いつになく柔らかくなった。
「覚えていてくれたのですね」
「ああ」
 ビビアンがヒューゴに引き取られた、その年のクリスマス。風邪をこじらせて何日も寝込んでいたビビアンに、ヒューゴが作ったのが、その『クリスマスケーキ』だった。
「生憎材料はたっくさん余っていましたから」
すまない」しゅん、と音がしそうなほど分かりやすく耳が下向きに垂れる。ちょっと意地悪をしすぎたかと、ビビアンは慌てた。
「いえ、その。貴方と初めて過ごしたクリスマスも、外は雪で、ちょうどこんな日だったな、と。あの時、色々と準備をしてくださっていたのに、私は風邪をひいてしまって。流石にケーキは食べられないだろうけど、せめてもと、これを作ってくれたでしょう。すごく幸せで、どんな高級品よりも美味しく感じたのですよ」
初耳だが」
「初めて言いましたからね。これで、幼少の頃の借りは返せましたね」
「借りだなんて思っていたのか?」
「思っていませんが、貴方はそういう言い方の方が好きでしょう?」わざとらしく言うと、ヒューゴは喉の奥の方で音を鳴らすように笑った。
「そういう意味なら、俺は死ぬまで君に借りを返しきれる気がしないがね」
「酷い予告ですね?まあ、返して欲しいわけでもないですが。まずは、早く元気になって、私の心労を減らしてほしいのです」
分かってる」
 不意に頬に柔らかい感触が走った。いつもより物理的に熱を持った口づけに、動揺でトレーを落としかける。
「ちょっと!今そんなタイミングでした!?」
「して欲しそうだったろ」してやったり、という顔が腹立たしい。
「言い直してください」
……俺がしたくなった」
「よく出来ました。良い子にはプレゼントをあげましょうね」
 トレーを一旦サイドテーブルに置いた。ベッドに腰かけ、彼の横顔に応酬する。何度も。
………くらくらしてきた」大げさな動作で額をおさえて、ヒューゴは目を瞬いた。
「熱、上がってきました?」今度は、ビビアンがにやりと笑って見せた。
「君のせいだろう」
 アイスは、とっくに溶けている。