2026-01-18 18:08:49
1740文字
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coin

ヒュビビ9作目
付き合っている二人
コインを盗まれるのは、選択権を奪われてしまうほどゾッコンということです(説明しすぎ?)

「はあ。今日はもう疲れました」
「そうだな」
 波の音と、風の音。不揃いの足音。それだけの、静かな夜だった。遠くに見える無数の明かりと、鮮やかなふちどりの巨大な半円は、ただそこに佇んでいる。
半歩前を歩く彼に小走りで近づいて、斜め前から顔を覗き込んだ。
「貴方のせいなのです、反省してください」
「返す言葉もない」
 尻尾髪が月明かりにあてられて、銀色にひかる。本当に反省しているのやら、応える口調は軽い。
「そう思うなら、今後はあんな行き当たりばったりの行動はやめてほしいのです」
 咎めるが、こちらを向いた彼の、甘く細められた瞳は紅かった。
はあ」あきれて言葉も出ない。
「知っていただろう?」言いながら、どこから取り出したのか、コインを弄び出した。
「開き直るのですか」
「俺は俺だ。本質が変わることはない」
 二人の足音に、時折、コインのはねる金属音が混じる。
……不器用な人」
昔から手先は器用な方だが」
「本気で言っているのですか?」口元に手を添えて、眉を吊り上げる。
いいや。まあ、なんだ。俺も存外疲れているようだ」
 適当に答える彼を横目に、ビビアンは思わずふ、と笑みをこぼした。
貴方、気づいていないでしょうけど。数年前に比べたら、よっぽど柔らかく笑うようになったのですよ」
そう見えるか?」わざとらしく、聞き返される。
「ええ」
「ならば、それは君のおかげだな」
「当然なのです。私が一番長くそばに居たのですから」
……」コインが手に収まると同時に、ゆるやかに足が止まった。
なんて、言えたら良かったのですけれど」遠慮がちに、付け加える。
「もう、あれといた時間より、君との時間の方が長い」
……そうだったのですか?」驚いて、見上げる。
と、言ったら満足かな」
…………」また踊らされたことに、怒りと呆れで気分が冷えていった。
「おい、勘違いしないでくれ。時間は関係ないという話だ」諸手を上げて、大げさに否定する姿を見て、余計に腹が立ってくる。
「流石に怒りますよ」
「なに。実際、俺は君にこうして甘えているだろう」
私はあなたのママではないのです」
「当然。君は俺の恋人だ」
……」長い沈黙の後、ビビアンは呆れ顔で深いため息をついた。
「その自信に満ちた顔、本当に、ムカつくのです」
「そう見えるか?」
「なんですか、その言い方
「いや正直、君の前では、投げたコインが、どうか何度でも表向きで手の甲に落ちてくれ、と願ってやまないのだよ」
裏を向いたところで、結末は変わりませんよ」
……」言葉の真意をつかみかねるのか、ヒューゴは不思議そうな顔で、彼女を見つめていた。

「悪い意味ではないのです。結局のところ、選択するのは私たち自身、でしょう」
「貴方が私を選んでくれて、私も貴方を選んだ。それを、コインに委ねた結果、なんて考えるのは、つまらないと思いませんか」

……ビビアン、君、俺に似てきたか?」
不名誉なのです」
「傷つくぞ?」

「なんて。これだけ一緒にいれば、似てもきますよ」
正直に言って、あなたのやり方に賛同できないところは多々あります。そう思うたび、何度でも咎めて、叱って、悲しんで。それでも、ずっとそばにいるのは、私の意志なのです」
「この言葉の意味、よく考えてくださいね」

 月下、真っ直ぐな思いを告げられ、ヒューゴは惚けたように立ち尽くすことしかできなかった。
…………プロポーズ?」
「誰もそこまでは言っていません!!調子に乗らないでほしいのです」
「冗談だ」
「目が本気で怖いのです。というか疲れすぎです。貴方、何も気づいていないでしょう」
「どういう?」
「ほら」ビビアンの細い指の間からは、先ほどまで彼の手元に合ったはずのコインが出てきた。
……
「ね。早く帰りますよ、ヒューゴ」
……仰せのままに」
 自分には勿体ないと感じてしまうほど、美しくしたたかな彼女の笑顔を眺める。
そんな彼女と過ごす未来が、きっとあたたかいものであると思えるこの夜が、たまらなく愛しかった。

足音は、いつしか混ざり合う。風は優しく、二人を祝福した。