とある名もなき未開の惑星。その奥深く、とある場所でルークは罠に嵌まった。調査していた遺跡の中に閉じ込められてしまったのだ。見たこともない鉱石に囲まれた何もない部屋だった。突然閉まった扉を開けようとルークは手を翳す。フォースが感じられない。
かつてジェダイを陥れようと作られたのかもしれないその部屋は、単に音や光を遮るだけではなかった。特殊な鉱石が発する不気味な波動は、フォースとの繋がりを断つだけでなく、ルークを負の意識へと引きずり込んでいく。
常に感じていた宇宙の息吹が消え、ルークは暗闇の中で、世界でただの1人になったような、孤独と無力感に襲われていた。
(呼吸を整えろ。焦るな……)
自分に言い聞かせ深呼吸をする。扉は押しても引いてもびくともしない。精神を研ぎ澄まそうとすればするほど、何も感じないという不安に満たされていく。自分の心臓の音だけが、耳を塞ぎたくなるほど大きく響く――。
何の光も灯らない絶望的な静寂の中で、ルークは壁に背を預け、ずるずると崩れ落ちた。
(……ああ、覚えている。この感覚だ)
ルークは自分の肩を抱き、震えた。押し寄せてきたのは、かつて故郷で毎晩のように彼を苛んでいた、あの乾いた孤独感だった。砂漠の果てを見つめても、二つの太陽は何も答えてくれない。自分を慈しみ大切に育ててくれている人たちがいると理解しながらも、決して拭い去ることのできなかった欠乏の思い。どこでどうやって生まれたのかわからない不安やもどかしさ、父も母もいない、ただ砂に埋もれて消えていくだけの、名もなき少年としての自分。
フォースを知る前のルークにとって、宇宙はただ広すぎて、冷たい場所だった。 今、その感覚が牙を剥いて襲ってきている。
深く吐いた息は自分でも驚くほど細く、幼い子どものように震えていた。
ジェダイとしての修行も、帝国との戦いも、父を救った絆も、すべては夢だったのではないか?力が消えれば自分はまた、あの地平線を見つめるだけの孤独な少年に戻ってしまう。
暗闇は鏡のように、ルークが最も隠したかった根源的な恐怖を映し出す。それは、自分が成し遂げてきたすべてが、フォースという特別な力が偶然与えた一時の奇跡に過ぎなかったのではないか。
冷たい震える手で壁を触ると、その無機質な感触さえ、自分の存在を拒絶しているように思えた。……寒い、冷たくて寒い、この感覚も覚えている。瞼の裏に浮かぶ雪、吹雪。
「……誰か」
声を出したつもりだったが、出たのは掠れた呼吸だけだ。こんな時はいつも誰かが助けてくれた。父さん、ベン、ハン……!!
ルークの意識が、寒さと静寂の中で遠のき始めた、その時だった。
凄まじい爆発音と共に、壁が内側へ向かって弾け飛んだ。静寂という名の化け物を打ち砕いたのは、ジェダイの技でも、フォースの導きでもなかった。火薬の匂いと、立ち込める土埃。眩いライトの光が、網膜を刺す。視界が白く塗りつぶされる中、重いブーツが瓦礫を踏みしめる音が近づいてきた。
「……生きてるか、スカイウォーカー」
逆光の中に、ベスカーの鎧が鈍く光る。その姿を見た瞬間、ルークの視界を覆っていた幻影が、音を立てて崩れ去った。
「ディン……? どうしてここに……」
「グローグーがうるさくてな。あんたが「真っ暗な穴の中で震えている」と言って……」
ディン・ジャリンは足元が覚束ないルークの脇を支え、強引に立ち上がらせた。 ルークはよろめきながら、自分を支える鎧の冷たさと、そこから伝わるディンの確かな体温を感じ、ようやく自分が現実に戻ったことを悟った。
「すまない……。どうすればいいか分からなくなっていた」
ルークの自嘲気味な言葉に、ディンは気に入らないというように短く鼻を鳴らした。
「フォースとやらに頼りすぎだ。目に見えない力が消えたくらいで、死にそうな顔をするな」
ディンはそう言うと、ガントレットからワイヤーを射出し、崩落しかけている壁を固定した。その一連の動作には、鍛え上げられた技術が窺えた。
「俺たちマンダロリアンは、弾が切れたら素手で戦う。火炎放射器が壊れればナイフを抜く。普段のやり方が封じられた時こそ、そいつの闘う意志が試されるんだ」
ディンはルークの正面に立ち、バイザー越しに彼を射抜いた。
「あんたがルーク・スカイウォーカーかどうかは、その魔法が使えるかどうかで決まるのか?違うだろう」
その言葉は、冷水を浴びせられたかのような衝撃をルークに与えた。
ルークは自分の、汚れ、擦りむけた掌を見つめた。フォースが導いてくれなくても、心臓は動いている。立ち上がるための足はある。そして何より、目の前には、自分を「ジェダイ」としてではなく「ルーク」として助けに来てくれた友がいる。
「フォースがなくても、私はここにいる……」
ルークは力なく、しかし確かな意志を込めて笑った。ディンは何も言わず、ルークの震える手をしっかりと、握り潰さんばかりの強さで掴んだ。
ルークはディンに手を引かれ、外に出た。
そこには美しい夕焼けと、心配そうに駆け寄ってくるグローグーの姿があった。外気に触れた瞬間、ルークの感覚に再びフォースの奔流が戻ってきた。しかし、今のルークにとって、その光り輝く力以上に心強く感じたのは、隣で無骨に帰るぞ、と促すベスカーの篭手とグローブに覆われた手だった。
「……君の言う通りだ、ディン。私は、グローグーに常に立ち上がれと教えていたのに……」
自分は立ち上がることを諦めてしまっていた。
ルークはばつが悪そうに笑い、握られた手に力を込めた。
「それに君は、大切なものを僕に与えてくれた……」
ルークはディンと繋いだ手にもう片方の手を添えた。ディンの驚いた様子が伝わってきたが、手は振り払われなかった。冷え切っていたルークの手がディンの温もりを受け入れている。足にはグローグーが大きな瞳を潤ませてひしとしがみついている。
ルークは心の中で、かつての自分を受け入れた。もう二度と、あの砂漠の孤独に負けることはない。自分はもう、1人で孤独に地平線を見つめる少年ではないのだから。
ルークは手の力を抜き、ゆっくりディンとの握手を終えると、グローグーを抱き上げ、彼の服の汚れを払った。ルークの服を汚していた土埃がしがみついてきたグローグーに移ってしまったからだ。
「グローグーも、よく気づいてくれた。そして心配をかけたね。君たち親子にすっかり助けられてしまったな」
グローグーは満足そうに頷く。そして、ぽわ、ぽわ、と一生懸命に喋る。
「え、そうなの?ちょっと照れるな……ねえ、ディン」
ルークとグローグーはいたずらっぽく笑うとそろってディンを見た。ディンはふてくされたようにさらりとルークからグローグーを奪うと小さな声で余計なことは言わなくていい、と言った。
「ここにたどり着くまで確かに取り乱していたかもしれない。だが、ただ、あんたに死なれると、この子が悲しむから助けただけだ」
「それでも、僕は嬉しいよ、ディン」
ルークは、ディンの肩を叩いた。彼がグローグーの声を聞き、それを信じて飛んできてくれたことは真実なのだ。
「次に会うときは戦いのためではなく、ゆっくりお茶でも飲もう。まだ生徒もいないから、テンプルに招待するよ。いい茶葉が手に入ったら連絡する」
「ああ。約束しよう……また、必ず会おう。ルーク、俺は君だから助けにきたんだ。そのことを忘れるな。決して君がジェダイだからではない」
ディンは力強く頷いた。腕の中のグローグーが元気に手を振っていた。
2人は、それぞれの船に向かって歩き出した。再会を約束した別れは初めてだった。かつて、地平線の向こう側に何かがあると信じていた。今は、その何かが自分の隣にいるのだとわかる。
ルークはすっかり温かくなった手を胸にあて、美味しい茶葉とそれに合うお菓子について考えはじめていた。
―おわり―
***言い訳***
ディンは意識しないと苗字呼びしちゃうので、うっかりスカイウォーカーと呼んでいます(見つけた!いた!生きてる!よかった!と思っています)
ルークはジェダイマスターとして相応しい振る舞いをしようとしているので一人称が私、ですが、ただのルークのときは僕といいます
ディンはダダなのでグーちゃま語がうっすら理解できます
ルークに対して慈愛の感情が生まれたので、君と呼んでいます
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