【春の気配はまだ遠く】

『GOZARCA』 現行未通過×

アララギの短編
※怪我/流血描写有

 バツン。繊維と意識が引き裂かれ、肉と骨が千切れる音。瞬間、赤の光に飲み込まれ暗闇に投げ出された。身体の芯から湧き出てくるのは、頂きを超え続ける激痛。闇に捧げられた視界、自分の喉から漏れる悲鳴、友人たちが世界から失われる感覚。
 沸騰する血液が、眼球から溢れている。閉ざされた暗黒には、光も色も浮かばない。更新され続ける苦痛に苛まれながら、それでも文字通り必死に皆を探す。


 一人は嫌だ。もう失いたくない。寒い、痛い、寂しい、苦しい。誰も見えない。何も証明できない。何もかもが結末を迎えた錯覚、自分が落下する。お前はここで死ぬのだと、冷静で正常な自分に告げられる。迎え入れる筈だった春も消え、宴も出来ず土に身を引かれる。


 ────倒れる直前、踏みとどまった。

 貪られた脚に残った膝から先を酷使して、握った槍を支えに歯を食いしばる。流れる液体は熱いのに、肌はどんどんと冷えていく。なのにボクは生きている。これは異常な現象であり、また狂気的なまでの執着。

 今のボクは、正気の沙汰ではない様相なのだろう。死を間近にするほどの重傷を刻まれてもなお、生存本能を上回る欲望で生きているのだ。真っ当な人間なら、恐怖し忌み嫌うのが当然の反応。奇跡的にも、此処を駆けるのは大部分が同類である。


「ぐ、がぁ……ッ!」


 立ち上がろうと、槍を掴み身体を震わせた。妖に喰まれた両の目と脚が、限界を脳に訴えている。酷い嵐に打ち付けられるような音の渦、その中心で見えない彼彼女らを求めた。

 今も皆は戦っている、その核心一つで周囲の状況を認識する。魑魅魍魎は未だ健在であり、都市に危機が迫っている現実。ならば自分が選び取るのは、華鬼としての狂乱。


「(……まだ、動ける)」


 呼吸と鼓動を無理矢理に行って、せめて役立てるように考える。視界は灼熱に塞がれたままだが、此度の舞台も慣れ親しんだ愛する都。土地の知識、聴こえる音、漂う香り、肌を撫でる空気。使えるもの全てを使って、生存と戦闘を続行した。




【春の気配はまだ遠く】





 淡い満開の桜も、横長の美しい幕も、依然としてその姿を現すことは無い。その晩餐に招待される日は、ボクらにとって一つの結末になるだろうから。