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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第32回お題「新年」or「和服」
両片想いの赤安。
あかいさんに告白されたまま返事できずにいるれいくんは…
お正月を一緒に過ごす赤安。生活感のあるふたりがいます。
大晦日の日。赤井と一緒に年越しそばと天ぷら、そしておしるこを食べた。
気づけば、時計は一月一日の零時を指していた。
赤井と、「あけましておめでとうございます」と新年の挨拶を交わし合い、共に年を越す嬉しさを降谷は実感していた。
しかし赤井は、新年の挨拶を終えるとすぐに、「では一旦、俺はホテルに戻るよ」と言って、降谷の自宅をあとにした。
赤井は明日も自分の家にやってくる予定だ。明日も一緒に過ごす予定なのだから、このまま泊って行ってほしい
――
そう思ったが、口にすることはできなかった。その言葉がどんな意味を持つのか。恋愛事に鈍い自分にもよくわかっていた。
深夜に自分の家に居座らないというのが、赤井にとっての誠意なのだろうとも降谷は思った。
もし、自分が赤井と恋人同士だったならば
――
ふたりで夜を共にすることも、なんら不思議なことではない。そして、もちろんそこには特別な意味も含まれる。
自分があともう一歩踏み出していれば、今頃、恋人同士としてふたりで過ごしていたのかもしれない。
もしかすると、赤井も自分と一緒に過ごしたいと心の中では思っていてくれたかもしれない。
そう考えると、赤井と一緒に過ごす時間を自分のせいで失ってしまったような気がして、降谷はちくりと胸が痛むのを感じた。
赤井がいなくなると、部屋の中の静けさが際立つ。降谷は普段ほとんどつけることのないテレビをつけた。テレビの中の演者たちは、「あけましておめでとうございます!」と新年を祝う言葉を綴っている。
テレビの音をBGMに、降谷はキッチンに立ち、今日買った食材を調理しはじめた。まずは時間のかかる煮物から。何かに熱中していた方が、気分が落ち着く。とはいえ、要領よく調理をすれば、同時進行で複数の料理を作れてしまう。焼き物も作り終え、煮物も冷やして味が染みるのを待つのみという状況になるまで、そう多くの時間はかからなかった。
夜明けにはまだ遠い。降谷はテレビから流れる音声を遠くに聞きながら、いつしか炬燵の中で眠りについていた。
朝、賑やかな声で降谷は目を覚ました。
夜中、目が覚めて布団に移動したのは覚えているが、テレビの電源を消した記憶はない。テレビはバラエティ番組を流しているようで、笑い声が絶え間なく聞こえてくる。音量はそこまで大きくはないが、静かな部屋の中では際立って聞こえた。
スマホを見ると、赤井からメッセージが届いている。
『正午過ぎに君の家に行くよ』
降谷は慌ててスマホ画面の上部にある時間を見た。午前十時過ぎ。あと二時間ほどで赤井が家にやってきてしまう。
降谷は素早くシャワーを浴びて、キッチンに立った。
昨日スーパーで買ったお正月らしい食材も、寝る前に調理し終えたものが冷蔵庫に入っている。あとは赤井と約束している、お雑煮を作るだけだ。品数は多くはないが、正月気分を少しでも味わってもらえたらいいなと降谷は思った。
もし、来年も赤井と一緒に過ごすことができたなら、本格的なおせち料理に挑戦するのも楽しいかもしれない。
まだ年が明けたばかりだというのに、もう来年のことを考えている。
赤井と一緒ならばきっと楽しいだろう。もし、今の関係からもう一歩先に進めば、さらに楽しいことが待っているかもしれない。
お雑煮をほぼ作り終えたところで、赤井がやってきた。
赤井には炬燵の中に入って待っていてもらい、すぐに餅を焼く。
真っ白な餅にちょうど良い焼き色がついたところで、お雑煮の上に添えた。
初めて見るわけではないだろうが、赤井は興味津々といった様子で、雑煮を覗き込んでいる。紅白のかまぼこに、焼き色のついた餅が正月らしさを演出している。鶏肉、大根、にんじん、三つ葉も入っていて、色合いも鮮やかだ。
昨日仕込んでおいた、数の子、海老の入った煮物、伊達巻きなども炬燵の上に並べた。赤井と向かい合って座り、「いただきます」と声を揃えて言う。
赤井はあまり食べる方ではないイメージだが、昨日同様、赤井は自分の作った料理を次から次へと口にした。
赤井が雑煮を食べている姿など、これまで一度も想像したことがなかったが、赤井はあっという間にお椀を空にしてしまう。
日本酒などのお酒があればさらに良かっただろうが、いつ呼び出しがかかるかもわからない状態では、禁酒せざるを得ない。
降谷はお酒の代わりに温かい緑茶を淹れて、赤井の前に置いた。
つけたままになっていたテレビはニュース番組に切り替わり、初詣の様子を映し出している。
「赤井は、初詣とか行くんですか?」
「今のところその予定はないな。君は?」
「僕も今のところ、行く予定はないです」
神社やお寺の付近は渋滞を免れないだろう。何かあれば即動かなければならないこの状況で、身動きの取れない可能性のある場所に赴くのはリスクがある。
赤井は興味深そうにテレビを観ながら言った。
「君はああいう和装は持っているのかな」
ちょうどアップでテレビに映し出されているのは、二十代前半と思われる袴姿の男子たちだ。
周囲は洋服を着ている人が多いので、着物を着ている人はよく目立つ。カメラも自然と目立つ人の方へ向けられているようだった。
「いえ、僕は持っていないです。もし着るとしたらレンタルでしょうね。和装に興味があるんですか?」
「俺自身はあまり興味はないが
……
君に似合いそうだと思ってな」
自分が袴姿になっているところを想像する。童顔といわれる見た目をしているので、さらに幼く見えてしまうのではないかと頭の隅でちらりと思った。
「いや、僕よりも赤井の方が似合いそうですよ。いつか着てみてください」
降谷は赤井が袴を着ている姿を想像した。赤井は身長も高く、艶のある黒髪をしている。周囲の視線を独り占めしてしまうほど、和装も似合うに違いない。
だが、赤井が和装をしたいと思うのかどうか、降谷には見当がつかない。赤井はこう続けた。
「もし着るとしたら
……
君と一緒のタイミングがいいと思っているよ」
赤井の意外な言葉に、降谷は少し驚く。赤井の袴姿を見てみたいという気持ちも相まって、降谷はささやかな提案をしてみることにした。
「来年の正月、和装してみます?」
「それもいいな」
赤井がフッと笑う。
それ“も”? 赤井は何か別のタイミングを想像していたのだろうか。
思案してみるが、すぐに思いつくものはない。何かの式かイベントを指しているのだろうか。
テレビは再び、バラエティ番組へと戻ってくる。
もし一緒に和装をする機会があるとしたら、嬉しいことや楽しいことを共有できる場であるといい。
そのためには、一日でも早く組織を壊滅させなくては
――
そんなことを思いながら、温かい緑茶で喉を濡らす。
「今年こそ、組織を壊滅させたいですね」
「ああ」
赤井が力強く頷く。赤井がいれば、さらに心強い。
そして今は、各国の捜査機関と連携し、信頼できる仲間がたくさんできた。組織を壊滅させるのに、最も良い機会が巡ってきているともいえる。このチャンスを逃さないよう、心してかからなければと降谷は改めて心に誓う。
もちろん、組織以外のことでもやらなくてはならないことは山のようにある。日々、この国を脅かす脅威は増しているからだ。
まるで自分の今の気持ちを映し取ったように、テレビでは“今年の抱負”を出演者らが語るコーナーが始まっている。
ちょうど年始の良い機会なので、赤井にもきいてみようと降谷は思った。
「赤井は今年、何かやりたいことはありますか?」
赤井は箸を置いて、「そうだな
……
」と腕を組み、考えはじめた。やりたいことが見つからないのではなく、やりたいことを選び取っているような間があった。
普段の自分ならば、赤井にこうした問いかけはしていないだろう。正月の雰囲気にのまれて、気が緩んでしまっているのかもしれない。
暖かい食べ物と炬燵の温もりも手伝って、身体もぽかぽかとしている。少し熱を冷ましたほうがいいかもしれない。
降谷は水の入ったペットボトルを取りに、席を立とうとした。ちょうどそこで、赤井が口を開く。
「
……
零君、と呼びたい」
降谷はぴたりとその場に静止した。
「
……
え?」
赤井の言う言葉を、降谷はすぐに理解することができなかった。赤井はもう一度、今度はゆっくりと告げた。
「君のことを、“零君”と呼びたい」
「
……
れいくん?」
「ああ」
まさか自分に関することを言われるとは思わなかった。しかも、自分の下の名前を呼びたいのだという。
赤井の本意を理解することはできない。けれど、自分とより親しくなりたいと想ってくれているのだということは、手に取るようにわかった。
赤井に「零君」と呼ばれるときの自分を、降谷は想像する。平静でいられるか、降谷にはあまり自信がなかった。
「えっと
……
仕事をしているとき以外だったら、いいですよ」
そう返すのが精一杯の降谷に対して、赤井は穏やかな笑みを浮かべて返事をする。
「了解」
仕事のときとは異なる、やわらかな口調での“了解”。
形式上、三日までは正月休みということになってはいるが、明日からは仕事を開始する予定になっている。
このぽかぽかとした雰囲気から抜け出せるか、降谷は少し心配になった。
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