珍しい武器に興味を持つフリンズさんの話


 ――カランカラン
「いらっしゃいませ……あっ」
「こんにちは。お久しぶりです」
「フリンズさん、お久しぶりですね」
 店の扉を潜ってきたのは、常連客のフリンズさんだった。
 
 ここは父が経営する骨董品店で、私はその手伝いを普段しているため、フリンズさんとも面識が少しある。今日は父が仕入れの関係で不在なので、私だけが店頭に立っているため少し心細かったのだが、彼がお客さんであるならば安心してしまう。
「最近入ったお勧めの商品などはありますか?」
「そうですね……フリンズさんのお好みに合いそうなのは……こちらの外国産の古いコインなどは、お眼鏡にかないますでしょうか?」
「おぉ……良い品ですね。手に取っても?」
「えぇ勿論どうぞ」
 まだ店頭に並べていなかった商品を、すぐ裏の棚から取り出して彼の前に並べる。商品を手に取って静かに、そして楽しそうに観察する彼を、少しだけ盗み見するのが私の好きな時間だった。

「おや?珍しいですね。古刀や小刀の扱いもされているのですか」
 壁際に設置してあったガラスケースを覗き込んでから、彼が私の方へ目線を寄越した。
「こちらは先月からですね。父が稲妻から仕入れてきたみたいです。私だけが店頭にいる時は、このように鍵付きガラスケースにしまったままですが……ご覧になりますか?」
「良いのですか?」
「ふふふ、フリンズさんは常連さんですからね」
 そう答えると、彼は頬が緩む笑顔に変わった。とっても嬉しそうで、私も楽しくなる。ケースの鍵を開けて「どうぞ」と、ケースの前へ進むように促す。
 展示されていた小刀を手に取り、鞘からスラリと引き抜き刀身を露わにする。
「とても綺麗な刀身ですね。展示用の刀かと思いましたが」
「実際に使えるみたいですね。なのでケースで保管しているわけです……
「なるほど。女性一人での店番では、たしかに心配になりますね。店主の考えに強く賛同します」
 私の方へ向き直り、優しい笑みを浮かべながらそう答えてくれた。私の方は、そんな優しいフリンズさんの気遣いが心に染みて、少しそわそわしてしまった。

 小刀をしまったあとに、彼は隣にある古刀を手に取った。
「こちらも素晴らしいですね。一体どのような方が使われていたのか、とても興味があります」
「不勉強で申し訳ないです。……父がいれば説明できたかもしれませんが……
「ふふ、問題ありませんよ。次の来店時の楽しみにさせていただきますね」
「それはとても助かります」
 ほっとした表情を浮かべてしまい、それを見たフリンズさんが小さく笑っていた。

 ――カランカラン
「あ、いらっしゃいませ」
 店の入り口の方を見ると、別の男性のお客様がいらしたようだ。見覚えがないので、新規客かもしれない。
「フリンズさん、少しお客様の方を見てきますので、どうぞ自由にご覧くださいね」
「えぇわかりました」
「あぁ、そういえば店の隅に、試し切りに使える藁が巻かれた木、巻藁という物もあるので、ご興味あればどうぞ」
「そんなご用意まで……店主は用意周到ですね」
 頷いてくれたフリンズさんを確認して、先程の新規客の方へ向かおうとしたが、もうすでに退店する足取りだった。あまり興味のある商品は無かったということかな……。それはそれでよくある事なので、フリンズさんの方に戻ろう。
 と、思ったその時。

 ――ヒュン
……ひぃっ!」

 目の前を、あの古刀が飛んでいくのが見え見えた気がする。先程の客が小さな叫び声を上げた。
 私がフリンズさんの方に向き直った時に見えたのは、刀の鞘からパチンと鍔を押し上げ、一息に長い刀身を抜き出し、藁束を一刀両断する姿だった。そしてそのまま刀は彼の手を離れ、店の出入り口の壁に突き刺さったのだ。

「あぁ、大変失礼しました。手が滑りまして……やはり慣れない武器の扱いは難しいですねぇ。そこのお方、ご無事でしょうか?」
 コツコツ、と靴音を立てながらフリンズは店の入り口へ向かい、壁に突き刺さった古刀を引き抜く。抜き身のまま手に携え、声も出せずに怯えるその客に問う。
「おや、貴方のポケットに……何か不要な物が入っていませんか?」
……あっ」
 そう小さく呟くと、その男性客はポケットから小さな箱を急ぎ取り出し、フリンズさんに投げつけて、一目散に店外へ飛び出して行った。
「ここが無法地帯とはいえ、骨董品をそのように扱うことは許せませんね」

 一部始終を声も出せずに見ていた私は、緊張が解けてしまい、その場でペタンと座り込んでしまった。再びコツコツと靴音を鳴らして歩く彼は、ガラスケース前に落ちていた鞘を拾い、長い刀身をものともせず静かに納刀した。それをケース内に置いてから私の目の前で片膝をついて座り、先ほど取り返した小さな箱を差し出す。
「こちらをどうぞ」
「あ、はい……
 受け取る私の手が、少し震えていることに今自分で気がついた。
――貴女を怯えさせるつもりは無かったのですが、少々調子に乗りましたね。あぁ、なんという失態を……お怪我はありませんか?」
「はい、怪我は何も……ただ、気が抜けてしまったみたいでちょっと立てそうにないですね……あはは
「そうですか……では、少し失礼して――
 そう言うと彼は、私の足裏と背中に手を添えて、さっと抱きかかえてしまう。突然の浮遊感に「きゃっ」と小さく悲鳴を上げてギュッと彼のコートを掴んでしまった。頭上から、ふふっと小さな笑い声が聞こえた。
「大丈夫ですよ、そちらの椅子までお運びするだけです」
「え、あはい」
 そのまま椅子に下ろしてもらって安心したのも束の間、目の前に自身が座る椅子を準備して腰掛け、こちらに微笑みかけるフリンズさん。
「貴女が安心してくださるまで、僕はここに居ますからね」
……ありがとう、ございます?」
それは安心できるかもしれないが、心の安寧は手に入るのか?という疑問が語尾に出てしまった。


「ライトキーパーさんは、刀まで扱うことあるんですか?」
「滅多にありませんが、多少の心得はありますね」
「あるんですね……



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