冒険の途中、ブレイブアサギ号はキッサキシティの港に停まった。分厚い上着で体を包み、ニット帽、マフラー、耳当て、それぞれ身につけてリコ、ロイ、ドット、ウルトは街に出た。一面真っ白な雪に覆われた地面は、踏み込むと少し沈む。でも力を入れても深くは入らない。空から粉雪がゆっくりと舞い散る中、マスカーニャはぶるぶると震えてリコの腕にしがみついている。一方、雪にはしゃぐ男児が一人。
「うおー!どこもかしこも真っ白だぜ!すげえなヤミラミ!!」
ウルトが目を輝かせて言うと、ヤミラミも両手を上げてはしゃぐ。ラウドボーンの頭上から火の鳥が落ちると、雪がみるみるうちに溶けて沈んでいった。どうにか拾って、しばし歩いた彼らはキッサキこおりまつりの会場に到着した。氷をつかった様々なパフォーマンスやアートが見れるお祭りだ。中心には大きなアイスリンクが設置され、人やポケモンがスケートをしながら踊っている。それを見たウェルカモはステップを踏みながら、ドットの手を引っ張っていく。
「ちょ!?ウェルカモまったまった!」
ドットの制止を聞くことなく、ウェルカモはリンクに入っていった。ドットの体をくるくると回しながら滑り、華麗に舞う。さらにボールからサーフゴーとデカヌチャンも飛び出して、みんなで踊る。他のイベント客の目も釘付けだ。
「ヤミラミあれ見ろ!石と氷の彫刻だってよ!行くぞ!!」
ウルトはヤミラミと共に駆け出していき、リコとロイとパートナーたちは取り残された。二人は顔を見合わせた。
「僕らはゆっくり回ろっか」
「そうだね。マスカーニャ、ほらあったかいもの食べに行こう」
彼らは近くにあるきのみスープの屋台に向かった。スープを飲んだマスカーニャはあたたまって元気が出たのか、ラウドボーンの火の鳥と自分の花を入れ替えるマジックを見せた。店主や他のお客さんからも拍手を受け、マスカーニャはご満悦だ。
それから少し歩いたところで、とある屋台のお兄さんに二人は声をかけられた。
「そこのお二人さん!とけないこおりのミニ彫刻づくりに興味ない?」
「彫刻づくり?」
「そう。こおりを削って好きな形にしちゃうのさ!とけないこおりだから、持って帰ってずっと飾れるよ!」
「楽しそう!リコ、やろうよ!」
「うん!」
屋台の椅子に座ると、モンスターボールと同じくらいの大きさのとけないこおりが運ばれてきた。屋台のお兄さんは彫刻づくりの説明を始めた。
「この氷を、ここにある工具を使って好きな形にするんだ。ポケモンの技で削ってみてもいいかもね。怪我すると危ないから軍手と、あと目に入らないようゴーグルつけてね」
「なるほど…なに作ろうかな」
「ちなみにね〜、カップルはよく相手にプレゼントするためのもの作って交換し合ってるよ〜」
「!!私たちそういうのじゃないです!!」
リコは両手を前にしてブンブンと振った。お兄さんはあっはっはと笑い、ポケモンたちは顔の赤いリコを不思議そうに見つめていた。するとロイがリコの方を向いて言った。
「よくわかんないけど、せっかくだしお互いに作って交換してみようよ!」
「!うん!ロイの好きなもの考えて作るね!」
お兄さんはニコニコ微笑みながら二人に手を振って次のお客を呼び込みに向かった。
二人はお互いどんなものができるか、完成までのお楽しみにするために少し距離を開けた。リコは氷を見つめてロイのことを考える。ロイの好きなもの。ラウドボーン、歌、ポケモン、レックウザ、タイカイデン、ルカリオ、ルシアス、いにしえのモンスターボール、バトル、辛いもの、体を動かすこと、写真、工作、冒険。ロイが好きなものはいくつもある。他には何があるだろう。改めて考えてみると、知らないこともいっぱいあるのかも。もっと知りたいな。視線を右に向けて、彫刻に励むロイの横顔を見てリコはイメージを固めた。
一時間くらい経過して、リコとロイは向かい合った。お互いに作った彫刻のお披露目だ。
「じゃあ僕から!じゃーん!」
「わあ!マスカーニャの花!」
「へへ。リコといえばマスカーニャだって思ったんだ〜」
ロイの言葉を聞いたマスカーニャは、腕を組んで頷く。ルカリオのメタルクローも使って細かく削られた氷の花は、本物と遜色ない見た目をしている。リコは花を手にとって天井に掲げた。ランプの光に照らされた氷の花は、受けた光をばら撒いて輝き、まるでシャンデリアのようだ。
「ありがとうロイ。大事にするね。じゃあ次は私から…はい」
「おお…!スゴい!」
リコの両手の上に乗っているのは揺らめく炎のように先が伸び、中心が丸まった氷だった。さらに氷のあちこちに音符やモンスターボール、メガストーン、雷を模した形が作られていた。
「ロイの好きなもの考えてたら、頑張って彫刻作ってるロイの顔が見えて…ロイって好きなものに向かっていつでも燃えてるって思ったんだ」
「そっか…!ありがとうリコ、すっごく嬉しいよ!!」
二人はお兄さんから彫刻を持って帰るための箱と袋を受け取り、屋台を後にした。次はどの屋台に行こうかと笑顔で話しながら、リコはロイに渡した彫刻の裏面のことを考えていた。リコは彫刻を作り終えた後、こっそり、ハートを書き込んだ。きっとずっと残るものだから。ロイはいつか気づくだろうか。気づかれる前にそういうのになれたらいいな。そんな願いを込めて。
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