白殊皎(しらよし こう)
2026-01-18 17:22:47
5605文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

眩き星に願いを託し

バレンタインの気配まだ薄きカルデアで土方は近藤へ贈り物をする。

この作品はWaveboxにてリクエストをいただきました!
◆リクエスト内容
「土方さんから近藤さんにチョコレートを贈るバレンタインの話」


 土方の部屋を訪れると、こたつの上に見慣れないものがあった。
 それなりの大きさで、丁寧な包装がされ、美麗なリボンがかけられたその品はどう見ても誰かからの贈り物に見えるのだが……
「歳、これは何なんだい?」
「あぁ、それか。あんたにやる、好きにしてくれ」
 部屋の入り口、一段高くなった畳の縁に腰をかけ本らしきものを読んでいた土方はぱたん、とそれを閉じると素っ気なく言ってみせた。
「好きにしてくれって……どう見ても贈り物だよ? おまえ宛なら私がどうこうしていい物じゃないだろう」
 土方はぽりぽりと額の辺りを掻いたあと、自分の隣に置いてあった外套をばさりと羽織る。
「俺から、あんたへ、だ。ならいいだろう」
 そしてちらりと近藤を見遣って言葉を紡いだ。
「え?」
「中身は食い物だ。好きにしてくれ」
 そうするとマスターに呼ばれているから、とそう言い残して部屋を出て行った。
「好きにしてくれって……
 近藤は困惑した表情で、それでも主に呼ばれているのならと引き留めも出来ず後ろ姿を見送った。

 ともかく、土方から自分への贈り物というのなら中身を確かめねば、戻ってきた時に礼も言えないだろうとリボンをほどく。
「たしか、これは貯古齢糖とかいう……
 中身は二段構えになっており、それは宝石のように煌めく小粒なチョコレートの詰め合わせだった。
 甘い匂いに包まれて、つい一つ手に取る。
 自分たちの生きた時代にはなかったもの。
 近藤もカルデアに喚ばれてから初めて口にしていたものであるが、それを何故土方が自分に贈ってくれたのだろうと考える。
 甘いものは確かに好物だ。
 そのことは土方もよくわかっているからこそ、これだけのものをくれたのだろうけれど。
 とりあえず手に取った一つを口に含む。
 口内の温度でとろりと蕩けるその口当たりは、舶来品に疎い近藤でも上質なものだとわかるほどだった。
 そんな上質なものを独り占めしてしまうのも申し訳なく思って、懐紙に数個ずつ分け、それを携えて部屋を出た。

「山南くん、丁度いいところに」
「局長。どうされました?」
 廊下で先を歩いていた山南を呼び止める。
「歳がくれたんだが、よかったら君にとも思って」
「土方くんが?」
 懐紙をほどいてそれ差し出すと、明らかに山南は固まった。
「山南くん?」
「はっ……。えっと、それは、土方くんから局長へのものですよね?」
 呼びかけられて硬直から戻った山南は、恐る恐るといった感じで聞き返す。
「そうだよ、立派な箱いっぱいにね。好きにしてくれていいと言われたから皆にもと思ったんだけど……
 それを聞いて山南はとんでもない、といった表情で首を横に振った。
「いけません、局長。いただくわけにはまいりません」
「え?」
 山南はそう言うと足早に近藤の前から立ち去っていった。

 次に会ったのは若い姿の永倉だった。
 同じようにチョコレートを差し出したのだが……
「へっ!? 土方からの? や、ちょっくらそれは……遠慮しとくぜ局長」
「?」
「土方の野郎に恨まれたくないからな」
 またもや逃げられた。

 もうこれは、土方からのもらい物だという事を隠して渡した方がいいのではと思い次に出会った沖田にはそうしたのだが……
「それ、土方さんからのもらい物でしょう? まぁ沖田さんは土方さんなんか怖くないですからもらってあげますけど」
 沖田は受け取ってくれたが、出所は何故かバレた。

「あ、やべ」
 疑問符だらけで一度部屋(土方の)に戻ろうとしたところ、廊下の曲がり角でそんな声が聞こえた。
「さいとうくん!!」
 咄嗟に走って声の主を捕まえる。
「はい、はい、はい、斎藤です。どうぞそのチョコだけはご勘弁を!」
「君もなのか……
 三者三様だが、あまり喜ばしくないような反応に近藤はしょんもりと肩を落とす。
「え、近藤さん、ひょっとしてご存じない……?」
 近藤の反応に斎藤はぽろりと漏らした。
「なにを? まさかこの貯古齢糖の中に何か入ってるとでも? でも総司は……
「あー……
 貧乏くじを引いた、とでも言いたそうな表情で、斎藤は頭を抱え壁に突っ伏した。
「いいですか、局長。今はここの時間で何月でしょう」
 やがて意を決したように近藤に向き直る。
「二月、だと思ったけれど」
「その通りです。では今世の二月には何があるでしょう。ちなみに元は西洋の文化です」
「何と言われても……思い当たる節はないのだけれど」
 半分据わった目で近藤に問題を出し続ける斎藤は結構怖いものがある。
 西洋の文化と言われても、含蓄は深くないしと近藤はたじたじと後ろに下がった。
「やっぱりご存じないんですね……。ちゃんと説明しておいてくださいよ、ふくちょぉ~……
 は~ぁ、と長く息を吐き出して斎藤はここにいない土方に恨めしそうな声を上げる。
「斎藤君?」
「はい。まずそのチョコレートのお裾分けはご遠慮いたします。ご自身で全部、どうぞ。これは隊士全員の総意です。沖田は特別中の特別です」
「?」
「あと一週間ほどで嫌でもどうしてだかわかりますが……ご説明申し上げます」
 そのあと、やたらと丁寧な口調と開き直った顔で、斎藤は続けた。



 その後、土方の部屋、食堂、ボイラー室の横、各所を走り回る近藤の姿が目撃された。
「何じゃ、あれ。お前んとこのヘッドじゃろ?」
「そうですよ~」
 沖田総司は織田信長の問いにあっけらかんと答える。
「なにしてんの?」
「土方さんを探してるんです。見つかれば落ち着きます」
「あやつならマスターとシミュレーションルームじゃろ」
「じゃあ教えてあげてください」
「やだね。わし、あやつらの使いっ走りじゃないから」
「ならそっとしておいてあげてください」



 近藤の動きが止まったのは、まさにシミュレーションルームの前だった。
「としーーーーーー!!」
 扉の前に立ちマスターと何かを話していた土方にほぼほぼタックルをかます。
「うぐっ……
 うっかりそれがいいところに決まったらしく、土方は前のめりになってその場にうずくまった。
──近藤さん!?
 少女マスターはびっくりした様子で手元のタブレットを胸に引き寄せる。
「あ……これは主……。失礼を……
──うぅん、話は終わったところだったからいいけど、どうしたの?
「少々、と……土方に話がありまして」
──お手柔らかにね?
「申し訳ありません……
 項垂れながらも土方の外套の襟をしっかりと掴んで離さない近藤にマスターは苦笑いをした。
 そして土方は近藤に引きずられるようにしてマスターの前から姿を消した。



 勝手知ったる土方の部屋のロックを解除して中に入る。
「さて、歳。どこから話そうか」
 土方を畳縁に座らせると、近藤は腰に手を当ててその前に仁王立ちになった。
……このチョコのことか? 近藤さん」
 近藤のタックルが決まった腰の辺りをさすりながら土方は上目遣いに見上げる。
「斎藤君に聞いたよ。今日はまだその日ではないけれど、当世の日本では二月十四日、想い人へ贈り物をしたり、貯古齢糖を渡すそうだね」
「斎藤か……
 土方はふーっと息を吐き出して立ち上がった。
「この貯古齢糖、どういうつもりで私にくれたのかな? 高級品と見たから独り占めするのももったいないと思って、皆に分けようと思ったんだけど、総司以外皆一様に受け取ってくれなくてね」
 すこし唇を尖らせてちゃんと答えなさい、と言った顔で近藤は土方の顔を覗き込む。
「あんたはそうするだろうと思ってたんだが……。あいつら……いらん気を回しやがって」
「とーし!」
 誤魔化すな、と詰め寄ると土方は降参だ、と言うように胸の前で両手を挙げた。
「斎藤に行事の内容を聞いたんならわかるだろうが。それは俺からあんたへの気持ちだ」
「つまり、恋人の私に、想いを伝えるためにくれたんだね?」
「あぁ」
「でも私はその行事を知らなかった」
「それは知ってる」
「じゃあ何のために!」
………………
「とーし!!」
 黙りこくろうとする土方に、再び近藤は詰め寄った。
……あんたに、誰かが教える前に、誰よりも早く贈りたかった」
 そっぽを向いて土方は続けた。
「どうせ数日経てば意味は知れるし、他のやつもあんたのところに来るだろう。マスターや他のやつが渡すより先にあんたに受け取って欲しかっただけだ」
「なら、そう言ってくれればよかったのに」
「言えねぇよ……んなガキみたいなこと」
「そんなことないよ、歳」
 近藤は土方の頬に手を添え、自分の方を向かせた。
「私は鈍いんだ。ちゃんと言ってくれないとわからないよ」
………………
 土方はしばらく近藤を見つめたあとゆっくりと口を開いた。
「あんたが好きだ」
「うん」
「あんたとずっと一緒にいてぇ」
「うん」
「いつも、何をするにも、あんたの一番でいてぇ」
「うん」
「もう俺を……置いていかねぇでくれ」
 そこまで言うと土方は近藤の背に腕を回し、強く抱きしめた。
「苦しいよ、歳……
「返事してくれ……近藤さん」
「うん……。私はもう、どこにも行かないよ……ずっと、一緒だ」
 いつしか始まっていた土方の啜り泣きを聞きながら、近藤はぽんぽんとその背を叩き抱き返す。
 二人は抱き合ったまま時間だけが流れていった。



「じゃあ今回の死に番は斎藤さんだったわけですね」
 サーヴァント達で賑わう食堂の片隅で、新選組隊士たちが集まっていた。
「も~勘弁してよ……
 斎藤はげっそりとした顔でコロッケ蕎麦を前に頭を抱えている。
「のびますし、ふやけちまいますよ。まぁ、俺のところには来なかったっスからよかったです」
 そもそもそんな風習知らなかったし、と原田は同情の欠片もない顔で自分のカレーを頬張っていた。
「僕のところにも来なかったな。運がよかったと思っておくよ」
 知らなくてチョコレートなら受け取ってしまっていたかもと藤堂が少し顔を青ざめさせて言う。
「いやはや……斎藤君には感謝しているよ。私ではどうしたらいいかわからなかったからね」
「山南さん~そこで一言『それはバレンタインの贈り物ですよ』とでも言ってくれたらよかったのに~」
「そうしたらバレンタインの説明をしないといけなくなっただろう!?」
「してくださいよぉ~」
 胸の前でバツ印を作り、顔を引き攣らせる山南に斎藤はうわーん、と泣く真似をしてみせた。
「知っててよかったぜ……危うく鬼の餌食だ……
「餌食になってくれりゃよかったのに……
 ぼそり、と呟いた永倉に斎藤も呟きで返す。
「されてたまるか!」
「あぁん? 素直にお前が犠牲になっときゃあ平和だったんだよ!!」
「はいはい、やめましょうね。ここ、食堂ですよ」
 売り言葉に買い言葉、二人が睨み合ったところに沖田が遮る。
「でも、本当に良かったですよね、沖田さんが豪勢なチョコを買う土方さんを目撃してて! そしてバレンタインが近いことを皆さんに周知して!!」
 一番のお手柄は私です、と全員を見回して続けた。
「そうだね。バレンタインが近いとわかってはいたものの、まだ早いから思い当たらなかったかもしれないし」
 山南が心底ありがたそうに言う。
「まぁ、副長がチョコを買って渡す相手なんて、一人しかいないけど、バレンタインと来ちゃね……
 その点では沖田ちゃんに感謝、と斎藤は手を合わせた。
「ということで、お茶請けにどうぞ」
 ばーん、と口に出しそうなほど大仰に沖田は近藤からもらったチョコレートを皆の前に差し出す。
 どうやら近藤は沖田に渡した分は贔屓目にしてあったらしく一人一つなら数は足りている。
「しかし、本当に高級品だね」
 山南が感心したようにそれを眺め回す。
「沢庵しか関心がないのかと思ってたけど、あの人味わかるの?」
 だとしたらもったいないよね、とお裾分けに預かった藤堂が呟く。
「土方さんは沢庵が異常に好きなだけで、味覚はしっかりしてますよ。まずい沢庵とか絶対認めませんし」
「そうなんだ」
 それでも基準は沢庵なんだと呆れて藤堂は返した。
「近藤さんに食べさせるものですからね~、生半可なものじゃ許さないでしょうよ。試食もしてじっくり吟味して買ってましたから」
「ちょっとだけ見たかったかもっス、その光景」
「マジか、俺は見たくねぇなぁ。あの野郎がチョコ食って考え込む姿なんぞ」
 全員が全員言いたい放題だが、とにかく新選組隊士たちは馬に蹴られずに済んだようである。



「は……くしゅ」
「歳?」
 やっと二人でこたつに納まり、チョコをつまんでいたところに、土方が彼にしては可愛いくしゃみをした。
「誰かに噂されたか?」
「かもしれねぇな。まぁ大体予想は付く」
「ふふ」
「近藤さん?」
 また一粒、チョコレート口に含んで近藤は笑みをもらす。
「明日は、皆に惚気て回るからね」
 覚悟しておきなよ、と近藤は片目をぱちりとつむった。
「──それは、勘弁してくれ」
 土方は片手で顔を覆い、耳まで赤くなった。
「今日驚かせてしまったから、主にも報告しないとね」
「だから……
「だーめーだ。私を困らせた罰だよ」
 そうして顔を上げた土方の口に、チョコレートを一粒押し込む。
……甘い罰だな」
 土方は呟いてその近藤の手を取った。
「どうしたら、阻止できる?」
 そしてにや、と笑って指先に口づけた。
「させないよ」
 近藤もそれに対して華のように笑ってみせた。
「それは残念だ」
 二人の夜の時間は静かに甘く流れていくのだった。