「っつ〜わけでよォ。協力してほしいんだわ」
ここは、生身の挑戦者改め統一王者行きつけのバーだ。弟には留守番を厳命し、一人で来た。
事前に調べたとおり、ダンシング・グリーンは別の仕事で不在。彼女はカウンターで一人、酒を飲んでいた。
顔見知りだからと我ながら馴れ馴れしく話しかけたが、特に厭うこともなく、にこにこと応えてくれる。
――お人好しの現統一王者サマ。いろんなヤツに話を聞いたところ、コイツはあちこち歩き回って、他人の困りごとを解決しているようだ。彼女の評価は、概ね「良い人」だ。
コレが、戦場帰りの『本物』なのも間違いなく裏を取った。異国の王の護衛
……おそらく、将軍クラスなのだろう。あの機会兵の暴走の時、助けられたのはオレたちだけではなかった。きらきらと目を輝かせてその獅子奮迅の戦い様を語る市民が多かった。
そして、闘技場であっさりオレたちを殺した慈悲のなさ。
それらの印象は、まるでバラバラのように見えるが、矛盾はしない。
――だって、誰でも、ペルソナを持っている。
コイツは、相手に応じて、丁寧に演じ分けているだけだ。それはある意味嘘であり、同時に誠実さでもあるのだろう。
今、琥珀色の液体が入ったグラスを両手で持って唇をつけている仕草は、妙に可愛くて幼くも見える。
だが、その酒はこの店で一番キツいものだし、コイツの本質は暴力装置だ。本来の目的を、忘れてはならない。
「困るだろ。女神サマみてェに崇拝されんの」
「う〜ん。
……時々いるけど、そういうヒト」
「いんのかよ! 怖ぇな〜」
冗談めかして笑いながら、脳みそをフル回転させる。こちらがきれる
手札は多くない。
「オレはいいんだけどよ」
だから、『速攻』だ。これで駄目なら、いったん引く。同じ轍は踏まない。
その表情を観察しながら、ひらりと片手を仰ぐ。
「アンタが
恋人と一緒のとこなんか見たら、弟は逆上しちまうかもしれねぇよなァ」
その瞳が、ふ、と僅かに揺れた。
――効いた。じゃあ、畳み掛ける。
「恋人が襲われたら、困るだろ」
へらりと笑って、言葉を続ける。彼女は、グラスに口をつけたまま、大きな瞳でこちらを見た。ほんの数分前と変わらぬ可愛らしさのまま
――今、ぐっと体感温度が下がった。
底冷えする寒さに、海で溺死した時の冷たさを思い出し、ぞっと身震いする。だが、悟らせぬよう慎重に口を開いた。
「
……オレだって、弟を犯罪者にしたくねぇよ。だから、そのためにアンタの協力が必要ってワケ」
視線を交わす事、しばし。じわりと滲む汗に気づかれただろうか。
ゆっくりとまたたきをした彼女は、
――ふんわりと、微笑った。
「
……いいよ。困ってるみたいだし。何をするの?」
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